ENW Lab.
社労士さんと考える「個」を活かすチームのサステナブルな働き方
エコネットワークス(以下、ENW)の沿革を見ると、このような言葉があります。「『個』としての強みを活かしつつ、チームで連携することで価値を最大化する、個をベースにしたネットワーク型の組織」。「個」を重視するENWでは、関わる人たちの自律的な働き方を大切にしてきました。ただそこには課題も多く、2018年から進めているのが、「ワークルール」策定から始まる一連の環境整備です。コロナ禍で働き方が変わりゆく今、これまでの歩みを振り返りたいと思います。プロジェクトをリードする社労士の星野 美佳さんに聞きました。
話:星野 美佳
社会保険労務士。社会課題解決に取り組む人のための社労士事務所サステナ代表。
取材・文:近藤 圭子
自由で自律的な働き方をみんなで作ろう
ーコロナ禍で、柔軟な働き方に注目が集まっています。
働く時間や場所の自由度を高める企業・団体が増えていますね。リモートワークの導入だけでなく、フレックスタイム制の導入・拡大、評価方法の見直し、業務委託も含めた契約形態の多様化など、雇用のありかたを見直す組織も多くなったと思います。ただ、実際に行うとなると、就業規則、報酬の決め方、雇用契約者の役割など論点が山のようにあって、今まさに作り上げているところという声を聞きます。
ーENWも例外ではないですね。社労士の星野さんがENWに関わるようになって働き方にまつわる情報を整理してきているわけですが、そもそも「ワークルール」の整備はどのようにして始まったのですか?
ENWを知った時、私自身も、よりフレキシブルな就業規則を作ってみたいとちょうど考えていました。使用者と労働者の二者対立を反映した硬直的なものではなく、個人の権利や働きやすさに焦点を当てて作ってみたいと。ENWは、ワークポリシーで「サステナビリティファースト」と明確にうたい、それに共感する人が集まっていますよね。社外から注目されがちなのはコロナ前から全員がリモートワークだった点ですけど、それよりも、一人ひとりが自由に働き方を作っている実態をおもしろく感じたんです。
ただ、代表の野澤さんが言うには「働き方の作り方は、形があってないような不文律になっていて、課題に感じている」と。そこで、ENWに関わる人にわかるよう明文化を試みたのが、プロジェクトの始まりです。
ENWは社員数が10人に満たないため、就業規則を作成する義務はありません。働き方に関する定めをする場合は、「就業規則に準ずるもの」として社員に周知する必要がありますが、より柔軟で他のどこにもない、自由で新しいワークルールの明文化ができるのではないか、と考えました。
ですから、ワークルールに始まる一連のプロジェクトの目的は、就業規則策定ではなくて、より自由で自律的な働き方をみんなで作っていくことにあります。
「理想的な働き方を一緒に考えたい」 パートナーへのメッセージ
ー具体的には何をしてきたのか、教えてください。
今、ステップ3と言えるところまで来ています。
ステップ1:2018年10月〜2020年3月
ENWの仕事をする上での課題の棚卸しと明文化
→上記を踏まえた「ワークルール集」の策定
雇用パートナーには「就業規則に準ずるもの」として適用される。
一方、業務委託パートナーも自身の働き方を考える上で参照できるもの。
ステップ2:2019年12月〜2020年8月
「サステナブルに働くためのヒント集〜働き方をデザインしよう〜」発行
パートナーの実践例を交えた働き方のノウハウ集
ワークルール作りのため1年以上にわたってパートナーの皆さんと議論すると、ENWが大切にする価値観が見えてきました。それで、価値観を体現する実践例を集めて、数名のパートナーと一緒にまとめたのが、ステップ2のヒント集です。「働く時間」「場所」「契約形態」「休み方」「健康なこころと身体」を5本の木に見立て、それぞれの幹にENWの価値観を描きました。葉や花となるのは、皆さんに聞いた実践例です。
ーステップ3はどうなるのでしょうか?
