職業人生へのプロローグ ~ 15歳に職場体験を課すフランス

2019 / 2 / 22 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks


フランスの中学校は4年制です。その最終学年のカリキュラムには、3~5日間の「スタージュ(職場体験、企業内研修)」が含まれています。経済や企業社会を知り、実際の職場を体験することで進路選択に役立てることを目的に、2005年に義務化されました。

スタージュはどのような流れで行われるのでしょうか。フランス南西部の私立中学校に勤めるベテラン教師 Bさんにお話を伺いました。

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まずは3年次の進路オリエンテーションから始まります。生徒は、さまざまな進学先や職業に関する情報を基に、自分の興味や性格、能力、成績などに応じた進路を検討します。

学校年度も終盤の6月になると、履歴書と研修受入申請書の書き方を習います。これは進学先でのスタージュや就職活動など、生涯にわたって役立つ知識となります。

7月には必要書類が配布されます。スタージュの目的を明記した研修協定書が特に重要で、これは保護者、学校、企業の三者が署名・保管する公的な書類です。

多くの生徒は夏休みを利用して研修先を探します。「自分の夢や興味に応じた選択をする生徒はごく一部に過ぎない。自力で探してくる生徒もまれにいるが、親の勤務先を選んだり、知り合いの紹介で見つけた企業を選ぶ生徒が大半」とのことです。

夏休みが終わると、いよいよ最終学年に進級。Bさんの中学校では10月前半の1週間をスタージュに充てています。生徒は企業内を見学するだけではなく、簡単な実務を体験します。例えば、ヘアサロンではお客さんの髪の毛を乾かしたり、動物病院では手術に立ち会います。その他、車の整備工場でタイヤ交換をしたり、写真館では印刷方法を学びます。

5日間のスタージュが終わると十数ページのレポートを書きます。見学・体験した仕事を説明し、研修先に存在する職種から1つ選んで詳しく調べ、個人的な序論と結論を述べるものです。

研修の最後を飾るのは、クラスメイトと担当教師の前で行う口頭発表。研修先を紹介し、自分が一番興味を持ったことを説明します。また、このような職場体験で生徒は何を得られるのか、自分の考えを述べなければなりません。

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このように、フランスではスタージュを義務付けることにより、すべての中学4年生が企業に直に接する機会を得られるようになりました。研修レポートの執筆が義務付けられていることから、生徒は研修に真剣に取り組み、注意深く観察しようとします。興味深いことに、普段の成績は平凡な生徒が大変実りのある研修をし、素晴らしいレポートを提出することがあるそうです。

5日間という短期間で生徒が劇的に変わるわけではありません。それでも、15歳という年齢でリアルな職場体験をするメリットはあります。選んだ進路に自信を持つ生徒もいれば、憧れの職業が自分には向いていないことを悟る生徒もおり、いずれにしてもプラスの影響が得られるからです。

「自分は将来どんな仕事をしたいのか?」と10代前半から真剣に考える機会が中学4年生全員に与えられている。その点は実に「平等」の国、フランスらしいと思います。ただ、その機会を活用するかどうかは、あくまで本人次第なのです。

(執筆:西原渚 Nagisa Nishihara

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