オンラインコミュニティ「ホクレア」で、女性の生き方も働き方もサステナブルに

2023 / 6 / 19 | カテゴリー: | 執筆者:mihosoga

ホクレアのコンセプト図(2022年バージョン)

ホクレアのコンセプト図(2022年バージョン)


連載「オンラインコミュニティの可能性」では、サステナブルな社会につながる活動を行っているオンラインコミュニティの運営者に、実際の様子や効果、未来につながる可能性を聞いていきます。第3回のゲストは、女性経営者・フリーランスのためのオンラインコミュニティ「ホクレア」を立ち上げ、運営する小野 梨奈さんです。

※「オンラインコミュニティ」とは
あるテーマに興味のある人たちがオンラインで集まり、議論や情報交換をする場です。こうした場は、異なる組織・立場の人が出会い、交流する機会になっています。詳しくは第1回、第2回の記事をご覧ください。
第1回 オンラインコミュニティが、サステナブルな事業の推進力に
第2回  地域をより持続可能にする「オンライン市役所」


お話を伺った方:小野 梨奈さん(ホクレア ナビゲーター)
合同会社カレイドスタイル代表。IT企業、女性向けWebメディア運営会社を経て2006年に独立。情報発信・コンテンツ制作のコンサルティングや、企業のオウンドメディア運用支援などを手がける。理系大学院卒のリケジョ編集者として、サイエンス系記事の執筆や研究機関のアウトリーチ支援なども行う。プライベートでは3児の母。

聞き手:曽我 美穂
富山県在住のエコライター、エディター。ENWではプロジェクトマネージャーや、コミュニティ事業「TSA」のお世話役を務める。

執筆:藤野 あずさ
茨城県在住の編集・ライター。主にサステナブルな取り組みやそのつくり手の方達のことを執筆。山の麓の古民家暮らし。


根底にあるのは「女性フリーランス・経営者を支えたい」という思い

小野 梨奈さん

小野 梨奈さん

-まずはホクレアの概要を教えてください。

ホクレアは、複数の収入軸をもつためのトライアルを重ねながら、自分らしい働き方・生き方を探求する、ひとり〜社員5名以下のマイクロ法人の女性経営者やフリーランスのための、オンラインを中心としたコミュニティです。現在は国内外から15名の方が参加しています。職業は編集者やデザイナー、エンジニア、ビジネスコーチ、占星術師など、幅広く多様な方が集うコミュニティになっています。

-ホクレアの設立の背景には、小野さんのこれまでの経験があるのですよね。設立までの経緯を教えてください。

ホクレアの原点には、女性フリーランスに関する情報やノウハウをまとめた「Rhythmoon(リズムーン)」というウェブメディアがあります。2006年に私がWeb編集者として独立した当時は、フリーランスに関する情報がほとんどなく、とても大変でした。また、当時はまだ結婚や出産を機に仕事を辞めてしまう女性が多かったのですが、「フリーランスという働き方を選べば、女性もライフステージに合わせてスタイルを柔軟に変えながら、仕事を通じて社会と接点を持ち続けることができるのではないか」と大きな可能性を感じ、それを伝えるために2009年にRhythmoonを立ち上げ約10年間、運営してきました。

-Rhythmoonは多くの女性フリーランスの支えになってきたと思います。私も読者、そしてライターとして関わらせていただき、大きな学びを得ました。その後継のような形でホクレアを立ち上げたのですよね?

はい。ホクレアを立ち上げた大きなきっかけは、新型コロナウイルス感染症が広まったことです。急に仕事がなくなるなど厳しい状況に置かれているフリーランスの方が多く、複数の収入軸を持つことの重要性をこれまで以上に強く感じるようになりました。業務委託のお仕事は「来月からはいいです」と突然言われる可能性がゼロではないですよね。複数の取引先を持つことはもちろん、小規模でも自分のサービスや商品を持ち、それを収入軸の一つにしておくとリスクヘッジになります。ただ、それを1人で追求し続けるのは難しい面もあると思うので、同じ価値観をもった仲間で、互いに学び合える仕組みがあればよいのでは、と思ったんです。コロナ禍でオンラインコミュニティのプラットフォームサービスが一気に広まったこともあり、2021年10月にホクレアを立ち上げました。

