ENW Lab. ENWラボ
【波を起こす】コロンビアで探る「ビジネスと人権」と「平和構築」が交差した先にある世界

(Photo provided by Mayo Suzuki)
エコネットワークス(ENW)は2024年、「Foster Team Sustainability together, everywhere.」というパーパスを定めました。この一文には、「一人から始まる思いを起点に意思のある仲間同士がつながり、社会に変化の波を起こしていきたい」という思いが込められています。
そこで、ENWラボでは、個人の関心や違和感を起点に、周りの人たちと共に社会課題の解決に取り組んでいるENWパートナー*を紹介する連載「波を起こす」をスタートすることに。第4回は、南米・コロンビアを拠点に、「ビジネスと人権」と「平和構築」の2つのテーマを軸にキャリアを模索されている鈴木真代さんにお話を聞きました。
* ENWの業務で関わりのある方。雇用契約者、業務委託契約者の両方を含む
執筆:篠塚理沙
都内在住のコミュニケーションデザイナー・ライター。ENWでは、サステナビリティに関するコンテンツのデザイン制作や、企業コラムの執筆などに携わる。
2つのテーマとの出会い
―「ビジネスと人権」「平和構築」の2つのテーマに取り組もうと思ったのはいつからですか? きっかけを教えてください。
「ビジネスと人権」の分野に最初に関わったのは、2014年頃です。当時はデロイトトーマツに在籍していて、社内で立ち上がったばかりのこのテーマを担当することになりました。当時、人権は企業が積極的に配慮すべき中心的な概念ではなかったため、「経営コンサルタントの私たちが、なぜやらなければならないのか?」と戸惑いや抵抗感を示す人も少なくありませんでした。「ビジネス」と「人権」という、一見つながりにくい2つの話をどのように伝え、理解してもらうのか、クライアントをどう開拓するかという点では苦労しました。
一方、私自身は、このテーマに対して課題意識があり企業や社会にとって必要不可欠だと認識していました。その背景には、大学時代の経験があります。平和構築を専門とする先生のゼミで、DDR(武装解除・社会復帰)や平和構築と企業の社会的責任について学び、「ビジネスの側面から国際協力に携わりたい」と国連グローバル・コンパクト*に関する論文を書いていました。
こうした経験を基に、「ビジネスと人権」は持続可能な開発目標(SDGs)の根底にある概念で「平和構築」にも深く関わると理解していたので、社内外でその考え方を広めるよう取り組みました。活動の中で、NGOの方々と対話をする機会が多く、その土地特有の社会課題に直接アプローチし現地のニーズに即した支援を行う、その姿勢に強く惹かれました。
その後、「ビジネスと人権」と「平和構築」のテーマをさらに深めたいと思い、2017年にデロイトトーマツを離れ、フリーランスとして働いてきました。2020年には、これまでの活動で出会った仲間と「Social Connection for Human Rights(SCHR)」という団体を立ち上げ、ライツホルダーとの対話を軸にした「ビジネスと人権」に関する取り組み支援を行っています。

ビジネスと人権に取り組む「Social Connection for Human Rights(SCHR)」
現在、多くの日本企業での「ビジネスと人権」の取り組みは、自社の事業を展開する上で人権を侵害していないかといったリスク軽減を中心とした活動に重点が置かれています。一方、私が目指す「ビジネスと人権」のあり方は、従来社会から取り残されてきた人々を含むあらゆる人たちの公平性を確保して包摂する仕組みをつくっていく経営・事業のあり方であり、その取り組みの中にはDDR(武装解除・社会復帰)といった平和構築などのテーマも含まれます。こうした考え方のもと、2つのテーマを融合させて取り組んでいきたいと考えています。
思えば、子どもの頃にカトリックの学校に通っていたからか、低中所得国で活動するNGOの現地の活動の様子を聞く機会が多かった気がします。あの頃から「安全で安心な場所で暮らせる自分自身の環境に感謝するとともに、そうでない環境にある人々への理解を深め、誰かのために自分ができることをしたい」という想いがあったように思います。
*国連が提唱する、企業などが「人権・労働・環境・腐敗防止」の4分野における10原則を守り、持続可能な社会の実現に貢献するための世界的な枠組み
なぜコロンビアなのか。紛争地なのに進んでいる人権意識
―コロンビアへは2019年から2022年までパートナーの転勤をきっかけに滞在し、一度は日本に帰国されたものの、すぐに戻ってきたと伺いました。コロンビアへ戻ろうと思った理由、長期的に関わろうと思った決め手は何だったのでしょうか。
一番大きな理由は、紛争地にもかかわらず開発が見込まれる国であり、「ビジネスと人権」の事例が凝縮された場所だと感じているからです。コロンビアには長く内戦が続いていた歴史があり、2016年の和平合意後も治安が安定しているとはいえません。それでもこの国では、内戦時代から企業の共犯性が問われてきた歴史があることから、2015年にビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)が早い段階で策定されました。資源が豊富な地域なので、例えば鉱山会社でどのようにサステナビリティを推進していくかは大きな課題であり、児童労働や先住民族の権利など、企業がどのように対話を進めるかが問われています。
研究者も多く、アカデミアの議論も活発に行われているため、ここでなら専門家とつながりながら自分の専門性も深められるのではないかと思い、この国で大学院に進学し平和学と紛争解決学について学ぶことを決めました。アカデミアが政策決定やビジネスにも影響力を持つ国でもあるので、私自身もケーススタディを深めたり、現地のNGOの方々と関係性を築いたりしながら、独立研究者のような地位を確立していけたらと考えています。
―大学院で学びながら、現地ではどのような活動をしているのですか。
主に、この国が抱える社会課題解決のプロジェクト運営に携わってきました。2024年から2025年は、日本政府が資金提供するコロンビアの左派ゲリラに所属していた元戦闘員(現地では「和平合意署名者」または「社会復帰中の人たち」という表現を用いる)を対象とした社会復帰事業のプロジェクトのカントリーマネジャーとして、プログラムの企画・運営に携わりました。
コロンビアでは、誰もが望んでゲリラになったわけではなく、もともと農民として暮らしていた子供が誘拐されてそうならざるを得なかったり、生活が苦しいがゆえに反政府思想を持つようになったりと、その背景は様々です。けれど、「元ゲリラ兵」というだけで差別を受けることがある。このプログラムは、その現状を変えるために、またこうした人々が社会の一員として暮らしていけるように「心理的」「経済的」「社会的」な支援を行うことを目的としていました。

