ENW Lab. ENWラボ
オンラインコミュニティが、サステナブルな事業の推進力に

(Photo by Chris Montgomery via Unsplash)
「オンラインコミュニティ」とは、あるテーマに興味のある人たちがオンラインで集まり、議論や情報交換をする場です。こうした場は、異なる組織・立場の人が出会い、交流する機会になっています。
サステナビリティ関連の課題は、社会の構造的な問題に起因することが多いため、1つの企業や政府、組織、個人では解決できません。だからこそ、組織や立場をこえて協働していくことが重要です。そうした協働が簡単に実践できる場の1つとして、オンラインコミュニティは大きな可能性を秘めています。筆者もエコネットワークス(ENW)のコミュニティ事業「TSA」のお世話役として、さまざまな取り組みを実践する中で「こういう関係性が、サステナビリティの推進力になるのではないか」と日々、感じています。
そこで、連載「オンラインコミュニティの可能性」をスタートし、サステナブルな社会につながる活動をおこなっているオンラインコミュニティの運営者に、実際の様子や効果、未来につながる可能性を聞いていきます。第1回目のゲストは「サステナブルな事業活動の推進」
をテーマに集う「サステナブルコミュニティ」発起人のゆうじろうさんです。
お話を伺った方:ゆうじろうさん(サステナブルコミュニティ発起人)
事業会社のサステナビリティ担当者。2021年3月末、コロナ禍における他社とのゆるやかなネットワーク構築を目的にTwitterでコミュニティの立ち上げを呼びかけ、賛同いただいた有志と一緒にサステナブルコミュニティを同年5月に設立。
執筆:曽我 美穂
富山県在住のエコライター、エディター。ENWではプロジェクトマネージャーや、コミュニティ事業「TSA」のお世話役を務める。
「事業のサステナビリティの推進」をテーマに300名以上が集う場

(Photo by Marvin Meyer via Unsplash)
-まずは「サステナブルコミュニティ」の概要を教えてください。
2021年5月に設立された「サステナブルコミュニティ」は、SNSのSlackやZoomで交流する、相互学習型のコミュニティです。事業会社のサステナビリティ担当者を中心に、コンサルタントやスタートアップ経営者、弁護士、研究者、学生などが、参加しており、現在のメンバー数は318名(2023年1月30日時点)です。
-いろんな方が参加しているのですね。具体的には、どんな活動をおこなっているのですか?
「事業活動を通じて世の中をよりサステナブルにしたい」というマインドを共有しながら、連日、情報交換や勉強会をおこなっています。テーマは、統合報告書やESG評価、ビジネスと人権、生物多様性、DE&Iなど、普段の業務につながる、専門性が高い内容が多いです。サステナビリティ担当者が悩みがちな、自身の専門分野の社内での説明の仕方、部門間の軋轢の調整や経営層との関係構築のコツなどを伝える会や、失敗談を話す会もあります。私のTwitterでの呼びかけに有志が賛同してスタートしたため、今のところ会費制度はなく、賛同してくださった方からの寄付でZoomなどの費用をまかなっています。運営メンバーの人件費は出しておらず、全員、手弁当で活動しています。
-気になることとしては、時間の位置付けです。業務時間とされるのでしょうか? それとも都度の判断でしょうか? また、参加者が自社の守秘義務に抵触することを言ってしまう危険性はゼロではないと思うのですが、そのあたりは、どんな風にルールづくりをしているのですか?
勉強会は昼休みの時間帯や夜などの業務時間外に設定している場合が多いです。そのため、業務時間外に参加している人が多いと思います。コミュニティ内の発言は「チャタムハウスルール*」を共通項として設定し、周知しています。それ以外は、各自の倫理観に任せていますが、今のところは特にトラブルの報告は来ていません。また、「守秘義務に抵触するような情報を引き出そうとしない」と空気づくりを意識しています。
*チャタムハウスルール
会議の参加者は会議中に得た情報を外部で自由に引用・公開することができるが、その発言者を特定する情報は伏せなければならないという規定。
-なるほど。個人の判断に任せているのですね。その文脈で言うと、自然発生的に始まるプロジェクトも盛んで驚きました。
はい、有志によるプロジェクトも随時、立ち上げられています。2021年には、ESGの定義から実際に働く人の事例集まで網羅している『ESGキャリアガイドBook』の制作プロジェクトが発足し、PDFの冊子を完成させました。現在は、メンバーを通じて広められていて、「サステナビリティ分野のキャリアを考える人たちの指南書になっている」という声も聞いています。

