心地よくつながり、社会・個人に価値をもたらすオンラインコミュニティとは?

2023 / 9 / 22 | カテゴリー: | 執筆者:岩村 千明 Chiaki Iwamura

(Photo by Alexandra_Koch via Pixabay)

連載「オンラインコミュニティの可能性」では、サステナブルな社会につながる活動を行っているオンラインコミュニティの運営者に、実際の様子や効果、未来につながる可能性を聞いてきました。

【連載「オンラインコミュニティの可能性」全4回】

最終話となる今回は、エコネットワークス(以下、ENW)のオンラインコミュニティである「TSA 」のパートナーたちが参加したシェア会 (オンライン勉強会)を取材。これまでの取材を通じて得た学びを振り返るとともに、オンラインコミュニティが社会・個人にもたらす価値や、その運営のあり方をテーマに行われたディスカッションの様子をレポートします。

※「オンラインコミュニティ」とは
あるテーマに興味のある人たちがオンラインで集まり、議論や情報交換をする場です。こうした場は、異なる組織・立場の人が出会い、交流する機会になっています。


企画:曽我 美穂
富山県在住のエコライター、エディター。ENWではプロジェクトマネージャーや、コミュニティ事業TSAのお世話役を務める。

執筆:岩村 千明
静岡県在住のライター。ENWでは、企業のサステナビリティ報告書の制作支援などに取り組む。TSAでは今年からメルマガの制作を担当しており、さまざまな参加者と対話を重ねながら、サステナブルな社会の実現に向けて自分にできることを模索中。


共通項は「居場所」と「心理的安全性」

TSAパートナー6人が参加した、今回のシェア会。本シリーズの企画者であり、TSAのお世話役を務める曽我さんが、これまでの取材を通じて得た学びを共有するところからスタートしました。

取材した3つのオンラインコミュニティは、規模や活動内容、参加者の関わり方も、それぞれ異なります。しかし、そこには共通してみられる特徴も。その一つが、参加者の「居場所」として機能している点です。サステナビリティ担当者やマイクロ法人の女性経営者・フリーランスなど、社会や組織において少数派に属している人の中には、同じような立場の人たちとつながり、言葉を交わすことで、そこに「自分の居場所がある」と感じる人が多いようです。また、そこで出会った仲間と情報や知識を共有することが、抱えている課題解決の糸口になっている事例もありました。

もう一つ、共通してみられた特徴が「心理的安全性」の確保です。オンライン活動の懸念点としては「どんな人かわからない不特定多数と接すること」が、しばしばあげられます。こうした不安に対処するために、これらのオンラインコミュニティでは、運営者がオンライン面談を行って全員の顔と名前を把握する、会費と審査を設けるなどの工夫を凝らし、参加者が安心して活動できる場を提供しています。

TSAがもたらす価値とは

シェア会に参加したTSAパートナー

ENWのコミュニティ事業という位置付けにあるTSAは、「サステナブルな働き方や暮らし方を志向する個人が集う学びと実践の広場」です。その存在意義を高める上で、他のオンラインコミュニティから、どんなことを学べるのでしょうか。

参加者同士でざっくばらんに話し合う中、「積極的にイベントに参加したり、発言や投稿をしたりしなくても、運営側が提供するリソースを見ているだけで『参加している』と捉えるオンライン市役所の姿勢が印象的。TSAにも活かせないか」という問いかけがなされました。

現在TSAでは少なくとも年1回は何らかの活動をすることを参加の要件としています。それ以上の参加の度合いは自由に決められるので、運営に積極的に携わったり、Slack(チャットツール)で頻繁に発信したりする方がいる一方で、年1回シェア会に参加するのみの方もいます。関わり方に濃淡がある中で、「自分はここにいてよいのだろうかという不安」や「あまり参加できていないことへの後ろめたさ」を感じてしまう人もいるのではないかという声も寄せられました。

しかし、積極的に活動に参加していなかったとしても、TSAが誰かの背中を押したり、居場所になっていたり……というケースもあります。今回のシェア会の参加者の一人も、「現在は、関わり方を模索している最中。積極的に参加している方々の意見を聞きながら、自分にできることを考えており、今年はサステナビリティファンドを利用して、福祉系の大学が開講している『伴走型支援』の基礎講座を受講することに。この活動を通じて、次は自分から発信できることがあるかもしれない」と、TSAからのインプットがサステナブルな社会の実現に向けたアクションの第一歩につながったことを共有してくれました。

