育休で人生を豊かに、強い組織へ

2022 / 6 / 22 | 執筆者:EcoNetworks Editor

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2022年4月にスタートした「サステナブルに休む」企画、第2回のテーマは「男性&経営層の育休」です(第1回「『サステナブルに休む』どう実現? ENWとパートナーの新しい試み」の記事はこちら)。

4月の育児・介護休業法改正の一環で、父親による子の出生時の育休(産後パパ育休)制度が創設されるなど、日本政府は今、諸外国に比べて低い男性による育休取得率を上げようとしています。男性の5倍超の時間を家事・育児に費やす女性の社会進出を推進するには、男性の“家庭進出”が不可欠とされているからです。

組織のリーダーとして、さらには日本社会に向けて率先垂範(と言うと大げさかもしれませんが)しているのが、ENW代表の野澤 健さんです。野澤さんは父親として、さらには経営者として育休をどのように捉え、育休の取得を通じてどのようなことを実現しようとしているのでしょうか。TSAシェア会との連動企画として、育休中の野澤さんにオンラインで話を聞きました。


執筆:木村 麻紀(ジャーナリスト/ENWパートナー)
湘南在住。ENWでは企業のサステナビリティコミュニケーション支援をメインに、ENW内部の集合的な学び&交流の企画、ファシリテーションを行う。創業メンバーとして参画したメディア企業では、社内初の育休取得者として、社内の制度設計から取得手続きまで一手にこなした。半年間の育休を取得して育てた息子は中学生に。


絶対的な仕事時間を削減! 働き方・生き方を見直すきっかけに

野澤さんは、2020年3月の第一子誕生時に続き、22年4月から第二子の育休をそれぞれ3カ月間取得しています。理由を聞くまでもないかもしれませんが、なぜ再び育休を取得したのか改めて聞いてみると、こんな話をしてくれました。

親として当たり前だと思っています。小さな子どもが好きということはなく、むしろ苦手意識があったのですが、子育てそのものに対して純粋に好奇心としてやってみたかったんですよね。子どもとの時間を取りたい。そして何よりも、子育てには単純に人手が必要で、そこに父親か母親かは関係ありません。

そんな野澤さん、2回目の育休中の生活ぶりはどのような感じなのでしょうか。

母親にしかできないことは最小限にするという考えの下、パートナーには授乳と上の子のケアを中心にやってもらい、特に産後の回復期には肉体労働的なことはすべて僕がやっています。一人目の時は月30時間ほど仕事もしていましたが、今回は10時間に減らそうとしています。ただ、月によってはなかなか難しいですね。ゼロにする期間は必要ではありますが、一人目の育休を経験して、3カ月間丸々ゼロである必要はないと思っています。

2回目ということもあって、子育てスキルもタイムマネジメントスキルも向上したという野澤さん。2回の育休取得を経て、思わぬ具体的な成果が表れます。

育休を取るたびに、仕事の時間数が全体的に減ってきています。育休を長期で取ったこと、復帰後は月の総仕事時間数の目標上限を設定したこと、自分自身そしてチームとしても意識して取り組んだことで、業績も下がることなく仕事時間数の削減に結果としてつながっているのだと思います。予定が突発的に変わることを前提で動けるようにもなりました。時々子どもを預け合える地域とのつながり、在宅勤務の有難さも感じるようになりましたね。

2017年 から現在にかけての野澤さんの仕事時間の推移。家庭を持ち、子どもが生まれるのを機に、徐々に仕事時間が減ってきているのが分かる。

育休は自分のために休む一般的な休暇とは異なることは、取得した経験のある人なら実感できるかと思います。育児という大切な“仕事”のために“休む”という経験を経て、野澤さんの“働く”や“休む”への考え方も少しずつ変化しているようです。

休み方イコール時間の使い方と考えると、稼ぐため/周りのため/自分のため――と大きく3つに分けられ、育休は2番目と3番目に深くかかわると感じるようになりました。仕事を長期で離れて子どもとの時間を作れることは楽しいですが、育休中に少し仕事をすることがリフレッシュになる面もありますね。でも、どの休み方にしても視野が狭くならないように、あるいは個別最適に陥らないようにするためにも、休むことそのものが必要だと思います。さらに、単に消費するための時間として休むのではなく、立ち止まる・見つめ直す、普段と違うことに集中することで新しいことの創造につなげるためにも、休みは欠かせないと感じるようになりました。

育休とは「子育て期の休み方」 さまざまな状況下で休める働き方の工夫を

2回目の育休もさまざまな工夫をしながら過ごしている野澤さんのような人は、残念ながらまだまだ少数派です。「恵まれた環境にあることも事実なので、(育休取得に)後ろ向きな人にどう理解してもらうか」(野澤さん)ということも意識したと言います。

クライアントに対しては、やり取りの中で育休に入ることを話題として出したり、育休前に自分の思いをブログに書いたりしました。読んでくれたクライアントの方から、自分も取得しようと背中を押されたという声もいただきました。逆に、育休に関心のない人、前向きでない人とのギャップを感じる場面もありました。

