すべての世代に起こりえる「介護」 どう休めたらサステナブル?

2022 / 10 / 26 | 執筆者:宮原 桃子 Momoko Miyahara

(Photo by Angelov via AdobeStock)

連載企画「サステナブルに休む」、第4回は「介護・看護期」がテーマです。第2・3回で考えた子育て期と同じく、家族のお世話のために多くの時間を費やす一方、仕事や生活などさまざまなことを両立しなければならない期間です。どのように休めれば、自身も家族もサステナブルに過ごしていけるでしょうか。

エコネットワークスのプロジェクトで、IT関連の業務を担ってくださっているパートナー・相羽大輔さんをTSAシェア会 にお招きし、介護・仕事・子育てなどを同時進行されたご経験を伺いながら、サステナブルに休むためのヒントを考えていきます。


お話を伺った方:

相羽大輔さん(ENWパートナー/システム開発会社「ドリームガレージ」代表取締役社長)

執筆:宮原 桃子

東京・世田谷区に暮らすライター。ENWでは、企業向けのサステナビリティ関連コンテンツ制作に取り組む。かつて暮らしたドイツにて、プライベートや家族の時間、長期休暇などを優先する社会を経験し、サステナブルに休むことを大事に考えている。


仕事も子育ても真っ盛りの30代、突然スタートした介護

お話を伺った相羽大輔さん

相羽さんが介護に向き合うことになったのは、今から10年前の30代の時でした。石川県金沢市で、システム開発会社を経営しながら、共働きの妻と2人のお子さん(当時9歳と2歳)と暮らしていた相羽さん。一方、新潟県妙高市の実家では、当時70代にさしかかろうとしていた父が、80代で認知症の母を在宅看護していました。しかし、父は介護うつを患い、さらに母の介護中に転倒して腰椎圧迫骨折し、介護ができない状況に。一人っ子の相羽さんは、ご両親の介護を一手に担わざるをえなくなったのです。

― 250キロも離れた場所に住むご両親の介護が始まり、大変な状況だったのでは?

会社を起業して4年が過ぎた頃で多忙を極め、育児もまだ大変な時期でした。ここに介護が加われば手に余ることは明白だったので、家庭と育児は妻に担ってもらい、私は両親が入居できる施設を探すことから始めました。でも、この施設探しが本当に大変で…。最初はショートステイを利用しながら、なんとか施設を見つけるまでは、週3回くらい250キロの往復を繰り返す日々でしたね。

先が読めない介護生活 リモートワーク&柔軟な働き方がカギ

― 日々の生活も忙しい中、介護のための休みをどのように捻出したんですか?

介護は、突発的に色々なタスクが降りかかるので、いつ休むかを自分でコントロールできません。また、育児であれば終わりが見えますが、介護の場合は何年続くかもわからず、先が読めないんですね。

そこでまずは、介護と仕事を効率的に進められるよう、クラウドサービス上に仕事のデータなどを移管して、リモートワーク環境を整えました。実家でも仕事ができれば、移動の時間も減らせます。また、私は自営なので、時間を柔軟に使えたのも大きかったですね。時間を細切れにして、仕事や突発的な介護に充てながら、やりくりしました。

介護・仕事・生活…「両立のヒント」とは?

シェア会参加者とともに

― 休む時間を有効に使うためにも、介護と仕事や生活をうまく両立できるといいのですが…。どんなことがポイントになると思いますか?

まずは、自分自身の気持ちのシフトチェンジでしょうか。親は自分を育ててくれた存在なので、「どうせ元気になるだろう、大丈夫だろう」と思いがち。私の場合も、そう思い込んで自分の生活を優先していたら、両親の状況がとても悪くなるところまで行ってしまったんです。「自分がサポートする側に変わる」ということを早いうちから意識して、気持ちを切り替えて、準備を進めることが大事です。

― なるほど、大事な一歩ですね。さらに、自分自身だけでサポートするのではなく、周りの力を借りることもカギになりそうですね?

