Interview: EVとクリーンエネルギー情報を世界へ 発信するFully Charged

2021 / 11 / 1 | 執筆者:EcoNetworks Editor

ロバート・ルウェリンさん © Fully Charged

Fully Charged創立者・共同CEO ロバート・ルウェリンさんRobert Llewellyn

Interviewer: Yuno Dinnie

はじめに

2021年9月初めの週末に、ロンドンから鉄道で40分ほどの郊外にあるファーンバラ国際展示会議センターに行ってきました。Fully Charged OUTSIDEというイベントへの参加が目的です。YouTubeのチャンネルFully Chargedが主催するライブイベントで、通常はその名もFully Charged LIVEなのですが、今回はコロナ対策として屋外の会場で開催されたためOUTSIDEというわけです。

Fully Chargedは電気自動車(EV)とクリーンエネルギー情報のチャンネルで、3日間のライブイベントもいわば脱炭素技術の祭典です。ファーンバラ駅から会場までは英国テスラオーナーズクラブがシャトルサービスを運行していました。私を会場まで届けてくれたドライバーの方は、大家族なので7人乗りモデルを所有していて、夏には家族揃ってスペイン南部のマラガまでドライブ旅行したと、テスラの素晴らしさを熱く語ってくれました(ルートに沿ってスーパーチャージャーがたくさんあり、充電の心配はまったくなかったそうです)。私が参加したのは土曜日だけでしたが、イベントの規模には圧倒されました。広い会場には世界の自動車メーカーのEVモデルが並び、参加者が気になるモデルを運転できる試乗サーキットも用意されていました。また、ガソリン車から電気自動車に改造されたクラシックカーや、電気オートバイ、電気バン、電気バス、さらには電気トラクターまであらゆる電気車両が展示され、家庭用充電器を展示するブースもたくさんありました。

でもこのイベントのテーマはEVだけではありません。電動アシスト自転車のコーナーもあって、こちらも専用の試乗トラックが用意されていました。また、住宅用の屋根置きソーラーパネルやゼロカーボン暖房機器など住宅の脱炭素化技術に関するブースも数多く、携帯電話などを充電できる発電エクササイズバイクも置いてありました。びっくりしたのは、私が住んでいるスコットランド・ダンディー市がブースを出していたこと。実はダンディー市自治体はEV充電インフラの拡充に積極的に取り組んでいて、過去にFully Chargedで取り上げられたことがあるのです。また、会場に設置された2つのシアターでは終日さまざまなテーマのパネルトークがあり、興味のある話題ばかりなのでどれを聞こうか迷ってしまいました。参考になる話や展示も多く、家に帰ったらさっそく実行したいアイデアをたくさん持ち帰ることができました。150以上のブースと50を超えるパネルトーク、そして300台以上のEVが並ぶそうそうたるイベントに、3日間で16,000人を超える参加者があったそうです。

Fully Chargedの生みの親は、俳優・ライターのロバート・ルウェリンさん。日本でもNHKで放映された人気SFコメディシリーズ『宇宙船レッド・ドワーフ号』で知られ、またガラクタを使って機械を作るゲーム番組Scrapheap Challengeの司会も務めていました。ロバートさんが「EVに関するデマや誤情報が流布している中、本当の情報を届ける」という目的でFully Chargedのパイロットエピソードを発信したのは2010年6月。当時電気自動車を製造しているメーカーは少なく、バッテリーEVはまだ英国市場で販売されていませんでした。しかしそれ以来状況は大きく変わっています。EV-volumes.comによると、2021年前半のEV販売総数は世界全体で約265万台にもなり、特に中国と欧州で伸びが顕著です。Fully Chargedチャンネルも市場の成長に合わせて視聴者が増え、今では世界中に83万人のチャンネル登録者がいる人気チャンネルとなっています。Fully Chargedについて、ロバートさんにお話を伺いました。

Mega theatre

—     まず、Fully Chargedチャンネルを始めたきっかけを教えてください。

RL:          テレビ番組Scrapheap Challengeの米国版(Junkyard Wars)を収録していた時に初めて電気自動車に乗る機会があり、その経験に触発されたのがきっかけです。「人は燃料を燃やすことなく暮らすことができるのか?」という問題について考えるYouTubeチャンネルを立ち上げようと思いました。

5年間かけてチャンネル登録者が3万人に達しましたが、その後は登録の増加も勢いが増して、次のターゲットは100万人です。再生回数は月平均200万回で、世界中からアクセスがありますが、特に多いのは北米、英国、欧州、オーストラリアとなっています。

チャンネル開始から11年が経ち、これまでに600を超えるエピソードをアップロードしましたが、今もFully Chargedがこれほどの支持を得たことに信じられない思いです。世界各地でライブイベントを開催すると、集まった観衆の数にあらためて圧倒されます。

—     ライブイベントFully Charged LIVEを開催するというアイデアはどこから生まれたのですか?

RL:       実を言えば、ライブショーは必要の所産です。Patreon(パトレオン)プラットフォームを通じてパトロンになってくださった方々からの惜しみない支援があるとは言え、YouTubeの収益だけではコストをカバーできません。このような活動をここまで継続できたのは奇跡に近いですが、今後もずっと続けていくには無理がありました。

正直なところライブイベントがうまくいくか半信半疑だったのですが、事業パートナーに説得されて実行を決めたのです。ところが英国・米国で開催してみたところ、これが大成功でした。今度は近々ヨーロッパとオースラリアでも開催する計画です。

—  ロバートさん自身のEV歴について教えてください。2010年にはまだ英国ではバッテリーEVが販売されていませんでしたよね?

