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【対談】みんなのダイアログ(対話)で作る、エコネットワークスの中期経営計画
エコネットワークスは、世界各国に広がる多彩なメンバーで構成されており、一人ひとりのライフスタイルや働き方など、サステナブルな個のあり方を尊重しています。「個」がつながる組織経営を目指して、組織の方向性や計画などについて、これまでもさまざまなパートナーが参加して考えてきました。
昨年は中期経営計画を策定するための第一段階として、パートナーの誰もが参加できる「ダイアログ(対話)」を全9回にわたって開催しました。対話し、悩み、そして試行錯誤しながら進める中期経営計画づくりの様子を、事務局メンバーの対談とともにお伝えします。
話:中期経営計画プロジェクト事務局の皆さん
野澤 健
エコネットワークス代表。幼少期をフランスで過ごし、環境や国際協力などの研究や活動に取り組んだ学生時代を経て、2008年からエコネットワークスに参画。2016年から現職。
木村 麻紀
フリージャーナリスト。時事通信社記者を経て、フリージャーナリストに転向。SDGs.tvやCircular Economy Hubの編集ディレクターを務めながら、エコネットワークスでは企業向けコンテンツ制作や組織運営に関わるファシリテーションを担当。
石原 明美
ファシリテーター。システム開発の経験を元に、組織開発などに関わる分析・デザインなどを行う。エコネットワークスでは、翻訳講座の事務局のほか、主に組織開発に関するサポートを担当。
取材・文:宮原 桃子(エコネットワークス ライター)
ダイアログ(対話)で始まった、中期経営計画づくり
エコネットワークスの中期経営計画(以下、中計)づくりは、2020年9月から12月の3か月間にわたって、多様なテーマから組織のあり方を考える全9回の「ダイアログ(対話)」からスタートしました。業務や運営に関わるパートナーなど累計30人以上が参加し、各回のダイアログは、ゲストスピーカーの経験談や事例紹介などを起点に、皆で話し合うスタイルで進みました。
<中計ダイアログのテーマ>
第1回 | 社会に開く、社会とつながる、社会の変化を後押しするために何ができるか? |
第2回 | 個のサステナビリティの実践を後押しするためにできること・必要なこと |
第3回 | グローバル&ローカルなクライアント開拓 |
第4回 | グローバル&ローカルなネットワーク開拓&コミュニティ作り |
第5回 | 多様性がありインクルーシブな組織作り |
第6回 | ENWとステークホルダーにとっての重要課題 |
第7回 | これからの組織所有とガバナンスの形 |
第8回 | キャリア育成×アライアンス |
第9回 | 全体を振り返って |
― 事務局メンバーは、代表の野澤さんと、メンバー募集に手を挙げた木村さんと石原さんの3人。どんな経緯や思いから集ったのでしょうか。
木村:2~3年前に、エコネットワークスが他企業とともに組織運営を学ぶワークショップや、プロジェクトマネージャーなどが参加する合宿で、企画やファシリテーションに関わりました。その経験を活かして、今回も企画設計やダイアログのファシリテーターとして参加することにしたんです。

木村麻紀さん
石原:私は、ずっとサステナブルな働き方や組織開発に関心があって、これまでエコネットワークスの組織ビジョンやミッションについて、イメージ図や戦略マップなどを作りながら整理するお手伝いをしてきました。そのような流れもあって、事務局に参加しました。

石原明美さん(過去の合宿より)
野澤:今回新たな中計づくりを始めるまで、2014年からは顧客・サービスの拡大やパートナーのネットワーク強化を進め、2018年頃からは「動きながら進める」スタイルで、パートナーやプロジェクトが自立して動いていくような、自律分散型の組織づくりに挑戦してきました。お二人とも、要所要所で、考えの整理や場の設計に一緒に取り組んできてくださってきました。今回もご一緒できて心強かったです。
先行きの見えない今こそ、みんなの「こんな組織でありたい」を形にしていく
― 昨年はコロナ禍で大変な1年でしたが、この時期に中計づくりを進めたのは、なぜでしょうか?