介護って、人にお願いしづらい、むしろ隠さなきゃといったような風潮がある気がするんです。でも、早い段階から、第三者の力を借りた方がいい。私の場合も、両親が施設に入居できてからは、自宅と新潟との往復も減り、状況が落ち着きました。介護する相手が住んでいる地域で環境を整えるか、自分の所に呼び寄せるかなど、外部のサポートを利用することも踏まえながら、考えておけるといいですね。

それから、介護について周りとオープンに話していくことも、悩みの解消や情報収集、さらには周りからの理解やサポートを得ていく上で、良かったですね。SNSで積極的に発信したところ、同じような境遇の仲間とのつながりができましたし、SNSを見ている親族からサポートの声がかかることもありました。

「自分自身が休む」ことも大切

トレイルランニングを楽しむ相羽さん

― サステナブルな休み方という視点では、「介護のために休む」ことだけでなく、「自分自身が休む」ことも必要ですよね。

休みの時間を介護に充ててしまうと、それ以外の時間はどうしても仕事をすることになってしまいます。でも、自分を守るためには、体を休めたり、気持ちをリフレッシュしたりする時間が大切です。私自身は、山を走るトレイルランニング(トレラン)が趣味なので、仕事や介護の合間に山を走って、リフレッシュしていました。

組織や社会に求められる仕組みとは?

(Photo by maroke via AdobeStock)

― コントロールが難しい介護期に休むためには、自分自身や周りが工夫をしても限界がありそうです。組織や社会には、どんな仕組みや環境が求められますか?

今は男性の育休を含め、子育てにまつわる休みは社会に浸透し始めています。子どもが熱を出したら帰るのは当たり前のように受け入れられても、介護で休むと周りから「え?」といった反応が出るようなギャップはなくしていきたいですね。誰しもライフステージは変化するので、介護も子育てと同様に、制度や環境を整えていかなければなりません。

もし会社の制度不足が理由で退職しなければならなかったら、それは組織にとっても不利益になります。今は少子化が進み、人材を確保することは今後もっとさらに難しくなります。「代わりがいくらでもいる」という時代ではないので、今いる人たちが働きやすい環境や仕組みを作っていかなくてはなりません。仕事と介護を両立しやすい環境を作るのも、その一つです。介護は先が見えず、終わる保証がない反面、介護の合間に仕事ができたりもします。そうした介護の現状に即した、柔軟に休める仕組みが必要かなと思います。

すべての世代に関わるテーマとして考える

― どうすれば、そうした環境が社会全体に広がっていくでしょうか。

介護は、誰にでも起こりえる問題です。私は子育てと重なる時期でしたが、育児よりも前に介護が来ることだってありますよね。兄弟が要介護で両親は共働きといったケースや、最近注目される「ヤングケアラー」※の問題もあります。これまで、介護は人生の後半戦で起きる話という意識があったかもしれませんが、すべての世代で起こる問題としてとらえていくべきです。その上で、介護という問題を隠すのではなく、オープンに話していくことが、このテーマを社会全体できちんと考えて取り組んでいくことにつながると思います。

※本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども


お話を伺った後、参加者からは、介護期の休み方に留まらず、家族内でのコミュニケーションやお金のこと、入居先の選び方など、まさに「自分ごと」として感じたからこその質問やコメントが飛び交いました。相羽さんが最後に話してくださったような、介護をオープンに語り考える場となったように感じます。こんな風に「誰もが当事者」という意識を共有することが、介護期に休みやすく働きやすい風土や環境を、社会全体で広げていくことにつながりそうです。

次回は、「働き盛りの休み方」がテーマです(12月掲載予定)。人生の中で最も盛んに仕事ができ、キャリア形成・キャリアアップも重視されることが多い時期に、サステナブルに休む意義やあり方を考えていきます。

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