ENW Lab.
Interview: 携帯アプリが後押しする「エシカル消費」
“世界的に認められているブランドが率先してエシカルリーダーとなる事を期待します。”
お話:Gordon Renouf 氏
Good On You 最高経営責任者(オーストラリア)
聞き手:川平紗代 (環境リサーチャー・ライター)
はじめに
みなさんは「エシカル(倫理的)消費」という言葉を聞いたことがありますか?「耳にしたことはあるけれど、実際に何を指すのかはよく分からない」という方が多いのではないでしょうか。
そこで、今回、オーストラリアで長年消費者の保護や教育に携わってきたGordon Renoufさんにお話をお聞きしました。Gordonさんが消費者のエシカルな選択を後押しするために開発したのが、ブランドのエシカル度がわかるアプリ「Good On You」です。
「Good On You」を開いてブランド名を入れると、労働基準・環境・動物福祉のそれぞれの分野について、独自の基準で「★=避けましょう」から「★★★★★=素晴らしい」の5段階で格付けが表示され、詳細を知ることができます。H&Mや Levi’s、Adidas や Nikeのほか、ユニクロや無印良品などの日本のブランドも評価の対象となっています。
インタビュー
1.「エシカル消費」とは何でしょう?
エシカル消費とは、ある製品・サービスを買うことが世界にどんな影響を与えるかよく考えたうえで何を買うか決める、世界をよりよい場所にするために買い物を通じて実践していく消費活動です。通常は労働、人権、環境、動物福祉などへの配慮が判断の基準となります。「意識的な消費」または「持続可能な消費」と呼ばれることもあります。
私たち消費者は、買い物をする度に企業にどのような物を生産すべきか伝えています。多くの人がピンクの短パンを好むようになればその生産量が増えますし、誰も紫のUGGのブーツ(ムートンブーツ)を選ばなければ、生産停止になります。環境を傷つけず、フェアな条件で生産された商品を好むようになれば、自然と企業も消費者に応えようと行動を起こします。
エシカルなものを選ぶ消費者が現時点で数パーセントだとしても「もっと売りたい、もっと利益を得たい」と考えるブランド側にとっては、それも大切な消費者の情報となり、企業活動に影響を与えます。私たち消費者一人ひとりが、関心のある問題の解決を後押しすることができるのです。
2. なぜ 携帯アプリ‘Good On You’を作ったのですか?
私たちのビジョンは、消費者の選択によって企業がフェアでサステナブルな社会を創ることです。Good On Youを使えば、どのブランドが労働者の人権を尊重しているのか、環境や動物への影響に配慮しているのか、を知ることができます。
多くの消費者に話を聞いたところ、ほとんどの人がそうした課題に配慮しているブランドをサポートしたいと思っていることがわかりました。しかし、どの企業がそうなのか、調べる方法がなかったのです。そこで、消費者が買い物をする際に簡単にブランドについて調べることができるアプリを作りました。現在はアパレル(靴、アクセサリーを含む)が中心ですが、将来的に他の分野にも範囲を広げていく予定です。
3. ICT(情報通信技術)はエシカル消費をどう後押ししますか?
買い物をする上で、どの商品がエシカルなのかを知る方法の1つが、認証マークや表示ラベルをチェックすることです。しかし認証団体の審査を経てラベルをつけた商品は、残念ながらとても少なく、ラベルが付いていても、知りたい情報や同じような他の商品を探すことは、とても大変でした。
しかし、ICT、特にスマートフォンの登場により、知りたい情報を簡単に得られる時代になりました。例えば、お店の中で服を選んでいる最中にブランドの情報を検索したり、初めて見たラベルの意味をその場で調べたりできるようになりましたよね。その他にもアプリを通じて企業と消費者が直接つながることができたり、企業からのメッセージを消費者が受け取ったり…と、企業と消費者の距離がぐっと縮まりました。
一方で消費者の関心に対応するためには、Good On Youのようなアプリでできるだけ多くのブランドを網羅する必要があり、正直大変なところはあります(笑)。
4. 日本のブランドをどのように見ていますか。
近年、多くの人々がファストファッションのビジネスモデルに懸念を示しています。特に2013年にバングラデシュのラナプラザで起こった衣類工場の倒壊事故では、1,000人以上の犠牲者を出し、世界中でたくさんの抗議行動が起こりました。企業の透明性への注目も高まり、労働組合やNGOなどが、業界への圧力を強化するようになりました。
ユニクロは、H&MやZaraと並んで、そうした流れを受け、労働環境等の改善に取り組み、現在では「★★★=ビギナー」にランク付けされています。理想的な環境・労働基準・人権・動物福祉のレベルに達するにはまだまだ長い道のりですが、世界的に認められているこのようなブランドが率先してエシカルリーダーとなる事を期待します。
一方、無印良品のランクは「★=避けましょう」です。Good on Youアプリは英語の情報を元に評価しており、評価に必要な英語情報が見つからなかったことが理由です。
エシカル消費では企業の透明性がとても重要なポイントです。ブランドは消費者が知りたい情報(誰が作ったのか、どこで作られたのか、労働者・環境・動物への影響)をすべて開示するべきです。日本の会社が英語情報で評価されるのは不公平だという声もあるかもしれませんが、市場は日本だけではなく、世界に拡大しています。もし、商品に社会・環境に良い影響を与えるようなサステナブルなストーリーがあるのならば、英語やその他の言語でも情報を開示することが望ましいです。
終わりに
インタビューを通し、私たち消費者の毎日の何気ない買い物が企業活動に大きな影響を与えており、それが環境、人、動物に関する問題と深く繋がっていることがわかりました。私たちには、何を着るか選ぶ権利があります。次に買い物をする際は、世界をより良いものにするための活動を実践している、透明性を持った企業を選んでみるのはどうでしょうか? オーガニックでサステナブルな生活を提供している事で有名な無印良品への評価は残念でした。Gordon氏も20年前に全てリサイクルコットンで製造された靴下を10足無印良品から購入したエピソードを話してくれました。英語など多言語でその活動を公開し、日本発のミニマルでサステナブルな商品、ライフスタイルを提供するリーダーブランドになって欲しいと思います。