ENW Lab.
多様性について考えよう〜Vol.2 LGBT-JAPAN田附 亮氏 × 車椅子インフルエンサー中嶋 涼子氏の対談
エコネットワークス(以下ENW)では、「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマにした継続的な学びの場づくりを進めています。人の多様性に焦点を当て、当事者や支援者の声から理解を深めていく勉強会で、ENWのパートナーやクライアントが参加しています。
第2回は、第1回目のゲストである田附 亮さんの紹介で、車椅子インフルエンサーの中嶋 涼子さんをお招きしました。お二人の対談形式で、当事者としての体験や、誰もが生きやすい社会を作るためにできることを伺いました。
第1回の様子はこちら
ゲスト:田附 亮氏
一般社団法人LGBT-JAPAN代表理事。
生物学的には女性で生まれるが、自身の事を男性として認識しているトランスジェンダー男性。2006年にホルモン治療を開始し男性化し、2009年に乳腺乳房摘出手術、戸籍上の名前を亮子から亮に変更。2015年に「LGBT-JAPAN」を設立し、現在は代表理事として社会とLGBTQの架け橋となり、多方面で活動や講演を行っている。
https://lgbt-jp.com
中嶋 涼子氏
車椅子インフルエンサー。9 歳の時に突然歩けなくなり、原因不明のまま下半身不随になり、「横断性脊髄炎」と診断され車椅子生活へ。2005年に渡米し、語学学校を経て、2011年、南カリフォルニア大学映画学部を卒業。2012年に帰国後、通訳・翻訳を経て、映像編集者として働く。2017年、車椅子インフルエンサーに転身。テレビ出演、YouTube制作、講演活動等さまざまな分野で活動し、障がい者のリアルな生活を発信することで日本の社会や日本人の心をバリアフリーにしていけるよう発信し続けている。
https://ryoko-nakajima.com
執筆:早川 貴子
千葉県在住。企業でのCSR推進の経験を生かし、クライアントのCSRを支援中。
当事者でないと気づきにくい生活面の難しさは?
田附:当事者でないと気づきにくいことがありますよね。僕はトイレが大変でした。トランスジェンダーは移行期間中、男か女かわかりにくくなるので、どちらにも入りづらかったです。
中嶋:私は9歳の時「横断性脊髄炎」と診断されて以来、ずっと車椅子生活ですが、歩けないことより辛いのが、排尿や排便を自分でできないことです。最近まで周りに言えず、ずっと隠していました。
田附:最近は多目的トイレなど入りやすくなっている気もしますが、利用者としてもっとこうなればいいと思うことはありますか?
中嶋:設置位置に配慮があるといいですね。多目的トイレが男性側にしかないと入りづらいです。私が留学していたアメリカの学校では、男女それぞれのトイレの一番奥に、車椅子でも入れる広いスペースがあったので、友人と一緒のトイレに入れるのがうれしかったです。
当事者にとって不要な配慮と本当に必要な配慮
田附:僕は、「かわいそう、大変だから」という理由でトランスジェンダーを特別視した配慮は必要ないと思っています。例えば性別適合手術のために特別休暇制度を設けているケースがありますが、特別休暇はトランスジェンダーだけでなく、皆が個人の事情で取得できる方がいいのでは?
中嶋:特別視は不要ですよね。階段しかない駅で駅員さんに補助をお願いした時、6人くらいの駅員さんが「車椅子の方通ります!」と周りに声を掛けながら運んでくれたのですが、そんなに必要な状況だったかなと。大げさな対応から感じる壁があります。電車に乗る時は、私は車椅子の前輪を上げて1人で乗ることができますが、電動車椅子の人など補助が必要な方もいます。その人がしてほしいことを尋ねることが大事だと思います。
当事者の視点から企業の取り組みに感じることは?
田附:企業の取り組みはどう思いますか?僕は、レインボーフラッグを掲げたり、LGBTフレンドリーと言ったりするだけで解決するものではないと思っていて。それよりも、重要なのは実際の取り組みですよね。
中嶋:ある企業の研修に参加したことがあります。それは、障がい者と街を歩いて、気づいたことをディスカッションするプログラム。参加者は、周りからの見られ方や意外と多い段差などに気づいて、学びになったそうです。「障がい者」を一括りにした講義からではなく、一緒に触れ合うことから、一人ひとり違うということをわかってもらえるといいなと思います。
田附:そうですよね。トランスジェンダーにもさまざまな人がいます。触れ合う時間を増やしていくことで、個人としてどういう考え方なのかを理解しあっていけるといいですよね。僕も、中嶋さんと一緒に出かける時は事前に写真を送って、「ここ、大丈夫そう?」と聞いたりします。僕たちは友達同士ですけど、そうでなくても、相手を慮って質問しあうコミュニケーションは、LGBTであろうと車椅子ユーザーであろうと関係なく重要だと思います。
誰もが生きやすい社会に向けて
田附:中嶋さんは、誰もが生きやすい社会になっていくには、どうしたらいいと思いますか?
