あいまいなものが持つ、しなやかでおおらかな力

2015 / 9 / 7 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks

私の好きな食べもの1つに、加賀野菜の金時草があります。
葉の裏が紫色をしていて、アントシアニンが多く含まれるため
最近の健康志向も相まって、人気が高まっています。

庭の小さなプランターで栽培を始めて2年目ですが、
うっかりポキッと折ってしまっても、
土に挿しておくとやがて根付いて大きくなるほど生命力も強い伝統野菜です。

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伝統野菜の今 地域の取り組み、地理的表示の保護と遺伝資源(アサヒ・エコ・ブックス)
香坂 玲 冨吉満之 著

著者のお一人であり、
環境省「地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)」の日本語訳の監修
ご担当いただいた金沢大学 香坂 玲教授に紹介いただき、
この本を手に取りました。

「伝統野菜」のその定義や成り立ち、魅力と課題。
在来品種とどう違うのか。

また、地域経済の振興や市場でのブランド戦略など
経済性だけを追求したものではなく、
その土地の食文化や伝統行事、
在来品種を守ろうとする農家や協力者の責任と強い意志といった
経済性だけでは測れない「大切なもの」と共に
存在が見直されていること。

一方で、遺伝資源や関連する伝統的知識の権利をめぐって
新興国やバイオ企業それぞれの主張や戦略など
熾烈な国際的議論があることも
警告とともに網羅されています。

遺伝子組み換え技術に反対するNGOなどの活動に対する考察と
国内のNGOへの愛情に満ちた叱咤激励。

そして実は、在来品種や伝統野菜を守ることが
生物多様性の保全や気候変動への適応などにも関わってくる。

著者の野菜に対する真剣な思いが読み取れます。

その土地の土壌になじみながら
変化する気候を生き延びてきた野菜。
そのしなやかでおおらかな力。

「お手を止めさせてすみません」と声をかけながら
畑や田んぼの側にしゃがみ込んで
取材する姿が目に浮かぶところも。

ところどころにあるコラムでは
研究の合間に集まったこぼれ話もあって、
各地の伝統野菜を食べ歩きしたくなる、そんな1冊でした。

(二口芳彗子@金沢)

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