Interview: 北極圏の生物多様性(Arctic Biodiversity)って?

2016 / 3 / 5 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks Editor
“乱獲は対処しやすいんです。でも気候変動には簡単な解決策はありません。”

Tom photo

お話:
Tom Barry 氏
北極圏動植物保全機構 (Conservation of Arctic Flora and Fauna、通称CAFF)
作業部会 事務局 

聞き手:藤原斗希子(TSAパートナー)

はじめに

突然ですが「北極圏の生物多様性」と聞いてみなさんはどんなことを思い浮かべますか?ホッキョクグマ、カリブー、イッカククジラなどの動物たちでしょうか。または北極海の海氷が温暖化で溶けている画でしょうか。

日本に住んでいるとどこか遠い地域のように感じますが、実は日本と北極圏は資源開発の調査をはじめ、この生物多様性の観点からも重要な関わりを持っています。

そこで今回、北極圏の生物多様性や日本とのつながりについて、モニタリング評価や周辺国および国際機関との連携を行っている、北極圏動植物保全機構(CAFF)の作業部会事務局のTom Barryさんにお話を伺いました。

インタビュー

北極圏の生物多様性とは一体どんなものでしょうか?

まず北極圏には何種類の生物がいると思いますか? 実は約21,000種もいるんですよ。そうした生物にとっての脅威は、昔は乱獲でした。乱獲は取締りを強化すればいいので、対処しやすいんです。現在そしてこれからの脅威は気候変動です。でも気候変動には簡単な解決策はありません。

現在北極は3つのストレスにさらされています。気候変動や汚染物質のような「世界的な要因」。乱獲や侵入生物の拡大による「地域的な要因」。そして北極海の石油開発や船舶事故などの「局地的な要因」です。これらが複雑に絡み合っているため、包括的かつ徹底的に対処するための国際協調が必要になります。

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※写真はCAFFより提供

北極の生物多様性が日本のような非北極圏地域へもたらす影響とはなんでしょうか?

日本との関連性について言うと、渡り鳥の保全が共通課題です。非北極圏地域との生息区域の保全活動があり、そこでの生息状況を確認するために、日本をはじめとするアジア各国の専門家たちと連携しています。

企業との取り組み事例にはどのようなものがありますか?

企業との関係は、生物多様性アセスメントの主要テーマであり、生物多様性の原則やステークホルダーにとってのわれわれの価値について話し合っています。
実際に石油・ガス・輸送そして採掘事業者との関わりも増えているんです。例えば企業が北極圏内でモニタリングをしようとすると、とても簡単にはアクセスできませんから、こちらから科学的な情報などを提供して話し合い、協力します。そうすることで、どうやったら共通課題としての生物多様性の保全を認識してくれるかを探っているんですよ。

北極圏の生物多様性に関する認知を広げるためにどのような取り組みをしていますか?

「メインストリーム化」はわれわれが促進する目標の一つです。独自の教育ツールを開発し、企業の経営者や科学者へのオンラインセミナーも最近開始しました。
教育以外では「生物多様性アセスメント ロードマップ 2013-2021」というプランがあります。これは17項目の生物多様性アセスメントの実施計画で、2年毎に見直します。2017年の見直しの際には、2015年に採択された「持続可能な開発目標 (SDGs)」の活動プランを盛り込む予定です。

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最後に周辺国や他の団体・機関、とのコラボレーションについてお聞かせください。

ステークホルダーとの連携はもっと増やしていきたいですね。特に科学調査支援がある日本のような北極圏評議会のオブザーバー国との連携は重要です。一方、オブザーバーでもない非北極圏国のオランダで、2015年に渡り鳥に関するワークショップを開催しました。

生物多様性条約などの国際条約との連携も重要です。名古屋市で行われた2010年の締約国会議では北極圏の生物多様性の議題がなかったのに、生物多様性アセスメントを発行したら緊急課題として認識した、ということもありましたね。

また「周極の生物多様性モニタリングプログラム」というのもあります。北極圏の生物資源を監視するために科学者や、政府機関、先住民団体などと連携して、データ管理やレポーティングなどに取り組んでいます。

もともとCAFFの活動範囲が小さかったので、2014年の初の北極評議会でステークホルダーとの連携を主要テーマに決めたんですよ。なので、われわれの取り組みは始まったばかりですね。

インタビューを終えて

ほとんどの人が足を踏み入れることのない「北極圏」。そこで発生している生物多様性の問題は、多くのステークホルダーと連携して現実を伝え、解決していかなければならない、そんな印象を持ちました。

国土の3分の1が北極圏であるフィンランドでもここ数年、日本と同様に気候変動が起きています。北極圏国のフィンランドと非北極圏国の日本。どちらも同じ地球に住む人間として、この北極圏の生物多様性の保全に取り組んでいかなければなりません。

2010年のCOP10に参加するために日本を訪れたというTomさん。今後も日本との連携を密にしていきたいと語っていました。

藤原斗希子

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