私たちのチームのカタチ「個をベースにしたネットワーク型組織」とは?

2021 / 9 / 13 | 執筆者:近藤 圭子 Keiko Kondo

来年2022年、エコネットワークスは設立から20年を迎えます。数多くの企業や団体をご支援しながら、私たちが一貫して大切にしてきたのは「『個』の強みを活かすこと」でした。

沿革には、こうあります。

「小林(注:前代表の小林 一紀さんのこと)はフリーランスとして活動していた自身の経験から、『個』としての強みを最大限に活かしつつ、チームで連携することで価値を最大化する、個をベースにしたネットワーク型の組織を目指すことを決めます」。

「個をベースにしたネットワーク型の組織」とは何でしょうか? あらためて掘り下げてみるべく、前述の小林 一紀さんに話を聞きました。


話:小林 一紀(エコネットワークス前代表)
1976年東京生まれ、横浜育ち。米国の大学で生態学や環境政治経済を学ぶ。1999年からフリーランスとして活動を始め、2002年、エコネットワークスの設立に参加、2005〜2016年に代表。2006年から藤野に住み、2013年からはニュージーランドに拠点作りを行う。代表退任後、マッセイ大学ビジネススクールで「人間のサステナビリティ」をテーマに博士研究を行う。2019年に経営学博士号を取得、2020年から同校の教員としてCSRやサステナビリティに関する講義や研究、論文指導に従事している。現在、エコネットワークスでは、主に情報開示のプロジェクトに関わる。
https://www.massey.ac.nz/massey/expertise/profile.cfm?stref=764612

取材・文:近藤 圭子
東京在住のライター


社会課題の解決は、単独の組織では難しい
互いの知恵を持ち寄る対等なネットワークを

ー小林さんは、2002年の設立時からエコネットワークス(以下ENW)に関わったのですよね。

小林:そうです。1999年に米国での学生生活を終えて帰国し、当時はフリーランスとして翻訳出版や起業に取り組んでいました。ENWの創立者である枝廣 淳子さん、多田 博之さん、シニアマネジャーの小田 理一郎さんからお声がけいただき、設立時からプロジェクトベースで関わることができました。ENWは、環境NGOのジャパン・フォー・サステナビリティ(2018年に活動休止。以下JFS)を財務面から支える目的で生まれた会社です。当初は、JFSの翻訳者がENWにも関わっており、私はJFSのマネジャー、ENWのプロジェクトマネジャーとして参加しました。

ーその後、2005年に代表になって、「個をベースにしたネットワーク型の組織」を目指しました。

小林:地球環境問題はその規模の大きさから、「国、専門分野、セクターや組織の壁を超えて知恵を結集する必要がある」と、少なくとも1980年代から過去にないレベルで指摘されてきました。ただ、既存の組織にはそれぞれの立場があります。どうしたら垣根を超えて「知恵を結集」できるのか。求められるのは、何らかの形ですべてのメンバーが対等につながりあう横のネットワークではないでしょうか。例えば、会社、NGO、行政などそれぞれの組織の内側だけで課題解決を目指すのではなく、個のレベルで人々が対等につながりあってお互いのさまざまな専門性や背景を活かしながら、社会課題に向き合うネットワークのようなものです。JFSは、そのネットワーキングの思想を、日本のサステナビリティを世界に伝える「情報発信」を通じて形にしました。私が枝廣さんからENWの代表を引き継いだ際に考えたのは、ENWでもその思想を「サービス」に適用して、ネットワーキングを追求したいということでした。

当初、JFSでもENWでも、組織への関わり方は、「プロジェクトベースのネットワーク」を基本としました。プロジェクトが生じたら関わりたい人が集まり、できることを持ち寄りながら、相乗効果で成果を生み出していく。当時私たちはそれを「ジャズプレイヤー方式」と呼びました。集まったプレイヤー同士の自由な掛け合いで素晴らしい音楽が生み出されるように、知恵を持ち寄って最適な解決策を検討できるのではないか。そう考え、このアプローチを、JFSにも参加していた野澤さん(現代表)や二口さん(現役員)と一緒に模索していきました。