左からコロンビア再統合・正常化庁(ARN)の長官、社会復帰キャンプを総括する和平合意者のリーダー、高杉大使(当時の日本大使)、鈴木さん
2026年には、コロンビア・エクステルナード大学ラテンアメリカ人権・企業研究所と在コロンビア日本大使館との共催で、「ビジネスと人権」に関するイベントを開催したいと考えています。首都ボゴタには、デンマーク人権研究所の支部やボゴタ商工会議所が企業向けの人権DD用のツールや情報を提供しているのですが、それらが日本企業には届いていないのが現状です。今後、日本企業が少しずつラテンアメリカ地域での人権デューデリジェンスを進めていくためのサポートを担うことができればと思っています。
地域とつながりながら、自ら仕事をつくっていく
―コミュニティに自ら飛び込んでいき、積極的に周りとのつながりをつくっているのですね。
最初にパートナーの転勤でコロンビアに滞在していた頃は、「期間限定で滞在している人」と思われることが多く、思うように活動できないもどかしさを感じていました。一度日本に帰り、再びコロンビアに戻ってきてから、ようやく自分のやりたいことができるようになりました。
もともと、「地域に根ざした活動をしたい」という思いがあったので、この土地固有の課題に、現地の方々と共に取り組めていることに大きなやりがいを感じています。
―コロンビアでの日々の仕事や生活の中で、鈴木さん自身の考えが揺さぶられた出来事はありますか。
コロンビアでは現在も11の紛争が続いており、人々は暴力や死と隣り合わせの環境で暮らしています。だからこそ、ここで暮らす人たちは家族とのつながりを大切にしていて、常に連絡を取り合い「いま生きている」ことを確認し合っているのです。
同じカトリック文化圏でも、米国やドイツでは “giving” 精神(見返りを求めず、自分の無理のない範囲で他者に愛情、時間、資源などを提供する姿勢のこと)が強いと思うのですが、ラテンアメリカでは「自分が愛されている感覚」や「どう自分を守るか」を大切にしている印象があります。
その背景には、紛争や暴力によって人としての尊厳が脅かされているという構造的な人権侵害があります。ここで暮らしていて得られる気づきは、仕事を行う上でも重要なインプットになっています。
―コロンビアで本格的に活動を始める前と現在とでは、感じ方や意識に変化はありましたか。
活動を続けていくうちに、仕事は自分でつくる必要があると感じるようになりました。異国で自律的なキャリアを築いていくためには、自分で価値をつくり、選ばれる存在になる必要があると考えています。
それから、語学力を活かしてコロンビア以外の地域とのつながりを増やしたいという思いもあります。ラテンアメリカの大半の国々の公用語であるスペイン語が話せれば、気になる人をLinkedInで調べ、WhatsApp経由で連絡をとり、実際に会いに行くことができます。さらにポルトガル語も学ぶことで、ブラジルにも進出することできるようになります。そのようにして、日本とラテンアメリカ間の橋渡しの役割を担うことができたらと考えています。
―今後を見据えて取り組んでいきたいことや、注力したいテーマがあればお聞きしたいです。
現状、多くの企業は各国・地域に存在する人権に関するリスクを十分に把握できていない状態です。最終製品に至るまでの過程が可視化されていないことで、構造的な問題が見えにくくなり、企業も社会もリスクに気づきにくい。ラテンアメリカ各国の人権の専門家やローカルなコミュニティの人々と対話を重ねることで人権デューデリジェンスの実態を洗い出し、議論を深めていきたいと考えています。
また、最近、義足の製造を手掛ける日本初のスタートアップ企業でのプロジェクトにも参画しました。ラテンアメリカの政府機関や財団、NGOなど様々なセクターへの営業を担当しています。紛争の犠牲者や糖尿病患者の中でも、なかなか義足を手に入れることができない貧困層を対象としています。パートナーシップを通じてラテンアメリカの各国で人権に関わるプレイヤーとのネットワークを広げながら、各国の人権課題への理解の解像度を高めていければと思っています。

義足の製造を手掛ける日本初のスタートアップ企業(instalimbのホームページより)
―お話を伺いながら、関心のあることに向かって自ら行動を起こすこと、実際に課題を抱えている人たち、それを解決しようと取り組んでいる人など多様な人々との対話の積み重ねが、今の鈴木さんの活動をかたちづくっているのだと感じました。今後の展開が楽しみです。本日はありがとうございました。