ステップ3は、今まさに悩みながら作っていて、ワークルール集のエッセンスや考え方を、業務委託パートナーとより共有できるものにする予定です。
まず、ステップ1で策定したワークルール集を“巻き物”風にバージョンアップしたいと考えています。たとえば休日のとり方なら、初めに「法律ではこう定められています」と書いて、くるくる開くとENWの考え方があるんです。「ENWでは休むことを大切に考えていて、1週間以上の長期休暇を推奨しています」と。さらにくるくる開くと「業務委託パートナーの皆さんと一緒に考えたい『休み方』」が。つまり順番に読んでいくと、日本の法律、それに対してENWではどういう考え方のもとでどんな運用をしているのかがわかるのです。そして、パートナー自身も自分の働き方のルールをどう作ったらいいのか、具体的に想像できるものを目指しています。
そんな情報提供と同時に、ENWというコミュニティ全体が何を目指すのかを手紙風にまとめたいと思っています。「あなたの人生の“働く”について、ENWは一緒に考えたいです。より良い働き方作りに協力させてください」というようなあたたかいメッセージとして。
一般的に企業では、サプライチェーンマネジメントの一環として、サプライヤーの労働環境をチェックすると思います。それに近いようですが、ENWとパートナーの関係は、「発注主と委託先」ではないんですよね。「巻き物」と「手紙」もチェックが目的ではなく、理想的な働き方を一緒に本気で作っていくための提案なんです。
なかには「フリーランスなんだから自分の働き方は自分で考える。そんなのいらないよ」と思う人もいるかもしれません。でも、サステナビリティファーストに共感するパートナーさんと一緒に、この場を育てていきたいという思いがあります。まだあまり形を詰めきれていないので、いろんなパートナーさんの意見を聞いてみたいです。
サステナブルな社会を目指す私たちは、サステナブルに働いてる?
ーワークルールの議論では、ENWの働き方の実態と法律とのギャップが話題になりました。一番大きな違いは何ですか?
時間に関する考え方です。ENWでは「働く時間も休む時間も自分で決める」ことがベースにあり、労働時間を業務成果を測る基準にはしていません。成果を出していれば、規定の時間数に達しなくてもOKです。一方で、現行法では時間で測る軸しかないので、どうしてもギャップが生まれてしまいます。裁量労働制は対象職種が限られていて適用できませんでした。こういう小さな組織では、一人が多機能の動きをせざるを得ず、同じ人の中に対象業務と対象外の業務が生じてしまうんです。検討の結果、ENWのワークルールでは、清算期間3ヶ月のフレックスタイム制を導入しています。
もちろん時間制限は、過重労働による健康被害を防ぐ上で大事ですし、今の法改正の議論は時間の縛りを厳格にする方向にあります。ただ、雇用契約でも時間で縛らないケースが増え、またフリーランスになって時間管理されずに働く人が増えている今、より自律的な働き方をしようとする人にとっては、実態と乖離があると感じます。
ー時間を縛らず、それでも長時間労働を防ぐには、どうしたら良いと思いますか?
一人ひとりが自分の働き方をきちんと考え、自分のルールを決めること。これに尽きます。そのために大事なのは、組織がメッセージを発することです。「働き方を考えましょう」と、雇用パートナーだけでなく業務委託パートナーに対しても。
フリーランスは時間を管理されないので、仕事が好きな人は働きすぎてしまうことがあります。でも、その働き方は、チームやクライアント、家族、社会に影響を与えます。ENWのアウトプットは、成果物としてクライアントに提出する原稿やレポートだけではありません。私たちはプロセスも含めてサステナビリティファーストでやる。そのメッセージをパートナー全員に向けて発し続けることが大切だと思います。
根底にあるのは「サステナブルな社会を目指す私たち自身が、サステナブルでなくてどうする?」という思いです。もっとも、サステナブルな働き方の定義は人によって違いますが、ENWは関わる人みんなが大きな方向としてサステナブルな社会を志向しています。これは大事なポイントではないでしょうか。
ー忙しいと見失いがちですが、サステナブルな働き方を意識し続けたいですね。
あきらめたくないですよね。サステナブルな働き方と質の高いアウトプットは両立できると信じ抜いて、実践していきたい。私自身も自分の仕事をするときにそう思っています。当然「そうは言っても今月は納期があるから……」のような本音はありますが、ときに妥協する時期がありつつも、大きな方向性としてはサステナブルに生きられると信じたいです。建前だと思ったら、実現しない気がします。
それから今思うのは、これから「時間的な制限を持つこと」はポジティブな要素になるのではないか、と。育児や介護、病気などで制限を得て、サステナブルな働き方を志向する人も多いと思いますが、人生のいろいろな制限はその人の力になっていくはずです。個人の働き方を会社の時間軸や社会通念に合わせる時代は、もう終わり。これからは、個々人の理想的な働き方を可能にするような仕事や組織を作っていくのがよいのではないでしょうか。ENWはそれに挑戦してきたチームです。まだまだ課題はありますが、よりよい形で実践を重ねていけるよう社労士としてサポートしていきたいと思います。