SDGsのゴール16とは?〜「平和」に対してビジネスが貢献できること〜

2020 / 5 / 4 | 執筆者:EcoNetworks Editor

日本では空前のSDGs(持続可能な開発目標)ブームが起こり、SDGs関連のコンサルティングのニーズが高まり、現在、様々な業界からご相談を受ける機会が増えています。

しかし、日本の企業から、SDGsのゴール16 で示すような「平和」への取組を推進したい、という声を耳にしたことはありません。どちらかというと、SDGs達成に貢献するような、技術革新によるイノベーションの機会を模索する企業や、ESG評価を高めるレポーティングに熱心な企業が多いように感じます。

「平和」と聞くと、漠然とした理想的な社会を語るような印象を与え、ビジネスとは関係ないものだという誤解があるのではないでしょうか。そんな懸念を感じたので、日本企業が取り組むきっかけとなるように、「平和」に対するビジネスのグッドプラクティスを紹介しつつ、ゴール16で語られる「平和」の解釈の仕方を改めてお伝えしたいと思います。

平和とは

世界中で起こっている「暴力」は、SDGsを達成するための最大の障害となっています。2030年までに、極貧困層の80%以上が暴力や紛争の影響を受けた国で暮らすことが予想されています。UNHCRによれば2018年時点で、約7,080万人が、迫害、紛争、暴力の結果として強制的に家を追われています。国連と世界銀行グループの研究では、今日の暴力的な紛争は過去よりも複雑で、より多くの非国家集団や地域的・国際的なアクターが関与し、ますます長期化しています。北半球のすべての国は、政府や制度が社会集団間の不平等に関連した排除の認識に直面しているため、暴力や社会的不安のリスクに直面しています。このことは、「暴力」の発生と「暴力」のエスカレートの両方を防ぐために、複数のアクターの努力が必要とされています。

長引く紛争や戦争は、慢性的な脆弱性、精神的・社会的・経済的なトラウマ、文化的遺産の破壊をもたらします。紛争にさらされる社会には、対話、信頼、合意形成、包摂的な政治的解決、和解が必要です。これらの国々で積極的な平和が持続的に確保されなければ、SDGsの進展は難しいでしょう。つまり、「誰一人、置き去りにしない」という目標を達成するためには、紛争国における「平和」の促進が優先することが必須なのです。

平和を維持することは、持続可能な開発を通じ、平和の条件、すなわち、公正かつ公平な手段によって提供される「正義」を確立すること、十分な生活条件とより生産的な雇用機会の創出・維持することに大いに関係しています。

SDGの達成に向けて、平和を維持し、組織(多国間機関を含む)を強化することで紛争を予防し、貧困、強制移住、無国籍、人々の疎外の根本原因にも対処するとともに、平和と非暴力の文化を育むための教育も行うことなのです。

企業は何をすべきなのか

では、企業は具体的に「平和」の達成に向けて何をすべきなのでしょうか。

1)社会・経済的なジェンダー平等の推進
企業の待遇や人事(採用・配属・異動・休職・退職など全ての場面)における、女性に対する社会的・経済的差別をなくすことが必須です。企業の役員、上級管理職、その他の重要な経済的意思決定の役割により女性が配置されるべきです。また、女性の人身売買は世界中で続いており、女性や少女は肉体的に強制労働を強いられ、多くの場合は性的な性質のものであるため、サプライチェーンにおいて社内外でそのような人権侵害事例が出ないような体制を構築する必要があります。

2)人権保護とダイバーシティの推進
大企業も中小企業も、新たな雇用を創出し、人種、民族、性別、宗教による差別がないことを保証する雇用慣行を採用し、一人ひとりの人権を尊重する労働環境を築き、抑圧や拷問、法の支配の被害者を減らすために、人権侵害撲滅に向けた「苦情処理メカニズム」を設置していくことで、「誰一人取り残さない社会」の実現に貢献できます。

3)透明性を尊重した情報開示・レポーティング
ゴール16では、政府だけではなく企業に対する情報開示の重要性も示唆しています。その根本には、「公正な意思決定は、十分かつ正確な情報の流れに基づいて行われなければならない」という考え方があります。企業が多様な意見を含む意思決定プロセスを経て、迅速な情報開示や透明性の高いレポーティングを実施することが、社会全体の意思決定の仕組みを強化します。

4)サプライチェーン管理
企業は、サプライチェーンの管理の一環として、進出している国の汚職防止、労働権の確保、包括的意思決定の実施、コミュニティ参画などゴール16の目標を達成するための法的枠組みの構築プロセスに、積極的に参画すべきです。

5)「平和」を導くセクター間のパートナーシップの推進
ゴール17において強調されているように、民間セクター、国連機関、各国政府、市民社会の間でパートナーシップを推進していくことは必須です。特に、企業はリードすべき立場にあります。なぜならば、企業の強みとして、企業はグローバルな法規制にならい、平和的な方法で紛争を解決していく商文化を持っているからです。例え、政府が「暴力」を乱用していたとしても、企業はそれを改善できる役割を担っているのです。官民パートナーシップ、社会的投資、CSR活動との連携促進が期待されます。そして、その中には、特に紛争や暴力に関して活動する、ジャーナリストや現地で調査を行うNGOや専門機関を支援することも求められています。