野澤健さん(過去の合宿より)
野澤:誰にとっても先行きがわからないコロナ禍を目の前に、組織として少しでも先の方向性を示すことで、パートナーが安心して働けるようにしたいと思いました。そしてこんな時代だからこそ、最初から組織のあるべき姿が決まっていて、上から一方的に中長期的な方向性を示すということではなく、ともに働くパートナーそれぞれが「どんな組織にしたいか」を自分ごととして一緒に考えていけたらと考えたんです。
― 中計づくりを通して、どんなことを実現したいと考えていましたか?
野澤:実現したかったのは、計画というよりは、もう少し大きな方向性やビジョンかもしれないですね。進む道をかっちり決めるというよりは、大きな方向性を浮かび上がらせ、それぞれがそこに向かって、多様な道をドリフトしながら進んで行くようなイメージというか…。
石原:そうなんですよね、野澤さんと最初に中計の進め方について話し合ったとき、この活動を通して経営計画書のような成果物を出すことより、その過程を大事にしたいと考えていると思いました。そこでこの図にあるように、成果目標の前段階に、あえてプロセス目標をいれました。ダイアログは、このプロセス目標を達成するためのものでもあるんです。
話し方が組織のカルチャーを形作る、「ダイアログ(対話)」の価値
― ダイアログは、さまざまなテーマで全9回開催されました。議論や意見交換ではなく、「ダイアログ」という言葉に込められた想いを教えていただけますか?
木村:ダイアログ(対話)とディスカッション(議論)を混同しないように、第一回ダイアログの冒頭で皆さんと共有したのが、こちらです。
石原:ディスカッションでは、私たちはどうしても答えを見つけようとしてしまいますが、ダイアログではお互いの前提を理解し、自分の考えも俯瞰して捉える中で、組織全体の考え方ができていきます。「そこで話された言葉や話し方で、組織やコミュニティーの真実がつくられていく」という社会構成主義の考え方があります。良いダイアログができる場を持つことは、エコネットワークスの強みになると思います。
野澤:一方的に方向性を示したり判断したりするのではなく、ダイアログによって、エコネットワークスの実績や課題、パートナーそれぞれの考えや経験を「まずはテーブルに出し共有する」「掘り下げる」ことができたのではないかなと思います。
― ダイアログを進めるにあたって、大切にしたことや気をつけたことはありますか?

ファシリテーションをする木村さん(過去の合宿より)
木村:より双方向性のあるダイアログにするために、まず事前アンケートで、パートナーのニーズや考えを言語化してもらいました。ダイアログでは、それをより深く引き出すファシリテーションを心がけました。
ただ、ダイアログって本当に深いんですよね…。相手の話をどこまで聞けるかがダイアログの肝なんですけど、私たちって相手の話をきちんと聞いていないことが多い。その難しさを意識しながら取り組んでいましたね。
ダイアログで集まった多様な声、チームとしての新たな挑戦
― 中計ダイアログの中で、印象に残っていることはありますか?