中嶋:今の日本社会に一番必要なのは、「心のバリアフリー」です。日本では車椅子が珍しいからか、手伝いたくても、話しかけることを躊躇する人が多いですよね。アメリカにいたときは、車椅子はベビーカーを見るくらい一般的でした。全く知らない人に道端で「何で車椅子なの?」と聞かれることも。障がい者が特別視されていないことがうれしかったです。その流れで、車椅子を押してくれたり、エレベーターの場所を教えてくれたりすることもあって。日本では車椅子ユーザーに接する経験の少なさから、心のバリアが社会にあると思います。だからこそ、私はどんどん外に出て、車椅子の人も街で気軽に声をかけられる存在になれるように活動を続けています。健常者と障がい者の心のバリアがなくなっていけば、誰もが生きやすい社会になっていくのではないかと思います。
当事者に対して何か思うことは?
中嶋:車椅子生活になって、絶望して引きこもった時期もありました。前向きに生きられるようになったのは、大好きな映画と出会ったのがきっかけです。自分が映画にパワーをもらったように、自分もいつか人にパワーを与えたいと思って今の活動を続けています。できないことよりできることを探して全力で楽しむと、障がい者も健常者も人生楽しめますよね。当事者には諦めないでほしいなと思います。
田附:身近に車椅子の人がいたら、どう接するのがいいですか?
中嶋:「何か手伝おうか?」と気軽に接してくれると私はうれしいです。ときには、「自分でできるので」と断られることもあるかもしれませんが、落ち込まないでほしいと思います。私自身は、お断りしたとしても、1日ハッピーな気持ちで過ごせるんです。
田附:僕も、手伝いを申し出て断られたことがあるのですが、そう思ってくれる方もいるなら、気軽に声をかけていいのかも。僕が活動を始めたきっかけも、中嶋さんと似ています。生きるのが辛いと思っていた時期に訪れたアメリカの西海岸では、当たり前に生きているゲイカップルなどの当事者がたくさんいました。彼らの姿を見て、日本もそうできたらと、活動を始めたのです。中嶋さんの話を聞くと、性的マイノリティと身体的マイノリティのリンクする部分がありますよね。人として重要なのは結局、思いやりやコミュニケーションだと感じます。中嶋さんの発信は、お互いを知ることにもつながりますので、これからも活動頑張って下さい。
中嶋:ありがとうございます。
お二人の対談を聞いて〜誰もが生きやすい社会について皆で考えよう〜
後半は、田附さん、中嶋さんと参加者でディスカッションを実施しました。今回参加したのは、ENWのパートナーとクライアント企業の方計14名。田附さんも中嶋さんも「何でも気軽に聞いてください!」とオープンで話しやすい雰囲気をつくってくださったおかげで、参加者からはさまざまな質問や意見がでました。皆が助け合う社会のためにできること、心のバリアフリー、インフルエンサーとして発信していく上で心がけていること、インクルージョンの重要さ、企業の発信で気をつけるべきこと、当事者への活動等について、ゲストのお二人も参加者も積極的に意見を交換しました。田附さんも中嶋さんも「触れ合う時間」が大事だと言います。特に、無意識の偏見や心の壁は、大人によって子どもの頃に形成されることも多いので、幼少期から当事者と触れ合う時間をもつことが大切。お二人は小中学校での講演活動も積極的に行っています。さらには子どもたちだけなく、企業やさまざまな人との架け橋になっていきたいと前向きに話をしてくれました。
ディスカッションに参加して
今回の対談の企画は、性的マイノリティと身体的マイノリティの当事者のお話を伺うという側面もありました。しかし実際にお話を伺うと、共通する部分も多く、そこに壁はなく、人は皆何かの当事者であるのだと気づかされました。そもそもマイノリティやマジョリティという考えにも違和感があります。一方で心の壁を自分で作ってしまっていたと感じることもあります。心の壁をなくしていくためにも、思いやりをもって気軽に話しかけることなど心がけていきたいと感じました。今後も多様性について考えていく機会をさまざまな形で設けていく予定です。ご意見ご提言ございましたらお気軽にお問い合わせください。