Interview: 「環境と炭化技術」を核に、循環型社会を実現する

2019 / 6 / 21 | 執筆者:mihosoga

環境・経済・社会の全ての持続性を大切にして初めて、
事業を発展させることができると考えています。”

お話:明和工業株式会社  金原 竜生(きんばら たつき)さま
海外事業部 担当部長/国内営業部 バイオマス事業部長 兼 凍結濃縮事業部長/法務室 室長
聞き手:二口 芳彗子

はじめに

石川県で「環境」「持続可能な社会」をキーワードに進化し続ける、研究開発型のニッチトップ企業、明和工業株式会社。もみ殻などの農業残渣や畜糞、間伐材といった原料を炭化するバイオマス利活用事業などを次々と成功させ、最近ではSDGs実現への貢献も注目を集めています。その躍進の背景にある想いや工夫の数々をお聞きしました。

インタビュー

1.御社の事業で最も大切にされていることは何ですか?

私たちの事業のキーワードは「環境」です。1965年の創業当初は板金加工事業を柱としていたのですが、経営層に「深刻化していく公害を何とかしたい」という想いと「独自性がないと生き残れない」という危機感があった、と聞いています。

最初に取り組んだのは、排煙から出る硫黄を抽出し処理する「排煙脱硫装置」の開発です。現会長の北野 滋が技術者としてゼロから設計し製品化しました。さらに北野は、コメの共同乾燥貯蔵施設で生もみの搬送・乾燥・もみ摺りをする時に発生する塵を除去する「集塵装置」を開発。この装置は、健康や環境へのダメージを低減できると日本全国の農業関係者に歓迎され、会社の成長の原点になりました。

現在も国内トップシェアを誇る集塵装置

2.現在、さまざまな事業を展開されていますね。概要と、特にバイオマス利活用事業の「バイオマスの炭化」について詳しくお聞かせください。

現在は下記の4つの分野で事業を展開しています。

・バイオマス利活用事業(有機ごみの再資源化、有機ごみの炭化など)
・農業関連事業(集塵装置など)
・研究開発・技術サービス事業(共同開発や技術サービスなど)
・海外事業(今まで弊社が手がけてきた環境技術の導入)

明和工業の事業説明動画(15秒)

バイオマス利活用事業を始めたきっかけは、集塵装置の設置先のお客様からお聞きした、もみ殻の廃棄問題です。もみ殻は日本全体で年間200万トンも排出され、その廃棄コストが事業者の悩みの種でした。この話を聞いた当社の技術者は、日本の炭焼き文化に目をつけました。炭には保水性や肥料成分を土壌内に保つ保持性があるので、肥料や土壌改良剤として活用できる。もちろん燃料にもなります。

そこで、1996年に炭化装置の開発に着手しました。当時は誰もやっていない取り組みで、お金にならない研究だと言われたこともありました。しかし私たちはあきらめず、同じ関心を持つ大学や研究機関と共に研究を続けました。

すると4年後にバイオマスが脚光を浴び、弊社の炭化装置の研究も官公庁からの委託事業に選定されました。その後ブームが収束し、多くの企業が事業から撤退しても、循環型社会になくてはならない製品との想いから、一貫して事業を続けてきました。

その甲斐あって今では、炭化装置は主要事業に成長。下水汚泥、間伐材、生ごみなど幅広い原料を対象に、その容量・特性に応じた炭化装置を設計し、納品するようになりました。最近では資源の循環をより強く意識し、できあがった炭の販売先の紹介などソフト面のサポートもしています。

バイオマス炭化装置の設置風景

炭化装置とその生産物の利活用による、資源循環型社会の実現を目指しています。

3.ひらめきを大切にしながら、着実に事業を築き上げてきたのですね。最近の具体的な活用例を教えてください。

北関東のある養鶏農家の方は、毎日出る何トンもの鶏糞の処理に頭を悩ませていたのですが、2014年に炭化装置を導入してからは、鶏糞を炭に変え、自然肥料として販売するようになりました。現在、大規模な養鶏場においては年間2~3万トンも排出されることもある鶏糞は、国内で処理できず、中国やベトナムに輸出せざるをえない農家が多いので、「導入したい」という問い合わせをたくさんいただいています。

