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Interview: Cradle to Cradle® — 新たな品質基準
”経営層は、10年、20年後に自社がどのレベルでありたいか、いま決断を下すべきです。”
お話:マイケル・ブラウンガート氏(Dr. Michael Braungart)
EPEA(ドイツ環境保護促進機関)創始者
はじめに
近年注目が高まっているサーキュラーエコノミー。これまで私たちもいくつか記事でご紹介してきました。そんなサーキュラーエコノミーの考え方の原点ともいえるのが、生産→消費→生産のサイクルを目指す「Cradle to Cradle®(ゆりかごからゆりかごまで)」の概念です。20年以上も前から提唱し、認証制度を立ち上げ普及啓発に努めてきたマイケル・ブラウンガート氏にお話を聞きました。
*「Cradle to Cradle®」の認証基準は、以下の5つ。
・原材料の健康性
・原料・部品のリユース
・自然エネルギー利用とカーボンマネジメント
・水スチュワードシップ
・社会的な公正さ
製品は有害な化学物質を含まない原料を使用し、循環使用を前提に特別設計され、社会的に公正なプロセスで生産され、繰り返しの回収・リユースにも耐える、「高品質(Total Qualityと表現されます)」であることが求められます。「Cradle to Cradle®」認証は、旭硝子欧州支社やC&A などの企業が取得しています。
インタビュー
Q1: EPEAについて教えてください。
EPEAは企業や政府、専門機関を対象に、サーキュラーな仕組みを導入するための調査やコンサルティングを行っています。軸となるのは、90年代に開発したCradle to Cradle® (以下C2C)というデザインコンセプトです。イノベーション、高品質、グッドデザインという要素に代表されるC2Cは、材料を循環サイクルの中で安全かつ潜在的には無限に利用するための考え方を示しています。循環サイクルには生物循環と技術循環の2つがあります。生物循環では、材料はたい肥や栄養素として土に還り、新たな材料を作る元になります。技術循環では、使用期間に消耗しなかった材料は、新たな製品で使えるよう再加工されます。
従来の環境・サステナビリティに関するツールは、いかに負荷を少なくするかという考え方に則っていて、環境にマイナスの影響を与えることが前提でした。その点、C2Cは違います。C2Cは設計の初期段階から経済・社会・環境の視点を組み込む「トリプル・トップ・ライン」という考え方に基づき、3つの側面すべてにプラスの影響をもたらします。「Let’s be good instead of just less bad.(悪いことを少なくするのではなく、良くなろう)」です。
コンセプトが生まれてから25年で、C2Cはビジョンから、デザインスクールのカリキュラムに取り入れられるまでになりました。公共調達のガイドラインやその他の国際規格にも導入され、C2C認証を受けた製品はすでに8000件を超えます。いくつか例を挙げると、
・繊維業界初の生分解可能なTシャツ
・有害物質を含まず、技術循環が可能な空気を清浄するカーペット
・C2Cに基づき建てられたオランダの市役所
などの事例があり、これらはほんの一握りにすぎません。現在は製紙・印刷、包装、コンシュマープロダクツなど幅広いセクターでも取り組みが進んでいます。
Q2: C2Cで出てくる「Total Quality」とはなんでしょうか?
人々は、エコやグリーンは品質そのものであるということを理解するようになってきました。そう考えると、過去40年間議論されてきた環境破壊や資源枯渇といった問題は地球の終わりなどではなく、企業にとってイノベーションの機会、新しい考え方に基づく製品設計の機会と捉えることができます。たとえば洗濯機メーカーが、これまでのように洗濯機を売るのではなく、「2000回洗えるサービス」を売るとしたらどうでしょう。メーカーは長持ちするように製品を設計し、より高品質の材料を利用し、そして再利用するようになるでしょう。長期で見ると、製品価格は下がります。なぜなら下流の廃棄・回収や時に怪しいリサイクルにではなく、上流の製品設計に改善のための資源が投入されるからです。
C2Cは(たんなる環境規格ではなく)経済とイノベーションについての概念だということがわかるでしょう。うしろめたく感じながら、やらないよりましと環境負荷を管理する“サステナビリティ”とは違います。真のイノベーションは過去から未来へと続くサステナビリティ上にはありません。これまでの延長にないからこそ、革新的なのです。
ゴミを生み出す製品は、品質に問題があるということです。C2Cに対応することで、圧倒的に優れた品質の製品が生まれ、低賃金の国で生産される製品との競争にはなりえません。
C2Cの認証規格は、こうした品質基準を証明するものであり、メーカーにとっては設計、生産、再利用のプロセスにおけるチェック事項を示したガイドラインでもあります。
Q3: C2C認証規格は企業にどんなメリットがありますか?
C2Cは、「モノ」を売るのではなく、「サービス」を売ることを可能にします。製品の使用後に材料が回収されて再利用されるということは、自然循環または技術循環のサイクルに取り込まれます。その結果、企業は資源の市場価格といったサイクル外の影響に左右されることが少なくなります。また原料から再製造までサプライチェーンの全プロセスが企業の管理下に収まり、改善に取り組んでいくことができます。デジタル化が進んだ世界では、どこにどのように組み込むか、すべての部品を正確に追跡することが可能です。製品の再利用を念頭に設計されているため、品質について心配する必要もありません。C2C抜きに真のデジタル化は実現しないでしょう。
経営上のメリットは、生産の初期段階で正しいイノベーションによる高品質を実現できることです。また新しい投入資源と再生資源の買い入れ時に企業同士で協力し合うことで、原料をプールできるようにもなります。C2Cを実施する企業のネットワークが大きければ、それだけ効率的な材料の循環が実現します。経営層は、10年、20年後に自社がどのレベルでありたいか、いま決断を下すべきです。
ポジティブな目標を持つ企業は、仕事に誇りを持ちたいと考えるようになっているクリエイティブな人材のやる気を高めます。ヨーロッパにでは、このような製品設計に取り組みたいと考える意欲的な人々が若いデザイナーも含めて多数おり、製造業の重要な柱を担っています。順調にいけば、2035年か2040年には全産業に大なり小なりC2Cが適用されるのではと考えています。とてもいいペースです。