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【困難なとき支え合える社会へ】多摩少年院を訪ねて―― 子ども・若者を支える社会のあり方を考える

物価高騰や雇用不安、人間関係の希薄化などを背景に、生きることに困難を抱える人が増えており、誰もがある日突然「支えられる側」になり得ます。同時にちょっとした声がけや手助けによって、誰もが「支える側」にもなれる可能性があります。 私たちがお互い支え合って生きていくには、どうすればよいのでしょうか。
本連載では、ホームレス状態にある人々や、様々な事情により社会的孤立に直面している若者など困難を抱える人々を支える現場を訪ね、その取り組みを伝えます。また、誰もが安心して「助けて」と言え、お互いに支え合える社会をつくるためのヒントを探ります 。1回目は、認定NPO法人「育て上げネット」が主催する多摩少年院の見学ツアーに参加した宮原桃子さんのレポートをお届けします。
執筆:宮原桃子
エコネットワークス(ENW)では、主に企業のサステナビリティ推進に関する社内外コミュニケーションの支援に携わる。関心テーマの一つに「子どもの権利の尊重」があり、ENWが運営するコミュニティ事業TSA(Team Sustainability in Action)の「サステナビリティファンド」という仕組みを利用し、今回の見学ツアーに参加。
少年院を訪ねるきっかけ
少年院の子どもたちに関心をもったきっかけは、7年前に読んだ「あふれでたのはやさしさだった: 奈良少年刑務所絵本と詩の教室」という本でした。作家の寮美千子さんが奈良少年刑務所で10年間行った「物語の教室」の記録で、絵本の読み合わせや詩をつくる過程を通して、子どもたちの壮絶な生育環境と、奥底にある悲しみや辛さ、そしてやさしさが強烈に感じられました。その背後には、貧困や虐待などを生む家庭や社会における構造的な問題が根深く存在しています。
私自身もこれまで3人の子育てをする中で、困難を抱える子どもや保護者の存在を感じる機会がそれなりにありました。「お父さんに“死ね!”って言われた」と泣きながら話してくれた子、靴下のまま家を飛び出して休日の校門の前で泣いていた子……。私も、一人で子どもたちを育てる中で、疲れや忙しさから出た子どもへの声がけや対応に反省することも多々あり、様々な要因から子どもにしわ寄せがいくことを実感しています。
困難を抱える子どもや保護者などを社会全体でサポートするには、どのような仕組みや環境、地域のあり方が必要なのか。そんなことを考えるため少年院を訪ねることにしたのです。若者の就労支援や居場所づくりなどに取り組む認定NPO法人「育て上げネット」が、院内や出院後の子どもたちの支援を行う活動の一環で、寄付者を主な対象に定期的に開催しているツアーに参加しました。
多摩少年院へ フェンスの向こうには満員の子どもたち

多摩少年院の周囲を囲むフェンス
少年院とは、受刑者を収容し処遇を行う刑務所と異なり、家庭裁判所で保護処分として少年院送致の決定を受けたおおむね12歳から20歳未満の子どもたちに対して、矯正教育や社会復帰支援を行う施設です。今回訪れたのは、東京都八王子市にある多摩少年院。大正12年に日本初の少年院として発足した、100年以上の歴史がある少年院です。訪問当日、京王線沿いののんびりした住宅街を歩いていくと、突然高いフェンスが現れました。刑罰を行う施設でないとはいえ、フェンスを目の前にすると、罪を犯したこと、そして被害者への償いにおいて求められる厳しさが感じられました。
多摩少年院は男子少年を収容する施設で、現在約140人が97人の職員と共に過ごしています。窃盗や強盗、詐欺、覚醒剤、性犯罪、交通事故など、その罪は様々です。全国で少年院に入る子どもの数は過去30年間減少してきたものの、「令和7年版 犯罪白書」によると令和5年以降は増加傾向にあり、多摩少年院も9割を超える収容率とのこと。大熊直人院長(見学ツアー実施当時)は「子どもたちにはゆったりした環境が必要で、落ち着いた教育を行うために本来は6~7割がベスト」と言い、発達障害などの子どもたちの存在にも触れながら、より丁寧に一人ひとりをケアする必要があると語りました。
日々の生活から様々な学習まで 制限された中での暮らし

