アパレル企業のエシカル度は? 「企業のエシカル通信簿」結果発表

2024 / 4 / 4 | カテゴリー: | 執筆者:近藤 圭子 Keiko Kondo

いまや広く知られるようになった「エシカル消費」という言葉。「消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」を指すそうです(消費者庁ウェブサイトより)。

とはいえ悩ましいのは、「事業者がエシカルか」を、どのように判断するか。これまで本サイト(ENWラボ)では、企業のエシカル度を可視化するアプリGood On YouやCoGoのCEOインタビューを掲載したことがあります。公共善エコノミーも、「公共善(コモングッド)」に対する企業の貢献度を見える化し、購買活動などにつなげることを目指す取り組みです。

<ENWラボ掲載記事>
Good On You:Interview: 携帯アプリが後押しする「エシカル消費」
CoGo:Interview: 人々と地球のために消費者と企業をつなぐ
公共善エコノミー:『公共善エコノミー』人と地球を優先する経済システム

それぞれ海外を発祥とした動きですが、企業のエシカル度を可視化する取り組みは、日本にも存在します。その一つが、消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク(SSRC)が行う「企業のエシカル通信簿」です。この度、2023年度調査の報告会が行われると聞き、参加してきました。

会場に貼られたポスター

結果発表会は、会場(聖心女子大学)とオンラインのハイブリッドで行われた


執筆:近藤 圭子
ライター。インクルーシブな地域を作る人と組織を、書くことを通してサポートしている。


企業のエシカル通信簿とは?

2016年度にスタートした「企業のエシカル通信簿」は2023年度で7回目を数えます。1年ごとに調査対象となる業界を決め、売上高上位の企業を対象に調査を行ってきました。

第1回(2016年度) 加工食品、アパレル
第2回(2017年度) 化粧品、コンビニ、宅配
第3回(2018年度) 家電、外食
第4回(2019年度) カフェ、飲料
第5回(2021年度) スーパーマーケット
第6回(2022年度) 加工食品
第7回(2023年度) アパレル

第7回(2023年度)の対象であるアパレル業界は、第1回(2016年度)にも調査を行っていました。2023年は、アパレル業界の課題を浮き彫りにしたラナ・プラザビル崩落事故から10年の節目の年。エシカルファッションへの関心が高まる中、第1回からの7年間でいかに変化したかにも注目です。

第7回調査 対象企業
・株式会社ファーストリテイリング ★
・株式会社しまむら ★
・株式会社アダストリア
・株式会社良品計画
・株式会社ワコールホールディングス
・株式会社ワールド ★
・株式会社TSIホールディングス
・株式会社オンワードホールディングス ★
・青山商事株式会社 ★
・株式会社ユナイテッドアローズ
(★は第1回でも調査対象だった企業)

調査を実施する「消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク(SSRC)」は、調査の意義に賛同する全国のNGO、38団体からなるネットワークです。それぞれのNGOは、環境や人権などの専門性を持ち、その視点を活かした評価が行われています。

調査は以下の7分野で行われました。

1)サステナビリティ体制
2)消費者の保護・支援
3)人権・労働
4)社会・社会貢献
5)平和・非暴力
6)アニマルウェルフェア
7)環境

調査では、各分野を担当するメンバーが、企業のウェブサイトや統合報告書など公開された情報を基に調査票に回答を記入。記入済調査票を対象企業に送信して修正や加筆などの意見回答を求めました。企業から回答があった場合はメンバーで検討し、企業とのコミュニケーションを重ねた上で、回答に反映しています。

会場の様子

報告会には、NGOや調査対象企業の担当者、研究者など、約100名が参加

2023年度調査の結果発表

今年の報告会は、会場とオンラインのハイブリッドで行われました。調査結果は以下のようになっています(詳しくはSSRCのウェブサイトをご参照ください。「環境」分野についてより細分化したチャートも掲載されています)。

アパレル企業レイティング一覧表。縦軸に企業名、横軸に項目名

施策が充実している企業ほど、点数が高い

企業のエシカル通信簿では総合点は算出していないが、レーダーチャートも比較の参考になる

全体的な特徴

・10社中7社から回答あり(第1回調査では対象5社中回答ゼロ)
・第1回調査と比べ、サステナビリティ体制、人権・労働、環境で進展
・平和・非暴力、アニマルウェルフェアには進展が見られなかった