また、「他の参加者の活動が、モチベーションの維持につながっている」「TSAは普段はなかなか口にできないモヤモヤを共有して、つながりを感じられる場所」との声も。その他、自身の視野を広げるという観点から活動に参加している人や、仕事と子育てまたは介護の両立について他の参加者から学んだことがあるという人もいました。TSAは他のコミュニティと同様、参加者が「居場所」を感じられる「心理的安全性の高い場所」であると同時に、生き方や働き方のロールモデルを見つけられる場にもなっているようです。

一人ひとりが心地よくつながれる場づくりに向けて

今回の議論を通じて、TSAは参加者にそれぞれの形で多種多様な価値をもたらしていることが改めてわかりました。では、今後も心地よい空間としてつながれる場を維持していくためには、どうしたらよいでしょうか。

まずは、TSAパートナーに「情報を受け取るだけでも大丈夫」「長い目で見たときに、誰かのアクションにつながるだけでも意義のある活動」というメッセージをもっと積極的に発信していくことが大切、という意見に一同がうなずきました。

さらに、どんなメッセージを発信すべきかに留まらず、その発信方法や具体的なツールの活用にも話がおよびました。現在、TSAではTSAプラットフォーム(イントラネットサイト)、Slack、メルマガを中心に、情報の発信を行っています。また、双方向型のコミュニケーションという観点では、Slackが中心的な役割を果たしています。ただ、情報を受け取る側にとっては、同ツールは流動性が高く情報を見落とす可能性が高いのでは、という指摘がありました。

一方、月2回配信しているメルマガに関しては、情報が整理されており受け取った側の目を引きやすい、という声も。現在、あまり活用されていないTSAの予定表(googleカレンダー)のリンクをメルマガに記載すると、今までよりも参加しやすくなるのではないかという話になりました。

カギは、多様な人びとを自然に巻き込んでいく仕組みづくり

(Photo by Gerd Altmann via Pixabay)

もう一つ、みんながより参加しやすい環境・仕組みづくりへの課題としてあがったのが、ミーティングやシェア会をはじめとするイベントの開催時間です。これまで日本在住で子育て中の方が参加しやすい時間帯を中心に、イベントが設定されてきたことに疑問を投げかける参加者もいました。TSAの強みの一つは、多様な背景を持つ参加者が世界各地に点在している点です。そうしたポテンシャルを活かすためにも、今後は意識的に海外在住の人が参加しやすい時間帯でのイベント開催も視野に入れていくべきという意見が出ました。

また、サステナブルな社会の実現に向けて興味深い活動をしているけれども、多忙でなかなかTSAに参加できない方もいるはずです。そういった人たちをゲストに迎え話をしてもらう機会をつくることも、輪を広げる一つの方法になりうるのでは……という提案もありました。


【取材を終えて】改めて気づいた、コミュニティづくりにおける対話の重要性

本連載の企画者である曽我さんがお世話役を務めるTSAの参加者とともに、オンラインコミュニティの存在意義やあり方を改めて見直す機会となった今回のシェア会。私自身にとっても、なぜ自分がこのコミュニティに参加しているのかを問い直すきっかけになりました。

目的や、その実現に向けた運営ルールや活動が存在するのは、オンラインコミュニティも企業も同じです。ただ一つ、企業と違うのは、参加の度合いや貢献度がすべて個人にゆだねられている点です。参加が必須ではないからこそ、積極的に関わってみたいと思える環境や仕組みづくりが重要だと言えます。一人ひとりにとって、TSAがどんな存在であり、どんな想いで参加しているのか。その声に耳を傾けることが、活動を活性化させるカギになるかもしれません。「これだ」という正解がないコミュニティづくりだからこそ、その構成メンバーと対話を重ね、考え続けていく必要があるのだと感じました。

今回の議論で寄せられた意見や課題一つひとつに向き合っていくことで、「サステナブルな働き方や暮らし方を志向する個人が集う学びと実践の広場」として、TSAの可能性がさらに広がっていくことを期待したいです。

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