一方で、子育て期を広く捉えれば、出産前後に限らない育休のあり方が必要ではないかと感じることがあったそうです。

育休は一般的には法律で定義が決まっていますが、僕の中では子どもが生まれる前から始まっていました。僕の場合、妻がつわりの期間に、育児と仕事をワンオペでしていた時のほうがきつかったですね。「育休」という前提が共有できていると、周りも育休モードで対応してくれます。しかし、通常モードで動いている中では、日中時間が割けない分夜に仕事をせざるを得なかったので、柔軟に働きながらいかに心身のバランスを確保するかは課題です。育休を取ること、育休取得率が上がることだけをゴールにするのではなく、母親がつわりで動けない時から、臨月から産後3か月まで、2~3歳の入園するまでの期間、そして小学生以降までを含めて、それぞれの期間について夫婦で時間の使い方を考えていくことが大切ではないかと思います。

男女の賃金格差が大きい現状で、収入減への懸念などから育休取得を躊躇する人も多いため、現状を上回る育休期間中の金銭的な補償なども不可欠でしょう。しかしそれだけでなく、育休期間に限定することなく、柔軟な働き方と時短や休暇の取りやすさとをセットで推し進めていくことが重要なのです。

2回の育休を経て、より強い組織へ

もう一つ、野澤さんは男性としてだけでなく経営者として育休を取っており、組織運営という点で及ぼす影響は小さくありません。この点、野澤さんはどう捉えているのでしょう。

一人目の育休に入るときは、もう一人の取締役と経理担当パートナーと合宿して気合いを入れて臨みましたが、今回は日々のやり取りの積み重ねを経て自然体で育休に入ることができました。ありがたいことに、この間売上も減らず、むしろ上がった時期もありました。僕が育休を取ることで、役割分担や権限の委譲、さらに休むことに対する組織文化(カルチャー)の醸成も進んだ面はあり、その状態が当たり前になった感覚が皆さんにも生じていれば幸いです。1回目を取ったことで、組織としての経験値も増したと思います。

この点、あるパートナーからも「野澤さんがいない間、プロジェクトを進められるように独り立ちする心の準備ができた」といった声が聞かれ、組織の構成メンバーのスキルとチャレンジ精神の向上につながっていることが伺えます。野澤さんは「組織の面からは、メンバーが育つ、長期で休んでも回る組織にするという点で組織を強くすることにつながります。2回目の育休が終わったら、組織として適正に回せたかどうかの振り返りを今回はしっかりやれたらいいなと思っています」と話しています。

パパ・クオータ、育児ベーシックインカム…育休を取れる社会のために必要なことは?

今後より多くの人が育休を取ることができる社会にしていくために、どのような環境や仕組みが必要なのか――。野澤さんはこんな施策を考えてくれました。

  • ・北欧を中心に広がる夫婦それぞれの取得の義務化(パパ・クオータ制)
  • ・育休中だけでなく、育児期間中のベーシックインカムを支給することで、正社員以外の人にも補償
  • ・理由を問わない長期休暇取得の義務化(または取らないと損をする制度)
  • ・全員時短を前提とした働き方のルール作り
  • ・「育休」の名称・定義の変更  参考)東京都:育休の愛称を「育業」に決定

そして何よりも、社会全体として、子育て期間中は仕事をスローダウンすることを当たり前にできたらいいですね。

次世代のジェンダー意識を変えていくために

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現行の育児・介護休業法は、経営者や個人事業主、フリーランス等は対象外のため、野澤さんの育休は法律上の育休ではありません。しかしだからこそ、野澤さんの育休は、日本の男性育休の取得率の数字を上げるということを超える深い意味があるのだと改めて感じさせられます。

では、どのような意味があるのか――。野澤さん自らも随所で話してくれましたが、人生の優位順位が明確になるということです。男女を問わず、育休を取得する多くの人にとっては家族が第一となるのでしょう。一方で、仕事が第一という結論に達する人もいるかもしれず、それはそれであっても良いのではないでしょうか。いずれの場合であっても、子育てをしながら働きやすい・休みやすい仕組みや環境の選択肢があることが大切ではないでしょうか。

また、育休を通じて、父親と母親が子育てにおいて同じスタートラインに立てるという点も、もっと強調されて良いのかもしれません。さらに、参加してくれた別のパートナーが話してくれたように、次世代のジェンダー意識を変えていくためにも、父親が育休を取ることが子どもたちへのメッセージになるのではないかという視点も見逃せません。性別役割分担が世界一顕著だという烙印を押されている日本社会にあって、男性が育休を取ることには他の国々以上に大きな意味があるはずです。

育休は、一人ひとりのサステナブルな働き方・休み方を見つめ直すきっかけになるとともに、一人一人のあり方が尊重され・活かされる組織文化をつくるカギとなるのではないか――私たちは、そう考えています。

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