RL:       最初はハイブリッド車のトヨタ・プリウスに乗っていました。とても気に入っていましたが、比較的早くから、ピュアEVの可能性に目覚めました。まだ英国には充電インフラが存在していなかった頃の話です。そこで、しばらく三菱アイ・ミーブというバッテリーEVに乗りました。英国で最初にリリースされたピュアEVのひとつです。でも当時は充電できる場所といえば三菱の販社しかなく、しかも行ったら閉まっていて使えないということもよくありました。もちろん、今では自動車もインフラも当時とは大きく変わっています。現在は2台のEV(テスラ・モデル3とヒュンダイ・コナ)を所有していますが、1回の充電での航続距離は、余裕で270マイル(435キロ)を超えます。

Fully Charged presenters © Fully Charged

2030年へ、そしてさらなる未来へ

Fully Charged開始以来英国で起きた最大の変化と言えば、2020年11月に政府が「2030年までに内燃エンジン車の新車販売を終了する」と発表したことでしょう。2020年2月に「2035年までに終了」と発表したばかりでしたが、それから期限がさらに5年早まったことになります。ハイブリッド車(プラグインハイブリッド含む)も2035年までに終了となります。輸送・交通部門の脱炭素化は英国の2050年ネットゼロ目標達成の重要な鍵ですが、自動車産業が内燃エンジンから撤退するまでに残された期限はもう10年を切っており、急速な切り替えが求められています。すでに、テレビのCMやソーシャルメディアの広告では毎日のようにピュアEVの新モデルを目にします。Fully Chargedの制作チームも、EV市場の盛況を受けて次々と新しいエピソードを更新しています。でも、実際に街中で目にする自動車の中では、電気自動車は今もまだごくわずかです。

—  すでにEV移行を進めているドライバーだけに発信するのではなく懐疑的な人々にも届くよう、Fully Chargedでは何か取り組みをしていますか?

RL:          チャンネル視聴者の大半は、初期のEVが登場してすぐに飛びついたパイオニア層と、それに続いてEVに乗り換えたアーリーアダプター層です。こうした層に楽しんでもらうと同時にEVに興味のある新しい視聴者を惹きつけられるよう、うまくバランスを取らなければならないという難しさがあります。

チャンネルの内容を初心者のレベルに下げたり、視聴者に対して上から目線で説教したりするのは本意でないので、全体のスタイルは一貫してずっと変えていません。ただ、視聴者が増えたおかげで、”Maddie Goes Electric”シリーズなど初心者向けコンテンツも制作することができるようになってきました。

—     自動車業界におけるゼロカーボン移行の取り組みをどう評価していますか?

RL:          正直自動車メーカーは苦労していると思います。例えば世界的な半導体チップ不足が引き押したサプライチェーンの問題や、それをさらに悪化させたスエズ運河座礁事件、そしてもちろんコロナ禍の打撃もありました。今後も状況はさらに悪化することも考えられ、ピュアEVへの転換加速もそれに輪をかけることになりそうです。EV転換に遅れをとったメーカーは、ひしひしと痛みを感じるでしょう。EVの市場リーダーであるテスラはどんどん勢いを増しており、積極的にEV開発に取り組んできた韓国メーカーや中国の新興メーカーも大きく躍進するでしょうが、一方で従来からの大手ブランドで、特に今の段階でまだ納得できるレベルのバッテリーEVを市場に出せていないメーカーは、かつて写真フィルム大手のコダックがデジタル化の波に乗り遅れて破綻を迎えた時のような悪夢を経験する可能性があります。

—  世界の脱炭素化推進において、特に「公正な移行」という観点から見て、EVの位置付けをどう考えていますか? Fully Chargedではそれをどう反映していますか?

RL:          最もフラストレーションを感じるのは、EVをはじめとする脱炭素技術の価格があまりにも高すぎることです。とは言え、経済的に豊かなアーリーアダプター層がまず導入を進め、市場が拡大するにつれて価格が下がって一般消費者にも手が届くようになるのは、よくあるパターンです。できるだけ多くの人が炭素排出削減に取り組むことができるよう、Fully Chargedでは比較的安価で入手しやすい選択肢も紹介し、できるだけ広く情報を発信するよう務めています。

—  最近Fully Chargedでは、”Home Energy Series”と題して、一般住宅の脱炭素化に貢献するさまざまなクリーン技術を紹介していましたね。これからも住宅のエネルギー移行などEV以外の話題に関するコンテンツを企画しているのでしょうか? チャンネル創設当時から、単なるEV情報の枠にはまらないチャンネルにしようと考えていたのですか?

RL:          はい、その通りです。Fully Chargedのスローガンは#StopBurningStuff(燃料を燃やすのはやめよう)ですから、この「燃やさない」というテーマに入る話題はなんでも取り上げようというのが、当初からの主旨でした。今はEV業界やクリーンエネルギー全般に勢いがついていますが、住宅の脱炭素化は取り組みが難しい課題です。

—  最近ポッドキャストで、Fully Chargedで COP26関連企画を計画しているというお話をされていましたね?

RL:          企画は複数あってどれもささやかなものですが、せっかくの機会なので、これから普及を進めるべきクリーン技術や今後フェーズアウトする必要がある技術について、一言言っておきたいと思いました。

 

COP26に先立って公開された特別エピソードや、その中で発表された#StopBurningStuffマニフェストは、Fully Chargedのウェブサイト(https://fullycharged.show/)からアクセスできます。また、YouTubeチャンネルのフィーチャーコンテンツに加え、姉妹チャンネルFully Charged Plus のショーケースやインタビュー、ポッドキャストなどに、ここからアクセスできます。また、Insightsセクションのブログも、興味深い話題を取り上げていて必見です。

Team Fully Charged © Fully Charged

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