ジェンダー教育実践家・星野俊樹さんと考える「社会の構造的問題」

2025 / 12 / 18 | カテゴリー: | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara

「男子って幼稚/バカだよね~」「女子力高い」「(勇気ある行動に対して)男らしいね」ーー日々の暮らしの中で聞こえてくる何気ないこんな一言。さすがに昭和の時代にあったような「男は泣くな」はあまり耳にしなくなったものの、何となく男性が弱さを見せることへのハードルが高い雰囲気はいまだにある……ジェンダーにまつわる規範や固定観念は、差別や抑圧、人権侵害、生きづらさなど様々な問題を生んでいます。

こうした問題に向き合おうと、20年にわたり公立・私立小学校でジェンダーに関する対話や授業を行ってきたのが、ジェンダー教育実践家の星野俊樹さんです。2025年春に教員としての立場を離れ、著書『とびこえる教室—フェミニズムと出会った僕が子どもたちと考えた「ふつう」』を出版。現在は、社会全体に向けた啓発活動を行っています。エコネットワークス(ENW)のコミュニティ事業である「TSA(Team Sustainability in Action)」では、星野さんを招いた対話セッション「シェア会」を開催。20名近くのTSAメンバーが参加したセッションの様子をレポートします。


執筆:宮原桃子

ENWでは、主に企業のサステナビリティ推進に関する社内外コミュニケーションの支援に携わる。一人ひとりが属性などで縛られたり差別されたりせず、その人らしく生きることに障害のない社会にしたいと感じている。


星野さんって、どんな人?

星野俊樹さん(写真・左)と筆者(写真・右)は大学の同期。25年ぶりの再会となった打ち合わせは、社会や学校、ジェンダーなど様々なテーマで盛り上がった。ジェンダーを中心に様々な社会課題にまつわる本にあふれた書店・喫茶「common house」にて。

星野さんは、出版社勤務を経て小学校教員に転身。その背景には、それまでの人生の中で経験してきた、「男らしさ」を前提にした抑圧的な学校教育や家庭内のDV・教育虐待、ゲイとしての生きづらさ、日々の違和感などがありました。教員になって実践した「生と性の授業」では、フェミニズム*を大切にしながら、ジェンダーやセクシュアリティを切り口に「ふつう」を問い直す教育を行ってきました。詳しくは、星野さんの著書『とびこえる教室—フェミニズムと出会った僕が子どもたちと考えた「ふつう」』をぜひ読んでみてください。

*性別に基づく不平等や抑圧に対して異議を唱え、すべての人々が平等な権利と機会を享受できる社会を目指す考え方や活動

学校はジェンダー不平等、だがジェンダーに目が向かない

(Photo by maroke via AdobeStock)

シェア会のお話は、まず学校教育におけるジェンダー問題から始まりました。学校はいまだ男性の校長が多く、教員の役割においても、男性が厳しい指導(父性)、女性がケア(母性)を担う傾向が見られるとのこと。そして大人の影響を受けるように、クラスでは、男子によるマウンティング・先生への反抗・悪ふざけなどの行動や声が大きく目立つ一方で、女子の声が上がりづらくなる状況がよくあるそうです。星野さんは、教育社会学者の木村涼子さんの言葉を引用して、この状況を「男子の雄弁、女子の沈黙」と説明しました。

こうしたジェンダー不平等があるにも関わらず、多くの教員はジェンダーに関する知識が少ないため、目の前の現象や子どもの言動をジェンダーの視点から構造的に捉えられず、子どもの心の問題として捉えがちだと星野さんはいいます。その背景の一つに、教育活動の基本として子ども一人ひとりの個性を尊重する中で、「性別は関係ない」というスタンスを取るあまり、ジェンダーにまつわる問題に意識が向かない状態*があると指摘しました。

*ジェンダー研究分野では、こうした状況を「ジェンダーブラインド」という表現で示している

あえて「性別にこだわる」 問題を見えないものにしないために

オンラインで開催されたシェア会でお話する星野さん

ジェンダーにとらわれない視点は、LGBTQなどの人々への配慮を考える際には有効ですが、一方で性別に目を向けなければ、性別にまつわる問題が見えなくなるという危険が生じます。それはまさに「Black Lives Matter(BLM)」運動が「All Lives Matter」に転換されてしまうことで、黒人層が受けてきた差別や抑圧などの問題が矮小化され、本質的な問題の所在が見えづらくなることと同質だ、と星野さんは語りました。女性・男性あるいはLGBTQだからこそ直面している問題はどういうもので、その背景にどのような社会的要因があるのかを見つめる必要があるのです。

「構造の問題」として捉える 「点から線」を意識した教育実践

(Illustration by Gabrieuskal via AdobeStock)

ただ、ジェンダーに目が向いたとしても、例えば「男子の雄弁、女子の沈黙」のような状況に対して「男子は幼いから」「女子は成熟しているから」「その子だから」といった形で、性別や個人の特性の問題として語られがちです。しかし、その背景には、社会に根深くある性別役割分担や家父長制*といった構造的な問題があります。

