ENW Lab. ENWラボ
【波を起こす】子どもの居場所から多世代多様な人たちが集うコミュニティづくりへ

(NPO法人湘南まぜこぜ計画ホームページより)
エコネットワークス(ENW)は昨年、「Foster Team Sustainability together, everywhere.」というパーパスを定めました。この一文には、「一人から始まる思いを起点に意思のある仲間同士がつながり、社会に変化の波を起こしていきたい」という思いが込められています。
そこで、ENWラボでは、個人の関心や違和感を起点に、周りの人たちを巻き込みながら社会課題の解決に取り組んでいるENWパートナー*を紹介する連載「波を起こす」をスタートすることに。第1回は、NPO法人「湘南まぜこぜ計画」の理事として、困ったときにちょっと手助けし合えるコミュニティづくりに奔走している木村麻紀さんにお話を聞きました。
* ENWの業務で関わりのある方。雇用契約者、業務委託契約者の両方を含む
執筆:岩村千明
静岡県在住のライター。ENWでは、広報や企業のサステナビリティ関連コンテンツの制作支援などを行う。
「既存の枠にとらわれない子どもの居場所をつくりたい」と立ち上がる
―まずは、「湘南まぜこぜ計画」を立ち上げた背景を教えてください。
今から10年ほど前、自分の子どもが小学校に通い始めた頃に抱いた「家でもない、学校でもない、子どもの居場所をつくりたい」という思いが、この活動の始まりです。子どもは、乳幼児期までは生活リズムが同じような子たちと過ごすことが多いのですが、小学校にあがると世界が広がり、そうでない子とも遊ぶようになります。ただ、放課後になると、親がその時間も働いている子どもは学童に行き、それ以外の子は帰宅しますよね。自分の子どもや周りのお友達が「あの子とまだ遊びたいのに、なんで一緒にいられないの?」と言う姿を目の当たりにし、子どもたちの楽しい時間が親の事情により制約されてしまっているあり方に違和感を覚えるようになりました。こうした現状を変えようと、当時子どもが通っていた学童の親仲間と立ち上げたのが、誰でもこられる居場所「寺小屋ハウス」です。

NPO法人「湘南まぜこぜ計画」の理事を務める木村麻紀さん(Photo by Keiko Sakamoto)
―そうした思いを具現化するにあたり、どのようなプロセスを踏みましたか。
子どもが通っていた学童で、同じ思いを持つ保護者に出会い、最初は自分たちにできることを模索し始めました。その一つとして、子どもが安心してありのままの自分でいられる場として「川崎市子ども夢パーク」を立ち上げた認定NPO法人フリースペースたまりばの理事長、西野博之さんをお招きして講演会を開催。その後、他の保護者も含む講演会への参加者4~5人で寺小屋ハウスを立ち上げることになったのです。メンバーの中に市議会議員がいたので、事務所の2階を空けてもらい、手持ちのマンガ本などを持ち寄って2016年4月にオープンしました。最初は駄菓子屋風の小規模な運営からスタートし、次第に学区を越えて地域の子どもたちが集まるようになっていきました。
小さな雫が大きな波へ 広がる活動の輪
―寺小屋ハウスが開設されて4年後の2020年には、新型コロナウイルスの感染拡大が社会のシステムや人々の生活に大きな影響を及ぼすことになります。
コロナ禍で放課後や長期休みにおいて各家庭で何が起きているかが浮き彫りになり、私たちの活動も大きく変わり始めました。2020年2月末、全国の小中学校に一斉臨時休校が要請されたことで、給食も停止。各家庭が子どもの昼食を準備する必要に迫られました。しかし、家庭の状況によっては栄養バランスが整った学校給食のような食事を毎回提供するのは容易ではありません。そこで、寺小屋ハウスの運営メンバーで自宅にある材料を持ち寄ってお昼ご飯をつくり、必要とする子どもに提供する取り組みを始めました。緊急事態宣言が解除されるゴールデンウィーク明けまで、週末以外は毎日開催し、10人前後の子どもが集まっていました。以前から気になっていたのですが、この活動を通じてご家庭の事情によって規則正しく3食を取れていない子どもが一定数いることが分かったのです。
―その活動が、「子ども弁当」の提供につながっていたのですね。
はい。ワンコインでお弁当を提供してくれる地域の飲食店を探し、「子ども弁当」を提供する仕組みを整えました。コロナ禍で厳しい状況下にあった飲食業界を、少しでも支援できればという思いもありました。その後は、利用者アンケートなどで要望の多い夏休みに開催し、経済的な事情、仕事や病気などで子どもの食事の用意が困難なご家庭にご利用いただいています。2024年の夏休みには83世帯181人に、のべ1,495食を提供。提供店も19ヵ所まで拡大しているほか、野菜を提供してくださる農家さんの支援につながる仕組みをつくったり、注文受付から各店舗への発注システムなどを地元の大学生が開発したりと活動の輪を広げています。