エコネットワークスロゴ

エコネットワークスのロゴ。∞(無限大)・継続性をイメージ。二つの円は人と人とのつながりやコミュニケーションも表現している。

フリーランスの不安定さや孤独
個人で働くひとがつながり合い、助け合う場に

ー「個をベースにしたネットワーク型の組織」は、社会課題解決を目指して対等につながり合う概念だったのですね。一方で、より具体的には、フリーランスの方々の働き方を変えた面もあったのではないでしょうか。

小林:そうであったらといいなと思います。「プロジェクトをベースに人が集まる」組織形式をとれば、フリーランスの立場から関わってくださる方も多くなります。ただ、私自身、ENWに関わる前の経験から、フリーランスとして働く上での難しさも感じていました。そこで、皆さんと一緒に、課題にきちんと向き合う働き方を作っていきたいと考えました。

フリーランス時代に感じていた課題は、まず、仕事の不安定さです。プロジェクトが終盤になると、次のプロジェクトをどうしようかと落ち着かなくなりました。実際、プロジェクトの合間が短すぎても長すぎても大変です。途切れるのを怖れて、休みを予定していたのに次の仕事を受けてしまうことがよくありました。

もう一つは、フリーランスが陥る孤独です。例えば翻訳出版のプロジェクトでは、集中して作業しようと朝から晩まで一人で机に向かい、一日中誰とも話さないことが数ヶ月続いたことも。「フリー」であることの孤独感が募りました。

さらにはキャリアも悩ましく感じていました。職場関係からも「フリー」ですから、日常会話の延長線上で「こうしてみたら」とアドバイスをくれる上司や同僚は身近にいないのです。自分の専門性が狭まりすぎていないか。自分に与えられた能力を見出して伸ばしていけるだろうか。一人で作業をしながらキャリアが見えず、先細っていくような不安がありました。

そして、個人であるフリーランスとしては、クライアントとの力関係の差がはっきりあることも課題です。どうしたらクライアントとフェアな関係性を築けるか。また、リスクヘッジのためには、複数の会社と付き合って収入源を分散させるのがよいですが、大きな仕事にチャレンジしたいと思うと、一人ではその仕事に集中せざるを得なくなってリスクが高くなります。

こうした課題は、個人によって程度の差があるかもしれません。私がもっと専門性やキャリアが確立したシニアの段階でフリーランスになっていれば、仕事の不安定さや力関係などの課題は緩和できたでしょう。しかし、当時の私はそこまでの専門性もキャリアもなく、「サステナビリティ」という未開の分野でそれらをつくっていきたい、という段階でした。

ENWの組織をつくるうえでは、こうした課題に向き合いたいと思いました。自律した「個」が対等につながりあって仕事をし、助け合い、成長しつつ、クライアントと対等に関係を築けるチームとは。この問いが一つの出発点となったと思います。

ー前半のお話では、「個をベースにしたネットワーク型の組織」は、所属する組織の枠を超えて社会課題の解決を目指す「個」がつながりあう概念だと理解しました。そこには「クライアントと業者」という既存の組織間の関係にとどまらず、クライアントの担当者のことも、想いを同じくする「個」として捉えることができます。一方で、受発注上で必要なときには、会社組織としての体裁も使えるようになっていた、と。

小林:そうですね。「組織」と「組織」の関係が基本にありますが、私たちの想いはそれにとどまらず、私たち一人一人とクライアント個人が、組織を超えて対等の個として「知恵を結集する」チームになることができたらと。関わる全員が並列で、お互いの経験を持ち寄って、掛け合わせで良いものを生み出していくネットワークです。

有機的なつながりをイメージさせる模様で無限大の輪が描かれている

組織の垣根を超えて経験を持ち寄り課題解決を目指すのが「チームサステナビリティ」

「個」を大切にするチームのマネジメント
“会えばカルチャーの話ばかりしていた”

ーなるほど。ただ、「個」を大切にすると、チームのマネジメントは一筋縄ではいかないと思います。なにか心がけていましたか?