6)「平和」を推進するインフラの構築・強化
企業は、「平和」のインフラの構築に貢献することが可能です。特に企業が、その国・地域の「平和」をテーマとするプロジェクトに関わる場合、共同設計、共同投資、共同実施に関わることで、民間セクターでのノウハウを紛争地や紛争解決後の社会で生かせるでしょう。また、企業の資金調達の影響力を利用して、社会全体の中で、誠実な活動や注目すべき発言には、積極的に言及し、世間の耳に入るように啓発すべきです。

企業の努力によって、上記項目が達成されることで、より安定した「平和」な社会への第一歩となり、SDGsに掲げられる社会課題解決とともに、経済成長を促進し、新市場の創出、イノベーションの創出、経営リスクの最小化につながります。

これらは新しいものではなく、「ビジネスと人権」や「ESG投資」などで語られる内容も多いのではないかと思います。それらの活動も、実はゴール16と深い繋がりがあるのです。

「平和」に貢献する企業のグッドプラクティス

事例①:スペイン/ 銀行ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行 (Banco Bilbao Vizcaya Argentaria, S.A.) マイクロファイナンス財団
金融包摂を通じた脆弱な人々の経済的・社会的発展を促進することを使命とし、2007年にBBVAグループによって設立された非営利団体です。特に、コロンビアでは、平和構築プロセスにおいて優先的に支援を行うと指定した紛争被害の大きい地域の地方自治体と連携し、資金力の乏しい起業家にマイクロファイナンスを利用する機会を提供し、コミュニティにおける信頼の醸成、規制の確立、人的ネットワークを育む社会資本を構築することができました。

事例②:コロンビア/ 食品会社グルーポ・ヌトレサ社
北米から中南米を中心に販売網を広げているコロンビア最大の老舗食品会社です。性別、人種、宗教などの問題による差別を減らすために、貧困、幼少期の虐待、集団外での地位、その他の個人的な課題を克服した採用候補者の経験を、履歴書で高く評価しています。また、採用プロセスにおけるアンコンシャス・バイアス対策のための研修も、採用プロセスに関わる全てのリーダー向けに実施しています。あらゆる差別を克服し、実力主義の組織を確立するのに役立ちます。

事例③:スウェーデン/ アパレルブランドH&M社
市場の安定と生産性の維持を目指すために、世界の紛争の原因となっている土地の権利を保護し、労使関係と紛争解決を強化することで、労働紛争の緩和に積極的に取り組んでいます。紛争解決はH&Mの戦略の重要な部分であり、これらの取り組みには明確なビジネス上の利益があると考えています。

事例④:米国/ インテル株式会社
ゴール4(質の高い教育)、ゴール5(男女共同参画)、ゴール13(気候変動対策)に重点的に取り組み、ゴール16のいくつかの目標や指標に直接影響を与えるプロジェクトを実施しています。例えば、人身売買や児童労働に関するサプライチェーン方針の策定・実施、人身売買を防止するためにテクノロジーを活用する人工知能プロジェクト、テクノロジーを通じた若者や女性のエンパワーメント、法務部門によるプロボノ活動の実施。ゴール16で推奨されるような政策立案には、国際スズ研究所のスズ・サプライチェーン・イニシアティブ(iTSCi)、ベター・ソーシング・プログラム(BSP)、米国国務省および米国国際開発庁の責任ある鉱物取引のための官民アライアンスなどのプログラムを支援してきました。

日本企業への期待

ゴール16に関して企業が取り組むべきアクションは、「ソーシャル・インクルージョン(社会包摂)」「ダイバーシティ」「透明性」「ガバナンス」などのテーマを事業のあらゆる機能に盛り込み、実践していくことです。ダイバーシティを重視した採用や育成に関わる部分は人事部門、サプライチェーンの人権侵害に関しては調達・コンプライアンス部門、新規市場開拓に関するリスク調査は営業部門やマーケティング部門、透明性の高いサステナビリティに関するデータ公表は広報部門など、ゴール16が網羅する領域は、様々な部門の業務に直接的に関わる内容ばかりです。国際的な競争力という観点では、「法の支配」の促進には、政府だけではなく、グローバルな企業が国際的な議論をリードしていくことが必須であり、そのプロセスでは、経営者の「人権」に対する倫理観が問われています。例えば、国際NGOなどの批判に応じるだけではなく、経営者が人権侵害撲滅に積極的に対応し、自ら発言することが求められているのです。

ゴール16の実践により、ゴール8(ジェンダー平等を実現しよう)やゴール8(働きがいも 経済成長も)も連鎖的に達成することができ、それによって「平和」を目指すことが可能になります。経営者が「平和」を語る上で、ゴール16を意識して、これまでの実績やこれからの方針を考えてみてはいかがでしょうか。

( パートナー 鈴木 真代 @コロンビア)

参照:
Global Alliance, Enabling the Implementation of the 2030 Agenda through SDG 16+ Anchoring peace, justice and inclusion, 2019
https://www.sdg16hub.org/system/files/2019-07/Global%20Alliance%2C%20SDG%2016%2B%20Global%20Report.pdf

SDG Fund, Business and SDG 16: Contributing to peaceful, just and inclusive societies, 2017
https://www.sdgfund.org/business-and-SDG16

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