出典:NPO法人「湘南まぜこぜ計画」子ども弁当2024夏休み(NPO法人湘南まぜこぜ計画ホームページより)
寺小屋ハウスのほうは地元の大学生が中心となり学習支援を始めたほか、駄菓子やフードバンクから提供してもらった食品をリヤカーに乗せて公園に出張し、週に1回青空寺小屋も開催しています。ハローワークの向かい側にある場所なので、求職中の方がふらりと寄られることもあり、過去にはそうした方を生活保護の窓口につなぐケースもありました。オープンスペースで開催することで、より多くの方が立ち寄りやすい空間になっている気がします。また、活動を始めた頃、小学生だった子たちが高校生になり、こうした屋外での活動時に見守り役として参加してくれるなど、好循環が生まれています。

毎週金曜日に公園で開催している青空・寺小屋ハウス(NPO法人湘南まぜこぜ計画ホームページより)

藤沢市内の文化・教育関係の市民活動団体が集まるイベント「ここでくらっそ」にも出展。運営費の一部にTSAのサステナビリティファンドを使用(Photo by Maki Kimura)
※TSA: ENWのコミュニティ事業である「Team Sustainability in Action」の略称。TSAパートナーが、自身や社会のサステナビリティにつながる活動をしたいときに、資金面からその取り組みを応援するサステナビリティファンドなどを実施している。
自分の関心を表に出すことで意思ある人たちとつながる
―活動の規模や内容、携わるメンバーなど、どの側面をとっても確実に進化していますね。「輪の広げ方」のコツや、心がけていることを教えてください。
自分が関心のあることや違和感を表に出すことが、まず大事だと思います。また、「これを知りたかったら、この人に聞いてみよう」「この問題なら、この人が解決できるかも」ということを常々考えながら行動することも重要です。私の場合、議員さん、社会福祉法人や市役所勤務の方、教師、地域に根ざしたお店の方など、自分や自分の子ども以外のことも考えながら働いている人たち、視座を高くもち動いている方たちとの出会いが大きかったです。こうした方々とのつながりが、その後の自分の意識や行動を変えるきっかけとなり、活動の輪を広げる推進力となりました。
―最近では、対象を子どもから大人へと拡大したり、活動の主体が変わりつつあったりと、さらに大きな波を起こしつつあるようですね。
高齢の方を対象としたお茶会を開催するほか、空き家を活用した多世代まぜこぜの居場所づくりを目指して「みかじりさんち」を立ち上げました。さらに、その場所で「まちライブラリー」の仕組みを活用し、各家庭で読まなくなった本の貸し借りも行っています。コロナ禍以降、不登校の学生が増えているという現状を知り、誰でも安心してこられる居場所をつくろうと、寺小屋ハウスの卒業生である中学生たちを中心に「みかじり文庫」の運営を始めました。バリスタを目指しているダウン症の青年が淹れるコーヒーを提供するなど、多様な人たちが自分の得意なことや好きなことでつながる居場所づくりに向けて様々な試みを行っています。
「家でもない、学校でもない、子どもの居場所をつくりたい」という思いから始まった「湘南まぜこぜ計画」は、子どもを中心とした多世代多様な人たちが集うコミュニティづくりを通じて地域課題の解決を図っていく取り組みへと発展しました。私自身もこの活動を通じて多くのつながりや学びを得ることができたと感じています。引き続き、理事として同活動に携わりながらも、ここで培ったノウハウを地域のあちこちに広め湘南藤沢をもっとサステナブルな場所にしていきたいと、藤沢市未来共創セッションで出会った市民有志で昨年「Team F」という団体を立ち上げました。この後の人生を過ごしたいと願うこの場所を「人とモノ、人と人とのつながりがめぐる、もっと楽しくも温かい地域にしていきたい」と現在、様々なイベントを企画中です。

「Team F」ではゴミ拾いをした後にコーヒーを楽しむCleanUp & Coffee Clubを月一で開催中(Photo by Keiko Sakamoto)
―これまでの活動の枠を超えて、新たな波を起こそうとしているのですね。「Team F」の今後の展開については、またの機会にぜひお聞かせください。本日はありがとうございました。