小林:今思えば、メンバー同士が直接会えるときには、個々のプロジェクトの話に加えて、チームの拠り所となるカルチャーの話をたくさんしていたと思います。多様な「個」が対等な立場でやりとりすれば、当然すれ違いも起こります。仕事をするときに判断の拠り所となる共通の想い、哲学、スタイル、文化とは何か。私が代表になって取り組んだことが、カルチャーを仲間と意識的に話し合い、実践し、育てていくことでした。カルチャーの土台がしっかりすると、新しいメンバーを迎えても、プロジェクトの種類や規模が変わっても、メンバー同士の連携、意思決定がしやすくなっていきました。

ーオフィスで常に顔を合わせているわけでもなく、それぞれのプロジェクトに分散して関わる形ですから、個人が自律的に仕事をすることが非常に大切ですね。

小林:そう思います。ちょうどオンラインワークの環境が整い始めた時代だったことも後押しとなりました。ENWの当初の英訳チームは、JFSの有志英訳者から形成されています。JFSでは翻訳者が世界中から集まり、サステナビリティに関する日本の取り組みを英訳していて、どの方も想い、経験、スキルを持ち、自律的で協力的。ENWのメンバーはまったくのゼロから集まったわけではなく、オンラインでフラットにコミュニケーションできる経験値を持つ方々が、JFSを通して関わってくださったのです。その時、自律的なネットワーク型チームという組織の最初の雛形が形成され、後に情報開示チーム、コンテンツチーム、エンゲージメントチーム、と横展開されたともいえます。

私自身は、エコネットワークスというチームが広がるなかで、仲間やクライアントを含めた「自律した個」のキャリアと関われることが大きな楽しみとなっていきました。先ほどお伝えしたように、 経験未熟なフリーランスだった20年前、一人で作業をしながら、キャリアが見えず先細っていく不安を覚えていました。しかしこの20年、地球環境や社会の課題に向き合おうとする自律した個であるみなさんとの出会いが私自身のキャリアにとって気付きや刺激に。孤独感は和らいだと思います。それどころか、お互いがこれまで重ねてきた経験、専門性を共有しながら何かを生み出そうする中で、一人では経験し得ない別の人生を疑似体験しているかのようにも感じられます。人生を自由に様々に重ね合わせる。そこから生まれる無限の経験を楽しみ、喜ぶ。これは、「分野を超えて知恵を結集する」ことが人生に与える喜びなのかなと、今、思っています。

ー面白い人生を歩んでいる方が多いと感じます。「個」が持つさまざまな経験をお互い尊重し合っているからこそ、プロジェクトを組んだときの相乗効果も大きくなるのかなと思いました。今日は「個をベースにしたネットワーク型の組織」のはじまりの物語をうかがえました。ありがとうございました。

エコネットワークスロゴを中心に水色の円が連なって広がる

強みを持つ「個」が連なって「チームサステナビリティ」を形成している

取材を終えて

「分野を超えて知恵を結集する」。その重要性は今、さらに増しているのではないでしょうか。ENWでは、日々さまざまなご依頼をいただきます。例えば、NGOからは環境破壊を可視化する調査報告書の翻訳が、企業からは社内を動かし取り組みを加速させるためのリサーチが。その他どのようなご依頼も、中心には必ず、持続可能な社会を実現しようと行動する「人」がいます。「この方をお手伝いしたい…!」ENWに集う翻訳者やライター、リサーチャー、デザイナー、ファシリテーターが幾度となくそんな気持ちを味わってきたのは、持続可能な社会を目指す想いを同じくするからにほかなりません。

しなやかに形を変えながらプロジェクトを形にしてきた「個をベースにしたネットワーク型の組織」、エコネットワークス。これからも組織の枠を超え、さまざまな「『個』の強み」を持つ皆さんとともに、サステナビリティに貢献できたらと願っています。

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