多摩少年院の広い敷地はここから始まる
子どもたちの1日は、食事や掃除など身の回りの活動から始まります。溶接やフォークリフト、パソコンなどの職業訓練、高卒認定に向けた学習、体育や音楽、集会など様々な活動が行われます。また、1日2時間程度はテレビを見たり手紙を書いたりする余暇の時間があるそうです。運動会やマラソン大会、発表会などのイベントもあります。見学の最中には、教室で勉強する坊主姿の子どもたちが遠巻きに見え、我が子と変わらない雰囲気の子どもたちが、どのような背景から少年院に至ってしまったのかと重々しい気持ちになりました。
一見すると穏やかな日常生活が営まれている一方で、子ども同士の私語は抑制され、シャワーは週3回のみ、館外への扉は厳重に施錠されているなど、制限された環境の中で暮らしています。また、古くからある施設にはエアコンがほとんど設置されておらず、近年の猛暑の中でエアコンがないことは命に関わる人権問題と感じました。2022年の国連総会で、環境への権利(清潔で健康的、かつ持続可能な環境に対する権利)は普遍的な人権だと定められています。気候変動への適応という観点で、基本的人権の保障として早急に対策すべきと感じます。
育て上げネットで少年院関連の支援を担当する髙崎大介さんによると、「全国的に見て少しずつ改善されているケースもありますが、予算の優先順位や既存設備との兼ね合いの中で、少年院としても苦慮されていると聞きます」とのこと。私自身も帰路につく道々でこの問題が頭から離れず、すぐに法務省のウェブサイトに意見を提出しました。
「少年院で初めて自分の話を聞いてくれる大人に出会った」 院長が大事にしていることとは

外の門から少年院の建物まで、並木に囲まれた緩やかな坂道が続く
施設内を見学した後は、院長や職員の方々と参加者との対話が行われました。20人ほどの見学者は、育て上げネットを支援する様々な企業の方や教育関係者、新聞記者など、いずれも子ども・若者支援に関心が高い方々ばかりでした。私自身は、子どもたちをより早い段階で救うための環境づくりやサポートを考える上で、今少年院にいる子どもたちが回復するために何がカギになるのかを知りたいと思っていました。
そこで、長年にわたり数多くの子どもたちを見てきた院長に「子どもたちと接する上で何を一番大事にしているか」と尋ねました。院長は「愛情・愛着に問題を抱える子どもたちが多いため、通りがかったら、一人ひとりの子どもに必ず『どう?』などと声をかけるようにしている。自分のことを本心から気にかけてくれる人・見ていてくれる人が数人でもいることが大切」と語りました。シンプルですが、そこにこそ核心があると感じました。育て上げネットの髙崎さんも「少年院に入って初めて自分の話を聞いてくれる大人に出会った、というような子どもたちがたくさんいるんです」と話し、早い段階から見守り支える関係性や居場所の重要性を改めて認識しました。
できるだけ様々な体験の中で、自尊心を育むことの大切さ

多摩少年院の建物入り口
さらに「少年院の子どもたちが回復していく上で、何がカギになると思うか」と質問してみると、院長は「一人ひとりの子どもは多様であるゆえに、どこで何が琴線に触れるか分からないので、できるだけ様々な経験を用意すること」だと言いました。どんな小さなミニテストでも賞状を渡したり、みんなの前に出て発表する機会を設けたりと、「自尊心・自信を育むこと」を大切に考えているそうです。職業訓練プログラムでも、もちろんスキルを習得することは重要ですが、難しいことにチャレンジすることを通じて自信を得るという要素も大切とのことでした。
院長によれば、少年院に入る子どもの共通項は一概にはいえないものの、その背景によく見られるのは厳しい家庭環境、そして小学校など早い段階で様々な理由から学習についていけなくなる子どもが多いとのこと。学校において一人ひとりに合わせた教育を行うことは、それぞれが自尊心や自信を持ちながら、自分なりの道や術を見つけていくことにつながり、その観点で根本的に重要な点だと感じました。
「見えないもの」「触れないもの」にしない 社会全体で見守る姿勢
少年院に向かう道中で、もう一つ重要だと感じる出来事がありました。ご近所の方が「どこへ行くの?」と声をかけてくれたので、詳しい理由は話さず少年院だと伝えると、ばつの悪い表情を浮かべ、話題をさっと切り替えたのが印象に残りました。社会の中でときとして「触れてはいけない話」にされてしまうことは「見えないこと・見ないようにすること」であり、そうした子どもたちがますます端に寄せられ排除されていく要因になるように感じました。
少年院にいる子どもたちは罪を犯し、その向こうには被害者がいるという重い事実を考えれば、全面的に擁護される立場にはないことは確かです。しかし、そこまで追い詰められる背景には社会の構造的な問題があることを私たちはしっかり認識し、「問題がある子ども」と特別視して避けるのではなく、社会全体で見守りサポートするという意識を、周囲や地域そして社会全体で共有することが必要だと感じています。
子ども・若者を「数珠つなぎ」で見守る社会とは?

(Illustration by HNKz via AdobeStock)
今回少年院を訪ねる中で、困難を抱える子どもや保護者などが追い詰められる前に、足元の身近な地域・コミュニティで見守り支え合う関係性や居場所、サポートが欠かせないと改めて痛感しました。生まれた瞬間から保育園・小学校・その先と、様々な段階で異なる支援が必要になるように思います。
地域や社会で、バトンをつなぐように「数珠つなぎ」で子ども・若者・親子を支えていくような仕組みは、どんな形が良いのか。この問いへの答えを探すため、次回は育て上げネットが運営する若者の居場所づくり「夜のユースセンター」の取り組みをお伝えします。
第2回はこちら:「『夜のユースセンター』に見る、居場所と数珠つなぎの支援の大切さ」
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