岐阜県の神戸町(ごうどちょう)では、下水汚泥を炭化し、肥料として地元農家に販売されています。特産品のバラを生産している農家は「炭の保水性や保持性のおかげで追肥の必要がなくなりました」と喜んでくださっています。

装置が動き始めた後も、ずっと使い続けていただきたい。生産された炭をどのように活用するか。それが社会にどのような良い影響もたらすか。ビジネスモデルとして無理はないか。その部分もお客さまと一緒に描く。長期的な事業モデルのご提案ができて初めて、当社の事業も継続、発展できると考えています。

バイオマス炭化装置は、UNIDO(国連工業開発機関)のUNIDO・環境技術データベースにも登録され、動画で取り組みの内容が紹介されています。該当ページはこちらです。

4.最近では海外でも積極的に事業を展開されていますね。

海外事業がスタートしたのは、海外事業部長の徳成 武勇(とくなり たけお)の入社後からです。徳成は、大学院卒業後にケニアで環境コンサルティングの仕事に従事した後、地元の金沢に戻り明和工業に入社しました。そしてすぐに北野と意気投合し、アフリカに炭化装置を導入するプロジェクトを立ち上げました。まずは2016年のアフリカ開発会議に出展。そこで装置のコンセプトが非常に支持されて、2017年にはJICAの調査委託事業に選ばれ、現在はケニア共和国で現地調査を進めています。

栄養分が少ないケニアの土壌で農業を営むには肥料が必須なのですが、肥料は国内生産されておらず、他国から輸入しているのでコストがかさみます。肥料の成分が集水域に流れ込むことによる富栄養化も問題です。一方で廃棄物処理にも困っています。炭化装置を導入すれば、こうした問題を一気に解決できます。

対象をアジア地域にも広げ、中国、ベトナムやモンゴルでも炭化装置の導入を進めていましたが、現在はケニアとインドにしぼっています。

ちなみに私自身は、徳成の1年後に入社しました。大学時代から国際協力関係の活動をしていたので、途上国の課題解決をサポートできる海外事業に特に力を入れています。モノづくりの会社から転職したので、日本全国のモノづくり関連の企業とつながれる点も嬉しいです。

5.これまでの人生でのご経験がすべて現在につながっているのですね!さて、御社のパンフレットやウェブサイトではSDGsとの関わり方が明記されていますが、SDGsをどのようにとらえて取り組んでおられますか?

弊社の事業内容を考えた結果、自然とSDGsとの関連性が浮かび上がってきました。特に海外事業部では、常に途上国の問題解決を考えてきたという背景もあります。一方で、全社での普及はこれからです。

2030年に向けて多くの企業がSDGsに積極的に取り組んでいるので、今後はお客さまからSDGs関連の問い合わせが多く寄せられるでしょう。それをきっかけに社員一人ひとりがSDGsを自分事として捉え、理解していくのが理想です。

SDGsはある意味、今の世界の関心ごとを羅列していると思っています。自分たちの事業の位置づけをSDGsという現代社会の今注目されている観点で再定義すると、実は違うアプローチもあるのでは、といった新しい視野をもたらしてくれる。そういったものを取り入れたり、自分たちしか持っていない技術を持つ地方企業がチームになり、世界や地域の問題を解決するようチームになれたら、と考えています。各社が各分野のキープレイヤーとして動く。自分たちができないところを他の企業と協働すると、ビジネスでも多様性が生まれると思うのです。

今後は技術的な目標だけでなく「社会にどんな影響をもたらしたいか」を、今まで以上に大切にしていきたいです。どんなに優れた技術も、社会に普及させなければ日の目を浴びず、ただの研究で終わってしまいます。環境・経済・社会の全ての持続性を大切に、未来予想図をしっかり描きながら事業を続けていきたいと考えています。

明和工業株式会社
所在地  石川県金沢市
従業員数 47 名

石川県金沢市に拠点を置く、研究開発型の老舗ベンチャー企業。有機ごみを農業用やエネルギー用の炭にする「バイオマス炭化装置」や、農業用の集塵装置や排水処理装置などを中心とした環境プラントの設計・製造を行い、持続可能な世界の実現に貢献している。

写真および図提供: © Meiwa Co., Ltd. 2019

 

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