オンラインで開催されたダイアログの様子
石原:私は、第5回「多様性がありインクルーシブな組織作り」が印象に残っています。多様性というと、属性に目が行きがちですが、目に見えない多様性の大切さについて意見が出て、改めて多様性って幅広いなと感じました。ダイアログの手法でも「多声性」(一人ひとりの声)の大切さが説かれていて、これに共通しますね。
木村:「多声性」、面白いですね。まさに今回の中計のプロセスそのものが、一人ひとりの声や思い、ニーズに、真摯に謙虚にフォーカスするものだったと思います。
野澤:参加者からの声で印象に残っているのは、一連のダイアログを通じて自分の行動が変わり、地域に関わるようになったというコメントですね。中期的な方向性を考えていく上では、組織や個人、仕事と暮らしなど、エコネットワークスという組織の話だけでなく、一人ひとりの働き方や暮らし方の両面を含めたものにしたいと思っていたので、参加者のアクションが生まれて「自分ごと化」につながったことは、印象深いです。
木村:私が印象に残っているのは、第7回「これからの組織所有とガバナンスの形」ですね。コロナ禍では世の中でリモートワークが進み、働き方が大きく変わりましたが、これをずっと続けてきたエコネットワークスは、ある意味ですでに最先端にいたと言えます。働き方や組織のあり方といった領域で、エコネットワークスが果たせるものは大きいのではないかなと感じました。
― 参加者の皆さんの意識や関わりに、変化を感じましたか?

参加者の声に耳を傾ける石原さん(過去の合宿より)
石原:そうですね、皆さん日頃はリモートで仕事をしている分、今回のような場ではそれぞれからたくさんお話が出てきましたね。ダイアログを通じて、組織運営に関わるさまざまなテーマを「私たちも一緒に考えていいんだ!」ということ、チームで考えていく感覚を共有できたのかなと感じています。
野澤:最後のまとめダイアログでも、参加者から「エコネットワークスに外から期待するのではなくて、自分もその一員として何ができるかを考えたい」という意見が出て、嬉しく思いました。
― 全体として、どんな成果がありましたか? また課題はありましたか?
野澤:中計ダイアログは自主参加型でしたが、結果的にたくさんのパートナーが参加し、多様な声を浮き彫りにすることができました。一方で、今回のような場に参加していなくても、組織で役割を果たしている方もいるので、こうした方々の声をどう反映していくかは今後の課題の一つですね。
石原:すべてのダイアログの膨大な記録が残されていて、そのテキスト情報を活かせないのはもったいないと思って、「テキストマイニング」という手法で機械分析してみました。その結果は、みなさんの関心や思いをかなり的確に示していると思いますし、社会構成主義的にも、エコネットワークスの真実が表されていると改めて思いました。
木村:あとは、私たち事務局3人の挑戦が、個人ではなくてチームで動くという、一つの成果だったように思います。エコネットワークスは「個が輝き、チームが輝く」をコンセプトの一つに掲げていますが、中計のプロセスは「チームが輝く」を実践する一つの場だったのかなと。
石原:事務局チーム3人で打ち合わせを重ねて、走りながら方向性が固まっていったプロセスは、とても楽しかったですよね。
木村:チームでトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、動きながら考える。そのこと自体に楽しさがあり、新たなものが生まれるための土壌づくりにつながったのではないでしょうか。
野澤:あとは今回、事前アンケート・当日のダイアログ・事後の振り返りと、参加者で何度も内省を繰り返しながら進めたことは、考えや意見を深める上でとても大切だと感じました。例えばこのインタビューも、私にとっては中計でやってきたことを改めて捉え直し、その価値を再認識する時間になっています。進みながら考える、そしてまた進む、これを繰り返すことって大切ですよね。
― エコネットワークスのダイアログは、これからも続いていきますね。今後は、どのようなことが進んで行くのでしょうか?
野澤:中計ダイアログで出たアイデアや意見を、具体化・実行するフェーズに移っていきます。組織全体を考える場と、個別のテーマを考える場が連動しながら、進むイメージです。それぞれのテーマに関心のあるパートナーが、一定の責任を担いながら参加して、自律的に取り組みが進むような仕組みになればいいなと思います。
石原:私の方では、今後も続くダイアログに向けて、ダイアログやファシリテーションのスキルを学べるような勉強会を企画しているところです。
木村:これからは、組織としての文化やあり方に、より一層の価値が見いだされる時代になっていくと思います。私も、エコネットワークスという組織のあり方や価値を一緒に作っていくことに、ワクワクしています。
これからも続いていく、エコネットワークスの組織作りの挑戦。