千田智美さんインタビュー(第3回目)

2013 / 3 / 2 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks

*こちらのインタビューは、千田さんインタビュー第1回目・2回目からの続きです。
インタビュー:運営パートナー 千田智美さん
インタビュアー:大田朋子

 

○  翻訳の仕事で出会った文書をきっかけに、サステナビリティに強く関心を引かれるようになり、独自に勉強を始められたと聞きました。

 

千田:大学まで関心はおおむね英語に向いていたのですが、仕事でいただいた翻訳の文書で、化粧品に含まれているある化学物質が体にも環境にも悪いことを知り、調べていくうちにサステナビリティに入っていきました。できることからしようと思ったという感じです。

サステナビリティって本当にいろいろなところにつながっています。すべてに関わっている。いろいろなことを知っていくうちに、もっと本当のことを知りたいと思うようになりました。本当のことは隠されているので。

 

大田:本当に何にでも関わってきますよね、サステナビリティって。

千田:そうですよね。経済のことも政治のことも何でも理解していないといけないなと思います。

それからサステナビリティに惹かれるもう一つの理由は、サステナビリティの世界は仲良しの世界だからです。経済至上主義の世界は、シェアだとかパイだとか言って奪い合いの世界。役に立つ技術やノウハウも奪い合ったり、蹴落としあったり。でも、サステナビリティの世界では、すごくよくできる人がいたら素直にすごいって思ってみんなで応援して、すごい技術やノウハウを持っている人も共有して、みんなで一緒によりよい世界にしていこうよっていう仲良しの世界です。

 

一つ例を挙げると、並大抵でない苦労の末に山地酪農を軌道に載せた中洞正さんという方が岩手県にいらっしゃいます。

山地酪農は山を再生させ、牛は牛らしく幸せに生きられ、牛乳は味も良く人間の身体にも良いという、良いことずくめの酪農ですが、乳脂肪分の基準や閉鎖的な流通機構のせいで実現がとても難しかったのです。それを中洞さんはあきらめずに挑戦を続けて、見事に軌道に載せ、そのノウハウを提供して、山地酪農を普及させる活動をしています。

経済的利益だけを考えていたら、専売特許というか、誰にも教えないで自分のところだけ儲けようとしますよね。サステナビリティの世界ではそうはならない。それがすごいところで、だから大好きなんです。

 

○  サステナビリティってそれぞれの定義があると思うのですが、千田さんがおっしゃるように、結局は生活全般に関わってきますね。千田さんがサステナビリティという意識を高く持つようになってから、ご自身の生活での変化はいかがですか?

千田:生活はだんだんと変わって、今では日常で使うもの、食べるもののほとんどが自然のものになりました。

具体的には、有機栽培農家の方から野菜を届けてもらったり、野生または有機栽培原料だけで作られた石けんを使うようになったり。食べ物は自然食品店かマーケットで直接生産者さんとお話をして買っていて、野菜を送ってもらっている農家の方ともマーケットで知り合いになりました。

有機栽培と一口に言っても、肥料や種に何を使うかによってもかなり違ってきます。私は昔ながらの野菜が好きなので、固定種・在来種の野菜をいただいています。おいしいですし、種取りができる品種のほうがサステナブルだと思います。

 

マーケットで入手した固定種の人参と野生のミカン

 

大田さん:でも種とかって表示されてないのでは?

 

千田:そうなんです。

野菜に種の種類を表示しているお店は、私が知っているなかでは、「ナチュラルハーモニー」さんだけです。 「F1種(一代限りの雑種)」「固定種・在来種」「自家採種」と種の表示をしています。

マーケットなどで生産者さんから直接買うときにも、種がF1種か固定種かを農家さんに聞いてみるようにしています。

種を買うときにも、カタログや袋に種の種類の表示がないこともしばしば。種の違いのことはあまり知られてないし、生産者さんでも知らない人もいます。種の話をすると興味を持っていただけることもあってうれしいです。種取りができたほうが、農家の方も毎年種を買わなくて済みますし。

 

大田:よくマーケットに行かれるんですね。そういうイベントだと、食べ物にも気を使っている方って多いんですか?

千田:多いと思います。マクロビのお店とか、たくさん人が並んでいますし。

 

大田:私も実はお肉をいただかなくなって10年くらいになるんです。

千田:そうなんですか。実は私も1年くらい前からお肉を食べなくなりました。たしかエコネットワークスでのお仕事だったと思いますが、何トンもの穀物が家畜の飼料になっていることを知り、飢餓に苦しんでいる人がいるのに、と衝撃を受けて。それで食べなくなりました。

その後、お肉は日本人の体には合っていないということも知って。胃の痛みもなくなって、身体の調子がよくなりました。 大田さんはどんなきっかけだったんですか?