ホクレアは、自然からのヒントだけをたよりに航海するハワイの伝統カヌーの名前。「信頼できる仲間の応援を追い風にして自分らしい人生を切り開いていくイメージを、大海原を果敢に進むホクレアの姿に重ねた」とのことだ。

-Rhythmoonと同じく、ホクレアでも「女性」を対象としていますが、その理由は? 今はジェンダーで区切らない場が増えつつある気もするのですが。

そうですよね。迷いましたが、女性限定にしました。それには理由が2つあって、まず、「女性が自立して、しなやかに自分らしく生きる」のを応援したいという思いが強くあります。シングルマザー家庭で育った自身の経験からきているのですが、人生なにがあるかわからないですし、女性も稼ぐ力を持って経済的にも自立しておくことがとても大切だと思っています。2つ目は、仕事のことだけでなく、出産、育児、介護などのトピックや、女性のからだの変化や健康問題など、ライフステージによって生じる女性特有の話題を気軽に話せるような場にしたいという思いがあったからです。

-なるほど、よく分かりました。会費についても聞かせてください。ホクレアでは毎月5500円の会費をとる形で運営していますが、その形にした背景を教えてください。

Rhythmoonの運営時に金銭面で試行錯誤をした経験から、次に何かを立ち上げる時には事業として成り立たせるために、有料でやろうと決めていました。毎月経営者や専門家をゲストとして招いてお話を聞くことや、コンセプトに共感し、コミュニティで得られるつながりや情報に価値を感じてもらえる方に集まってほしいという思いもあり、価格を設定しています。私自身も、コミュニティの外では言えないようなリアルな体験談・失敗談・学びについてなどを、ホクレア内では積極的にシェアするようにしています。

「相互メンタリング」やグループ活動でつながりを深める

-具体的にはどんな活動をしているのですか?

月に1回、思いを大切に、自分らしく事業を成り立たせようとしている女性経営者などをお呼びして話を聞く、オンラインイベントやセミナーを開いています。コミュニティメンバーはアーカイブで、過去のものを全部見ることができます。

アーカイブ動画

アーカイブ動画

また、「相互メンタリング」を毎月2回行っています。クルー(ホクレアでのメンバーの呼び名)同士で仕事で気になっていることや悩みについて話す、壁打ちのような場です。話す人は言語化することで解決の糸口を見つけることができ、聞いている人は、自らの事業の振り返りやフィードバックになるメリットがあります。

グループ活動もあります。仕事のスキル直結型の活動もありますが、週1回オンラインで動画を見ながら一緒に運動をする「健康部」や、ワーケーション、SNS、マイル活用などのグループもあります。また、ゆるやかに交流できるオフ会も定期的に開催しています。

-コミュニティ通貨もあるんですよね!

そうなんです。誰かのブログにリアクションしたり、イベントに参加したりするなど、ホクレアのために何かアクションすると、それがコミュニティ通貨「マヒナ」(ハワイ語で「月」を意味する)に交換できホクレア内で使えます。マヒナを使って、例えばPRが専門のクルーに自身のPR事業を相談した方もいれば、ディズニーに詳しいクルーに、ディズニーランドの最も効果的な回り方のプランを立ててもらった方もいます。

-社会課題解決に向けたソーシャルアクションにも参加できるのですか?

はい。いろいろなスキルを持ったクルーが集まっているので、それぞれ力を出し合って、社会課題の解決に向けたアクションを起こしていきたいという思いがあります。まだ道半ばですが、いつか具体的なアクションにつなげ、かたちにできるといいなと思っています。

宣言し合い、自分のプロジェクトを実現させる

-活動の中で「メンバーや自身の仕事に活かされているな」と特に強く感じたエピソードがあれば教えてください。

「月2回の相互メンタリングでは物足りない」というクルーが、週1回、30分ほどオンラインで集まって、プロジェクトを推進するための計画を宣言し合う「ignite!」部を立ち上げました。宣言の後にブログを書くルールになっているので、普段クライアントワークで忙しくても「やらなければ」という意識を持てるようになったという声を聞きます。参加クルーが、うまくこの場を活用しながら自分のビジネスを進めているのをみて、まわりのクルーも私もよい刺激をうけています。

-宣言をし合うことで、それぞれのやりたいことが実現しているのですね。小野さん自身はいかがですか?

