多様性について考えよう〜Vol.1 LGBT-JAPAN田附 亮氏をお招きして

2021 / 6 / 1 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks Editor

エコネットワークス(以下ENW)のパートナー数名で、先日、一般社団法人LGBT-JAPAN代表理事の田附 亮さんにお話を聞く機会がありました。LGBTQについて社会が変わるだけでなく、LGBTQ自らも社会の一員になるべく、お互いが歩み寄ることが大切であるということを理念に活動しているそうです。


ゲスト:田附 亮氏
一般社団法人LGBT-JAPAN 代表理事。
生物学的には女性で生まれるが、自身の事を男性として認識しているトランスジェンダー男性。2006年にホルモン治療を開始し男性化し、2009年に乳腺乳房摘出手術、戸籍上の名前を亮子から亮に変更。2015年に「LGBT-JAPAN」を設立し、現在は代表理事として社会とLGBTQの架け橋となり、多方面で活動や講演を行っている。

一般社団法人LGBT-JAPAN:https://lgbt-jp.com/


執筆:早川 貴子
千葉県在住。これまでのキャリアを活かし、企業のCSRを支援中。


多様性はさまざまなところにある

ENWでは、「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマにした継続的な学びの場づくりを進めています。
人の多様性に焦点を当て、当事者や支援者の声から理解を深めていく勉強会です。
第1回は、田附さんをゲストにお招きし、「LGBTQ/SOGI※」をテーマにディスカッションをしました。

※LGBTQとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性が一致していない人)に加えて、自分の性がわからないという「クエスチョニング」と性的少数者を表す「クィア」のQを加えた、セクシュアルマイノリティ全般を表す言葉。SOGIとは、性的指向(Sexual Orientation)、性自認(Gender Identity)それぞれの頭文字をとった略称で、異性愛の人も含めた全ての人が持っている属性のこと。

田附 亮さん

「多様性はLGBTQだけでなく、さまざまなところにあります。身近なわかりやすい例えをすると、食。自分や家庭独自の食べ方を人に伝えた時の反応は、人それぞれです。興味関心を示す人、無関心な人、否定的な人など」

そう話し始めたLGBT-JAPANの田附さん。この反応はカミングアウトした時の反応にも似ているそうです。相手の気持ちに寄り添うこと、自分だったらどんな反応なら傷つかないか考えること、情報だけで判断して無理矢理進めないことなどの心掛けが大事だと田附さんは話します。

「LGBTQ」は日本でも当たり前のように認識されてきていますが、国際的には誰もが当事者であると捉える「SOGI」の考え方が主流となってきています。「生まれたときの性、心の性、好きになる性など、皆さんの中にも実は多様な性のあり方が存在しているはずです。そう考えると、人間皆多様な性の当事者です。」と田附さんは言います。

日本におけるLGBTQの人口は約10%。日本人の名字ランキング上位4つ(佐藤、鈴木、田中、高橋)が全体の5%という数字と比較してもLGBTQの人口はずっと多く存在しています。身近にLGBTQの人がいないと思う人も、知らないだけで近くにいる可能性が高いと言えます。

当事者自らも変化し、お互いに歩み寄っていくことが大切

FtMトランスジェンダー(Female To Maleの略で、女性として出生し性自認が男性である人)の田附さん自身が最初に違和感を覚えたのは、七五三でお化粧をされて抵抗したときのこと。最終的には千歳飴の本数を増やしてもらうことで納得したそうですが、今でもその感覚を鮮明に覚えているそうです。自分は何者なのだろうという問いはその後年々大きくなり、将来に希望が持てず悩んでいた19歳のときに飲食業のアルバイトを始め、働くうちにこの仲間ならと思えるようになり、カミングアウト。すると職場の反応は「だから何?田附は田附でしょ」と。そのとき、1人の人間として自分を見てくれたことがきっかけで、性別などではなく人として生きることが大事だと希望がもてるようになったそうです。

2006年にホルモン治療を開始し、2009年に乳腺乳房摘出手術、戸籍上の名前を亮子から亮に変更。特に治療開始から1年くらいの移行期間中は、お手洗いや外で名前を呼ばれたとき、アルバイトの制服選びなど大変な場面がいろいろあった他、声が低くなっていくことで、これまで通りのコミュニケーションをしていてもきつく感じられたことがあったので、声のトーンにも気をつけたそうです。

「そこの女の子」「お兄さん」と無意識に声をかけてしまうことがあるかもしれません。世の中には、さまざまな性別やカップル等がいるので、想像力を働かせた呼びかけや言葉の掛け方が大事だと田附さんは言います。
LGBTQ当事者は、当事者でない人にも歩み寄る心が大事だと言います。一方で、LGBTQは皆と同じように生活する社会の一部であり、LGBTQだけを特別視するのは違うとも指摘します。
人は誰しも何かの当事者になり得ます。その時に社会に変化を求めるだけでなく、自らも変化し、お互いが歩み寄ることが大切だと明るく前向きに話してくれました。

たつきさん。Zoomのスクリーンショットから

楽しく明るくお話くださった田附さん。企業研修に招かれて講演をすることもあるそうです

田附さんのお話を聞いて〜多様性について考えよう〜

後半は、田附さんと参加者でディスカッションを実施しました。今回参加したのは、ENWのパートナーで多様性に関心のあるメンバー8名。議論は日本社会における固定観念やLGBT差別禁止法、LGBTQコミュニティ、異性愛者の中にある性の多様性、婚姻制度等、多岐にわたりました。
なかでも印象的だったのは、日本社会における「普通」の壁。「普通」や「男らしさ」「女らしさ」「女の子だからピンク色」などの固定観念は、幼少期に大人によって植え付けられることが多いと田附さんは指摘します。次代を担っていく子どもたちの柔軟な考えに、大人が固定観念を植え付けず、いろいろな可能性があることを子どもたちが判断できるようになっていくこと。そして大人が「普通」を問い直し、気づいていくことも大切だと言います。

ディスカッションに参加して

幼少期をアメリカで過ごし、結婚後ベトナム・シンガポールに暮らし、現地で育児をしていた私はいわゆる多様な社会にそれなりに触れていたように思います。現在は日本で4歳の子どもの育児に追われながらENWのパートナーとして仕事をしています。これまで「みんな違って当たり前」と思って過ごしてきたつもりでしたが、息子の集団生活における個性的な行動をみては動揺する自分に気づき、無意識に自分に「同調圧力」をかけていたことを感じました。それがきっかけで、もっと多様性を考えられる人になりたい、そして皆が生きやすい社会になっていってほしいという思いを強く抱くようになり、このような勉強会を企画することになりました。今回の勉強会を通じて、多様性は皆の中にあり、そのグラデーションの中で皆生きているということを改めて認識することができました。だからこそ相手への想像力を働かせていけるようになりたいと思います。
今後も多様性について考えていく機会をさまざまな形で設けていく予定です。ご意見ご提言ございましたらお気軽にお問い合わせください。

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