『ESGキャリアガイドBook』(Photo by Miho Soga)
顔の見える関係で、解決策の糸口を見つけ合う
-私もENWの仕事仲間である立山 美南海さんの紹介で、1年ほど前からサステナブルコミュニティに参加させていただいているのですが、驚いたのは、入る前にゆうじろうさんとの「オンラインご挨拶」があったことです。
実はそこが、設立時にこだわったポイントで、入りたい方とは、必ず事前に私と30分間のオンラインご挨拶をおこなっています。オンラインだからこそ、お互いの顔を見てお話しする機会があったほうがいいかなと思ったのが始まりです。
オンラインご挨拶では、まずはお互いの自己紹介でどういったお仕事をされているのか、どのような点に興味関心・課題感を持っているのかを共有し合います。その後にコミュニティの概要を説明し、伺った興味関心・課題感に対してどのような情報提供ができるのかなどを、お話しさせていただいています。こうした初期の対話を通じて、お互いの認識のズレを起こさずにスタートいただくことが大切だと考えています。
他にも半年に1回ほど、希望者がリアルで集まる機会も作っています。また、みんなが安心感を持って活動できるように、実名での参加を必須にしています。なお、勤務先などの情報を公開するか否かは各自に任せています。
-参加者は「入って良かったこと」として、どんなことを挙げていますか?
サステナビリティ担当者の多くが「入ってよかったこと」として挙げるのは、「他社の同じような立場の人たちとゆるくつながり、「困っているのは自分一人だけではない」と感じたり、他者の意見を聞いて解決策の糸口を見つけたりできることです。
また、企業の支援をしている人たちからは「支援される側の考え方や社内での立場や動きを理解でき、勘所がつかめて助かる」「サステナビリティ関連のトレンドが分かる」という声が聞かれます。
スタートアップの経営者にとっては潜在顧客側の声を聞く場に、研究者にとっては研究をビジネスで生かす示唆を得る場になっているそうです。私の場合は、コミュニティを通じて普段の仕事では近寄りがたいような方とフラットな関係を築けて、ネットワークが広がっている点が大きなメリットです。意外と、相手の方もオフィシャルではない場所での情報交換を希望している場合が多く、相互にとって有益な関係性が築けているのではと感じています。
-なるほど。私も現在、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の勉強会に定期的に出席しているのですが、研究者や企業担当者の方から最新情報や新たな視点を教えていただける、貴重な場になっています。今後の勉強会も楽しみにしています。今日はありがとうございました。
【インタビューを終えて】カギは「顔の見える関係」と「個人」
インタビューの後、サステナブルコミュニティの運営で特に素晴らしいと感じた点は、下記の2点です。
オンラインで心配な点は「どんな人か分からない不特定多数と接する」ことが挙げられますが、サステナブルコミュニティでは、運営者が全員の顔と名前を知っているので、その時点で、運営側にも参加側にも圧倒的な安心感があります。また、一定期間活動が見えないメンバーには参加の意思を確認し、顔の見える関係性を維持しているのも良いアイデアだと思いました。
基本的には、Slackの投稿からプロジェクトの立ち上げ、勉強会への参加まで、運営側も参加者側も「個人の判断」で進めています。そのため、参加者が仕事や家庭の事情に合わせて自由なスタンスで関わることができ、継続的に参加しやすい環境になっています。
300人以上の参加者それぞれが、得た学びを職場で生かしている姿を想像すると、明るい気持ちになります。ここからサステナビリティ課題解決のためのアクションが続々と生まれていくことを、楽しみにしています。