1)サステナビリティ体制

・基本方針の有無やサプライチェーンに向けた取り組みなどを調査した項目
・10社中9社でマテリアリティを特定。うち6社はステークホルダーの声を聞いている
・課題はサステナビリティに関する従業員教育。「一部の従業員に実施」が2社、「正社員に実施」が2社
・2次調達先以上を把握しているのは、10社中6社

2)消費者の保護・支援

・店頭での衣料回収など、消費者の行動を促す取り組みは、全社が実施。ただし、「大量販売→衣料回収→購買を促す」が狙いだと、消費者に受け取られる可能性も。伝え方の工夫を
・10社中4社が、持続可能な消費を促すための消費者向け情報発信を実施
・各社ウェブサイト上の情報は投資家を強く意識しており、消費者へのアピールは弱くなっている印象
・グリーンウォッシュ、ブルーウォッシュに対する取り組みが進んでいない

3)人権・労働

・第1回調査対象だった5社すべてで評価が上昇(青山商事:1→7、しまむら:1→5と大きく変化)
・人権デュー・デリジェンスの全プロセス実施は3社(ファーストリテイリング、良品計画、ワコール)
・部分実施は2社(青山商事、ユナイテッドアローズ)
・「自社における労働搾取の防止、労働者の権利の保護」については、「労働基準法の遵守を前提としているため公開不要」として、Webサイトなどで非公開の企業が多い。ただし、労働関連法では防げない人権侵害もあるため取り組みの実施と開示が必要

4)社会・社会貢献

・各社ウェブサイト上の情報は投資家を意識しており、社会貢献分野の情報を探しにくい
・10社中9社が、社会貢献に関する方針を設定(第1回調査では5社中1社のみ)
・地域への進出時、撤退時に与える影響に言及した方針は、どの企業も持っていない

5)平和・非暴力

・平和・非暴力に関する方針や計画を持つ企業はゼロで、平和・非暴力への意識は低い
・日本企業も緊急の対応を求められる可能性があり(例:ミャンマーのクーデターやロシアのウクライナ侵攻に際しての事業停止など)、積極的な関与を期待したい

6)アニマルウェルフェア

・全体的に点数が低く、10社中8社が「1」
・10社中5社ではいまだにリアルファーの取り扱いがある
・アニマルウェルフェアについてポリシーや基準があるのは、10社中4社

7)環境

・環境マネジメントシステム(EMS)の導入は10社中3社
・内部監査実施は3社、外部監査実施は4社で、他業種に比べて少ない
・環境方針などに省資源・ごみ削減を掲げるのは、10社中8社。ただし、3Rの優先順位の記載はない(Reduce<へらす>を優先すべき)
・ごみ削減に関して、第1回調査では梱包材のリユースなど部分的な取り組みにとどまったが、今回は企画設計から販売まで各段階での取り組みが見られた
・化学物質管理の方針を持ち公開しているのは、2社のみ
・原水保全や水資源確保の取り組みは1社のみ

応援したい、日本の市民発の取り組み

壇上に8名の方々。

質疑応答の様子。調査の各分野の発表は、それぞれの分野を専門とするNGOの方が担当した

報告会に参加して、第1回調査以降の7年間で企業が大きく変わったと感じました。消費者としても、こうした調査で各社の姿勢を見られると、商品を選ぶときの参考になります。結果発表会の質疑応答では、会場から「日本に来る外国人も参考にできるよう、英語でもぜひ発信してほしい」とのコメントもあり、言葉の壁を越えて広く知られてほしいと思いました。

また、「エシカル通信簿」は大企業向けの調査ですが、SSRCではこの調査をアレンジして、中小企業向けセルフチェックツールを展開しているそうです。中小企業が、エシカルな企業へと変わっていくのをサポートするもので、こちらも注目したいプロジェクトです。

今の時代、エシカルを志向するのは、企業もNGOも同じでしょう。「過去と他人は変えられない」などといいますが、NGOにとって企業はいわば「変えたい他人」。その「他人」が、エシカルを否定しているのなら別ですが、大きく同じ方向を目指しているのならば、この通信簿のような情報は変わる助けになるかもしれません。社会をよりエシカルにしていくため、それぞれの場所で行動していけたらと思いました。

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