資本主義を考える 『Reimagining Capitalism in a World on Fire』を読んで

2022 / 10 / 5 | 執筆者:山本 香 Kaori Yamamoto

化石燃料から再生可能エネルギーへ。大量生産・大量消費から循環型社会へ。
これまでの資本主義で前提とされてきたものが大きく揺らぎ、転換の時を迎えています。

昨年ベストセラーとなった斎藤 幸平氏の『人新世の「資本論」 』は、持続可能な未来を創るには「脱成長」が唯一の解決策であると論じました。その内容に強く共感する一方、それ以外の解決策は本当にないのだろうか?という疑問も浮かびました。

調べてみると、2020年 にレベッカ・ヘンダーソン氏による『Reimagining Capitalism in a World on Fire 』(邦訳『資本主義の再構築 』)という本が刊行されていることを知りました。
本書は、いま世界が直面している危機と資本主義の関係をひも解いた上で、資本主義を創り直す(=reimagine)必要があると提唱しています。Merriam-Websterの定義 によると、reimagineはto form a new conception of。つまり、私たちが当たり前に持っている「資本主義とはこういうもの」という認識を根本から変えることを意味しています。一方、「再び」を意味するre-という接頭辞からは、これまでの資本主義を改めて捉え直すという意味合いも感じ取ることができます。
そのあたりに「脱成長」との違いがあるのではないかと予想しつつ、これまでの資本主義の何が問題で、どう変われば世界はよくなるのかを、本書の内容に触れながら考えてみたいと思います。

問題の原因「企業の義務=株主価値の最大化」

本書は、これまでの資本主義において企業の唯一の目的が「株主価値の最大化」、つまり収益の最大化とされてきた点に触れ、その結果、市場が本来の機能を果たせなくなったと指摘しています。そしてそれが、大規模な環境破壊や経済格差、社会の仕組みの崩壊といった今私たちが抱える深刻な問題を引き起こしたとしています。

これまでの資本主義の問題をそう認識した上で、reimagine(再構築)していくために必要な5つの要素が提案されています。これらは、「パズルのピース」になぞられていることからも分かるように、すべてが揃って初めて意味をなすものと位置付けられています。

再構築に必要な5つのパズルのピース

① Creating shared value(共有価値の創造)
② Building the purpose-driven organization(目的・存在意義(パーパス)主導型の組織を構築する)
③ Rewiring finance(金融の回路の見直し)
④ Building cooperation(協力体制をつくる)
⑤ Rebuilding our institutions and fixing our governments(社会の仕組みを創り変え、政府を立て直す)

このうち③では、短期的に投資家の収益最大化のみを目的としたこれまでの資金調達の在り方を見直すことを、④では環境、社会、経済といった公共財の問題を解決するには、民間セクター単独ではなく幅広い協力体制が必要であること、⑤では、そのために政府にも働きかけていく必要があることを主張しています。

今回は、主に企業の果たす役割が大きいと考えられる①と②について、印象的な一節を引用しながらご紹介します。

共有価値の創造

…reimagining capitalism required embracing the idea that while firms must be profitable if they are to thrive, their purpose must be not only to make money but also to build prosperity and freedom in the context of a livable planet and a healthy society.(P36)
日本語訳:…資本主義を創り変えるには、企業は収益を上げるだけでなく、居住可能な地球と健全な社会という枠組みのなかで繁栄を築き、自由を確保することを目指すべきである、そうでなければ繁栄はあり得ないという考えを浸透する必要がある。(P46)

ノルウェーの廃棄物処理会社ノルスク・ジェンヴィンニング社は、エリック・オズムンゼンCEO主導の下、社会を良くするためのビジョン(=共有価値)を掲げて、高収益かつ革新的なビジネスへの変革に成功しました。
本書では、会社を創り変える過程が詳述されていますが、上記の一文はその意義を分かりやすく伝えています。新しい資本主義の下で企業が成長していくためには、人類がこの地球に住み続けられ、社会全体が繁栄するために価値を生み出すという視点が必要です。

パーパス主導型組織の構築

The widespread adoption of authentic purpose―a clear, collective sense of a company’s goals that reaches beyond simply making money and is rooted in deeply held common values and embedded in the firm’s strategy and organization―is an essential step toward reimagining capitalism.(P86)
日本語訳:信頼に足る確固とした、企業の目的・存在意義(パーパス)を全社で受け入れること――つまり、単なる利益確保にとどまらず、共通の価値観に深く根差した企業の存在意義を全員が認識し、戦略や組織に埋め込んでいくこと――が資本主義を再構築するうえで欠かせないステップである。(P104)

「全体的な」を意味するcollectiveは、この文脈では、一人ひとりがパーパスを認識し、組織としてその実現に向かう団結力を感じさせる、特に印象深い表現です。
本書ではまた、パーパスの共有が従業員の高パフォーマンスを引き出す事例が紹介され、パーパス共有→高パフォーマンスをもたらす働き方→財務実績の改善とつながる流れが分かりやすく示されています。
つまり、「共有価値の創造」や「パーパス主導型組織の構築」には経済合理性があるということを、本書は大事なポイントの一つとして伝えています。

未来に希望を持って

資本主義の再構築に向かう道のりは簡単ではありませんが、本書刊行から二年が経った今、ESG投資やマルチステークホルダー視点の情報開示などの動きは広がりを見せています。

本書を読むと、自分も資本主義の世界に生きる一員であり、従来の資本主義に伴うさまざまな問題に加担してきたこと、未来に向けて現状を変えていく必要があることを改めて認識させられます。一方で、民間セクターをはじめ、私たちには変革を起こす力があると希望を持つこともできます。資本主義はダメ!と一蹴するのではなく、変えるべきところを変えてreimagine(再構築)していく方向性が現実的な解決策として説得力があると感じました。

(山本 香/翻訳者)

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