各国で異なる労働時間の考え方

2020 / 8 / 24 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks Editor

日本は今、働き方の転換点に差しかかっています。そのキーワードの一つが「労働時間」。
労働時間に関する世界のさまざまな法律や制度、考え方を知ることで、日本のルールを見つめ直し、サステナブルな働き方を考えるヒントが得られるかもしれません。


執筆:新海 美保

長野在住のライター。
主な分野は国際協力・交流・ビジネス、CSR、キャリア、教育、観光、防災など。


 

日本 アメリカ ドイツ フランス 韓国
法定労働時間(週) 40時間 40時間 48時間 35時間 52時間
時間外労働の上限(週) 15時間 上限なし 10時間 13時間 上記に時間外労働を含む
実質労働時間(年)※ 1644時間 1779時間 1386時間 1505時間 1967時間

※雇用者・自営業者含む全就業者平均の1人当たり年間実労働時間(OECD統計より。2020年7月時点)
参考 https://www.globalnote.jp/post-14269.html

 

表は、日本を含む海外の労働時間の比較です。各国の法定労働時間は、労働者の健康確保などを目的に徐々に短縮されてきましたが、その決定までに至るプロセスや実質労働時間は、国ごとに状況が異なります。

例えば、1936年に法定労働時間が週40時間に定められた後、82年に週39時間、2000年から週35時間となったフランスでは、政府の関与が強く、法律や規制を厳しくすることで労働時間の短縮を実現してきました。

他方、「自由主義」優先のアメリカでは、時間外労働の上限の定めはなく、実質的には使用者が時間を定めますが、時間外労働の割増賃金を義務化することで、間接的に時間外労働に歯止めをかける措置をとっています。

また、先進国のなかで特に労働時間が短いドイツでは、産業別に労働者と使用者が話し合って定める労使協定によって、所定労働時間や時間外労働の割増賃金などを決めることで、労働時間の短縮をはかってきました。さらに1994年に導入した「労働時間貯蓄制度」は、残業や休日出勤など所定外の労働時間を、銀行預金のように勤務先の口座に積み立て、後日、従業員が有給休暇などに振り替えて利用できる仕組みで、ドイツから他の欧州諸国や日本にも広がっています。

 

【労働時間決定の3つのモデル 〜労働時間の多様性を理解するために】
・「法規制優先型」:法律や規制を厳しくすることで労働時間の短縮を実現(例:フランス)
・「裁量型・市場型」:自由市場優先の考え方に基づき、実質的に使用者が労働時間や配分を決定(例:アメリカ、日本、イギリス)
・「共同決定型」:上記2つの中間(例:ドイツ)
参考:Berg,Bosch and Charest

 

このほか、アジア圏の国々は、欧米に比べて労働時間が長くなる傾向にありますが、経済や社会の成長に伴い、効率的でフレキシブルな働き方も進んでいるようです。例えば、世界各国から様々な企業が進出するシンガポールは、効率重視のフレキシブルな働き方が浸透しつつあります。

労働時間に関する各国の法律や制度は、それぞれの文化や規範、歴史と密接に絡み合いながら徐々に形成されてきたものであり、一朝一夕に比較することはできません。しかし、一見無機質に見える法律や制度を比較することで、各国の時代背景や社会規範、人々の考え方を垣間見ることができます。

他方、規制や介入が強すぎると、労働者の自律的な労働時間の選択に歪みを与えかねません。法や制度は、あくまで個人や権利を守るためのものであり、企業や雇用主はそれを尊重する必要があるでしょう。そして、働き手も、法や制度について正しく理解し、それぞれに合ったサステナブルな働き方を見つけていけるとよいですね。

 

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