私自身は、昨年10月のホクレア1周年のオフラインイベントで、1年後までにやりたいことを参加者全員が宣言した時に、自分がすごく興味があって日本でいつか実現させたいと思っていた「堆肥葬」※のことを初めて人前で話しました。すると不思議と勢いがつき、半年後に「生と死のウェルビーイング」をテーマにしたプロジェクトをETIC主催のBeyondersで立ち上げることになり、現在、プロボノメンバーと一緒に活動を進めています。いろんなことが急展開で進んでいて、自分でも驚いています。
※堆肥葬:遺体を堆肥に変えて自然へ戻すという葬送の一つ。アメリカなど海外ではすでに行われている。

-ホクレアがとても良い雰囲気だというのが伝わってきました。

アクティブな人たちは、ホクレアを上手に活用して自分のビジネスを広げていったり、たまに飲みに行ったりと、どんどんつながりを深めています。私もホクレアで出会った人たちとは一生、関係性を築いていけたらいいなと思っています。良い雰囲気で、お互いを知ることができていると思います。

1周年の時の初のオフラインイベントの様子

1周年の時の初のオフラインイベントの様子。

お互いを認め合い、本音を言える場に

-お互いに知識や経験を共有して成長しあう一方で、それぞれの仕事に関する守秘義務もあると思います。そこを乗り越える工夫は何かしていますか?

守秘義務についてはガイドラインを作成しており、それに反する行為があったら退会していただくことがあると明記しています。また、入会前にその方の求めることがホクレアで実現できるのかを見極めていただくために、オンライン説明会の参加を必須とし、さらに応募内容を選考するプロセスも設けています。ホクレア内の投稿は、クルーのみの限定公開を前提にしており、プロフィールはお顔が分かる写真の使用、実名の表記をルールにしています。

-しっかり管理されていて、メンバーの心理的安全性がとても高いコミュニティですね。

心理的安全性は絶対に担保しなければ、と思っています。ホクレアが目指しているのは「ここなら本音をぽろっと言える」という場所。仕事をしていると、うまくいく時もいかない時もありますが、どんな時もお互いのあり方を認め合えるような、安心できる場です。

ホクレアのコンセプトイラストのモチーフは、海女さんなんです。海で、さまざまなスキルを持ったクルーが、それぞれのペースで職人(=海女さん)のように働いているイメージです。働いている人もいれば、島でビールを飲んでいる人もいます。いろいろな人がここから出かけたり戻ってきたりしながら、自分らしく、働き方や生き方の舵を取っていく場をイメージしています。

ホクレアのコンセプト図(2022年バージョン)

ホクレアのコンセプト図(2022年バージョン)


-素敵なイメージですね! 最後に、今後の抱負を教えてください。

複数の収入軸を持ち、自分らしく人生の舵を取っていく女性同士が、お互いを応援し合えるようなつながりを作っていきたいです。顔の見える関係性にしたいので、今の熱量を保ちながらまずは50名ぐらいのコミュニティを目指していけたら、と思っています。


【インタビューを終えて】「目的の明確化」と「会費あり」のメリット

ホクレアについて、特に大きな示唆となりそうだと感じたのは下記の2点です。

  • 問題意識、目的がはっきりしている
  • ホクレアは対象・目的がかなり絞られている印象です。だからこそ、強く共感する個人がつながり合い、メンバーみんなに価値があるコミュニティが作れています。

  • 会費と審査があることで、心理的安全性が担保されている
  • 審査でお互いの相性を確認し「会費を払って参加したいか」を自身に問いかけたうえで入った人たちが集まっているので、興味本位だけの方は最初から排除されています。そのため、気兼ねなく自分のことを話せる、心理的安全性の高い場になっています。

    女性がサステナブルに働き続けるのは、簡単ではありません。生理や出産、更年期など女性ならではの悩みに直面することもあります。そんな時に、同じような目標を持った仲間と励まし合える場があるのは、大きな支えとなるはずです。ホクレアが、今後さらに盛り上がっていくことを願っています。

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