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業務委託契約の法的位置づけと問題になりやすいこと
エコネットワークスでは、2019年から2020年にかけて、「働き方に関するガイドライン」の検討を進めてきました。
その過程で、近年、雇用のあり方が多様化し、自分の働き方に合う契約形態を選ぶことが大切であること、そのためには、契約形態の違いやメリットデメリットについてきちんと知っておく必要があること、が話題になりました。
特に「業務委託契約」について、そもそも法律的にはどういう立場なのか、どんな問題が起こりやすいのかを知っておかないと、後でトラブルになってしまい、自分の権利を守れないケースもあることがわかりました。エコネットワークスのパートナーにはフリーランスの方も多く、業務委託契約は身近な問題です。「業務委託契約で問題になりやすいこと」をまとめてみました。
*下記、業務を依頼する側を「委任者(いにんしゃ)」、業務を受ける側を「受任者(じゅにんしゃ)」と呼びます。
執筆:星野美佳
社会保険労務士。
社会課題解決に取り組む人のための社労士事務所「サステナ」を開設し、
主にNPO等ソーシャルセクターの人事労務課題の解決に向けて奮闘中。
そもそも、「業務委託契約」とは?
実は、「業務委託契約」について明確に定めている法律はありません。
基本的には、「使用者」と「労働者」というような主従の関係にない独立した事業者間の契約のことで、契約内容は個別の業務委託契約書等で決めておく必要があります。
根拠となる法律が明確でないので、個別に内容を合意しておく、ことがとても大事なのですが、ここが難しいところ。
何について、どのように決めておいたほうがいいか、当事者が知っておく必要があるのです。
「請負」「委任」のどちらに近いか?
関連した契約形態には民法の「請負契約」または「委任契約」、「準委任契約」があります。
業務委託契約の全てがこれらに分類できるわけではありませんが、自分の業務委託契約がどれに近いのかを知ることもトラブルを防ぐ一つのヒントになります。
「請負契約」とは、受任者が、「委託された業務を完成させる」ことを約束し、委任者は完成された仕事の結果に対して報酬を支払う契約のこと。
(例:建設工事請負契約)
そして「委任契約」とは、受注した業務の「行為の遂行」を目的とした契約のこと。
(例:弁護士への相談)
業務が法律行為であれば「委任契約」、法律行為以外の業務であれば「準委任契約」となります。
例えば冊子の作成や翻訳業務など、アウトプットが明確で、そのアウトプットを完成させることが目的の場合は請負契約の性格が強く、コンサルティングなど、相談にのるという行為そのものが目的の場合は委任契約の性格が強くなります。
業務委託契約で何かトラブルが起きた場合、まずは契約書の内容にしたがって解決をしますが、契約書に記載がない場合には、その業務委託契約が、請負契約と委任契約のどちらに近い性質かを判断したうえで、民法の規定を適用して解決する、という方法が採られます。自分の業務委託契約がどちらに近いのかを知っておくのは大事なポイントです。
業務委託契約者は「労働者」にはならない?
独立した事業者間の業務委託契約の場合は、基本的には、受任者は「労働者」とはみなされず、労働基準法や労働契約法などは適用されません。しかし、実質的に委任者の指揮命令のもとで使用従属関係にある、とみなされる場合は、業務委託契約の関係であっても「労働者」とみなされる場合があります。
そもそも、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」のこと(労働基準法第9条)。
具体的には、下記の基準によって、労働基準法上の労働者に該当するかどうか、個別に判断されます。
・労働提供の形態が使用者の指揮命令下の労働であること
・報酬(賃金)が労働に対する対償として支払われていること
例えば、仕事の依頼や指示に対して、断る自由がなかったり、仕事の進め方について委任者から細かく指示され、指揮命令されている状態にあれば、それはいわゆる「偽装請負」となっている可能性があります。
偽装請負とは、実態は労働者派遣又は労働者供給であるにも関わらず、業務委託などの請負契約を偽装して行われるもののこと。
業務委託契約をめぐるトラブルで多いのがこの「偽装請負」問題。
どんな場合に偽装請負になってしまうのか、の判断基準としては、「業務の遂行に関する管理を請負事業主自ら行っているか」、「労働時間等に関する管理を請負事業主自ら行っているか」、などのいくつかのチェックリストがあります。よりくわしく知りたい方は下記もチェックしてみてください。
参考:「なくそう違法派遣 まもろう派遣スタッフ」(首都圏労働局)
委任者も受任者も、業務委託契約だから労働法は適用されない、と短絡的に考えず、実質的な使用従属関係になっていないか、改めて、お互いの関係を見直してみることが大事です。
成果物は誰のもの?
業務委託契約をめぐるトラブルでもう一つ多いのが、成果物の帰属について。
業務委託で成果物を作成する場合、業務を委託し、最終的な成果物を受け取る委任者側に知的財産権がある、と思われがちですが、実は法律上、著作権は実際に著作物を創作した著作者(受任者が制作した場合は受任者)に帰属することが原則です。
そのため、委任者が知的財産権を確保するために、知的財産権が委任者側に移転する旨を契約に定めておく、ことが一般的になっています。
しかし、業務委託でキャリアを積むフリーランスにとって、成果物は自分のキャリアを証明する大事な知的財産。自分の実績として成果物を公表したり、類似の案件で共通のノウハウを利用したい時などはどうすればいいか。契約書の記載の仕方をよく考えなければなりません。
詳しくは専門的な内容も含むので、専門家の書いた解説等を参照してみてください。
参考:nomad journal フリーランスのための契約書
「個人事業主、独立コンサルタントへの第一歩。必ず押さえておきたい業務委託契約/知的財産権(前編)」
「個人事業主、独立コンサルタントへの第一歩。必ず押さえておきたい業務委託契約/損害賠償(後編)」
終わりに
ここまで、業務委託契約の法的位置づけと問題になりやすいこと、を主に法律的な観点からまとめてきました。「そんなことは知らなかった」「そこまで考えてなかった」ことも多いのが実態かもしれません。トラブルを未然に防ぎ、自分の身を守るためには多少難しい事柄も理解して備えておかなければなりません。
しかし、問題や疑問があったらその都度お互いに話し合える、という信頼関係を築いておくことが、まず何よりも大切。いい仕事、を一緒にするパートナーとして、業務委託の委任者も受任者も対等な関係で、ともに成長し合える関係を目指せるといいですね。