星野さんは「理不尽な社会構造に気づく、それをどう変えられるかという視点・力を育てることが、学校教育のあるべき姿ではないか」と語りました。そのために星野さんは、教育実践の中で「点から線」を意識したといいます。「点」は一人ひとりのエンパワメント、これに加えて、点と点がつながって生まれる「線(関係性や構造)」が個人にどのように影響をもたらすかにも着目しながら教育を行うことで、子どもたちが様々な課題を構造的に捉えられるようになることを目指したそうです。

*父親が家長として絶対的な権利を持って家族を支配・統率する家族形態。また、このような原理に基づいて、男性が家族や社会において支配的・特権的な地位を占める社会制度

社会からの反響は? 共感と反発

大学での研修後に参加者と共に

星野さんは現在、社会全体に向けた啓発活動を行っています。著書への反響は非常に大きく、トークイベントや大学の講義、小中高での授業や保護者向け講演、教員向け研修、企業のDEI研修など、数ヵ月先まで予定がびっしりと埋まっている状況です。学校だけでなく職場や生活などあらゆる場面で、ジェンダーにまつわるモヤモヤや課題感を持つ人たちが多くいることを表しているように感じます。

ただ、大きな共感を得る反面、「耳を塞ぎたい」という反応や反発にも直面してきたそうです。一例として、星野さんは「相対的はく奪感」の話を共有しました。例えば、女性の活躍支援を見て、男性が「なぜ女性だけ?」「ずるい」という反応を示すことがあり、自分が他人と比べて不利な状態にあると感じるときに生じる不満や不公平感を「相対的はく奪感」というそうです。こうした反応が出るのは「男性たち自身も満たされず、不満や問題を共有できていないから」と星野さんはいいます。様々な人がまず「自分が抱えている生きづらさを共有し、対話すること」が、ジェンダーにまつわる社会構造の問題に向き合う第一歩になるのです。

対話の大切さ 「私」を主語にした伝え方

とはいえ、ジェンダーについて周囲と語り合うことには、少しハードルがあるかもしれません。参加者からも「相手が個人的に批判されていると感じたり、防御反応があったりするかもしれないと思うと、ジェンダーの話をするのを躊躇する」「子どもがジェンダー観点で問題がある動画を見ているとき、どう伝えるのがいいのか迷う」などの声がありました。

星野さんは「私を主語にする」ことが大切だといいます。例えば、女性差別や夫婦別姓などについてパートナーや周囲の人と語るとしても、社会ではこうだといった認知の話や、相手を批判するような伝え方ではなく、「私」がそれについてどのような苦しみや辛さ、違和感、困りごとなどがあるのかを共有する。一人称で話をすると、相手の感情に響き、受け止められやすいというのです。実際、星野さんは著書でも一人称で自らの経験を語っています。「私」を主語にしながらも、社会の構造的な問題に視点が広がるような、そんな対話をしていけたらいいなと感じました。

シェア会を終えて 参加者からは共感の声が続々

星野さんの著書『とびこえる教室—フェミニズムと出会った僕が子どもたちと考えた「ふつう」』

シェア会を終えて、参加者から最も多く寄せられた声は「構造の問題として捉える」という視点にハッとしたというものでした。感想を一部シェアします。

  • ・ジェンダーに関連して自分に非があると感じてきたことは、社会構造に起因していると考えると、少し気持ちが楽になった。
  • ・「その生きづらさは構造的な問題からきているもので、うまくいかないのは個人の努力が足りないせいではない」ということを一秒でも早く気づける人が増えるとよいなと思った。
  • ・私が暮らすアフリカの国では、人権や貧困など問題が山積している。ジェンダーを切り口にして「社会構造」の問題を一歩深く考えることができるのではと感じた。
  • ・性別や国籍など様々な「属性」で一括りにして「○○はこう」という見方が生まれがちな中で、「ニューロセクシズム(生まれ持ってそういう違いがある)」ではなく、「社会構造によってその傾向が生まれている」ことを明確にすることが大切だと感じた。
  • ・子どもたちは学校生活の中で、無意識に偏った見方を身につけてしまうことがある。社会構造に目を向けて変えていこうと思える力を身につけた大人になってほしい。
  • ・子どもとの接し方において、「私の視点で話す」「構造の問題で考える」を大切にしたい。「押し付けて伝えようとすると聞かない」というお話も共感した。
  • ・日本ではジェンダーが「思いやり教育」に回収されがちで、本来の人権の視点が欠けているという指摘はとても腑に落ちた。
  • ・声を出せない・届かない経験が積み重なると、他者への配慮が「自分が奪われること」(相対的はく奪感)のように感じられてしまうのかもしれない。私の住むドイツでは、子ども・大人・性別などに関わらず率直に意見を言い合う環境があり、これが寛容さにつながっているように感じた。

参加者一同、まだまだ聞きたいことや語りたいことが尽きませんでしたが、だからこそ次なる対話につながっていくと感じています。まずは、一人ひとりが「私」の生きづらさを周りと共有し、対話を続けること。小さな対話の波が、社会における大きな構造の問題を浮かび上がらせ、「社会を変えよう・変えられる」という思いや力につながっていく。そう信じて、一歩ずつ進んでいけたら。

【星野俊樹さんに関する情報】

HP https://toshikihoshino.space/
note  https://note.com/toshiki_hoshino/n/nd54456d881e0
Instagram https://www.instagram.com/toshiki_hoshino/
著書『とびこえる教室—フェミニズムと出会った僕が子どもたちと考えた「ふつう」

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