 

大田: 私は20代始めに、インドで3年間ほど働いていたんです。インドの生活に強く根付いているヒンドゥー教では牛は神様ですよね。それに触れて、地元の人が持たれている信仰への敬意を払うために、インドにいる間は牛肉を食べないようにしたのがきっかけでした。

その時は肉自体がどうこうというのではなく、単に一緒にいる友人が信じていることに無頓着でいてはだめだしなあといった感じでした。日本に帰国したときは普通に肉を食べていましたし。

 

でもその後、食肉処理場に行く機会があって。そこでは、カットの仕方一つとっても、血の抜き方とかも、全然命を扱っているという感じではなくて。それを見てからは、好んで食べることはなくなりました。

 

千田:そうだったんですか…。連れの知り合いで日本の屠殺場で働いたことがある人がいて、その人も気持ち悪くて肉が食べられなくなったと言っていたそう。処理されたものばかり食べていると、命をいただいているということに、鈍感になりがちですが、こういう話をきくと大切なことを思い出します。

 

大田:牛肉を食べなくなってしばらくして、友人からお肉を生産するには穀物が何トンも使われている話とか、森林の破壊につながっている話などもきいて、理論的にますます遠ざかった節もあります。

ただ、私自身はお肉を食べないけれど、命に感謝してお肉を食べる人たちがいることも忘れちゃいけないと思っていますし、肉を食べる文化を否定する気持ちはありません。

初めてイギリスのパートナーの家族に会いに行ったときに、義父がそれまで自分の広大な草地で飼っていた牛を殺し、私の来訪を歓迎してくれました。

義父は商売としてではなく、好きで牛を3頭飼っていて、広大な敷地に放し飼いにしているんです。クリスマスのときや大切な人が来るときなどに、その中の1頭をご馳走にして、客人に歓迎を表すのが義父のおもてなしの仕方だとパートナーから聞きました。

それこそ我が子みたいに大事に育てた牛に「ありがとう」と言いながら、心から感謝して命をいただく、そんな義父の姿勢を見てからは、肉を食べる、食べないうんぬんという容易思考ではなくて、それぞれの摂理の中でみんなが生きていることもしっかり覚えておこうと思うようになりました。

 

千田:そうですね。単純に肉食は悪と考える短絡思考には注意しないと、と私も思います。

私自身は今ではどうしても食べられないんですが、肉を食べる人を残酷だと思うわけではありません。穀物が多く採れず、肉を食べることでしか生命維持に必要な栄養素を摂取できない地域もあります。そういう地域でなくても、広い場所で放し飼いにして、生きている間は伸び伸びと幸せに暮らせるようにして、食べるときには感謝していただく、という昔ながらの文化には全く抵抗はありません。

ただ、大切な命を食糧として与えてくれる動物を、暗くて汚くて狭い場所に押し込めて、本当は草が好きなのに太らせるためだけに貧しい人から奪った穀物を飼料として与え、人間の都合で薬をばしばし投与して、というような不自然な状態での飼育はひどいなぁと思います。

きっと、畜産農家の人たちも好きでそんなことをしているわけではなくて、やむを得ない事情があるのだとは思いますが。

 

話が変わりますが、私は以前、サステナブルな生活をしようとするとお金がかかると思っていて、今もそう思っている方もいるかもしれませんが、実際には野菜も直接生産者さんから買うとスーパーで買うのとそんなに価格が変わりませんし、市場の価格変動の影響を受けません。

それでも生産者さんに入るお金は仲買を通すより高く確保できます。

私の場合は食べるものにこだわるようになってから病気をしなくなったので医療費や薬代がかからなくなりました。

それから、純粋な自然のものって何にでも使えて、今は、化粧水代わりに有機栽培米で作った天然醸造の日本酒を使っているのですが、高い化粧水よりも肌の調子がいいです。もちろん飲んでもおいしいですよ。

 

大田さん:日本酒ですか、贅沢ですねぇ。

 

千田:呑む方には怒られちゃいそうですが(笑)。

でも、普通の化粧水って、小さな瓶に入って3000円とか5000円とかするじゃないですか。この日本酒ならたっぷり入って1000円以内。その蔵元で稲刈会があって、そこで出会った方に「化粧水として使ってるよ」と教えてもらいました。レモンを漬け込んだり、オリジナルで工夫されている方もいるみたい。

 

大田:昔はそういうものも自分で作っていたんですよね。
サステナブルな暮らしをしようと思うと、昔に戻ってくるんですね、きっと。

 

千田:そうですよね、家にあるもので作っていたんですよね。昔はおばあちゃんたちは、びわの葉やスギナなどを焼酎に漬け込んで、それを化粧水にしていたと聞いたことがあります(*注釈)。サステナビリティを実践すればするほど、昔の生活に戻ってきている感じがしますね。

 

大田:東京でサステナブルな暮らしをするのは難しくないですか?

千田:うーん、狭いですね。将来は、自分でお米もやりたいし、ヤギも飼いたいし。自分の食べるもの、着るものも自分で作れるようになりたいので、そうなると、東京だと狭いですね。

 

大田: バレンシアの隣人や友人は有機野菜を栽培していて、といっても郊外の家に畑を持ち、自家製で野菜や果物を育てるのはバレンシアでは珍しくないんですが、お裾分けにいただいたブロッコリーや豆が本当に甘いんです!

ブロッコリーも豆も、それまでは茹でたものしか食べたことがなかったのですが、いただいたものを生でかじって、その甘さに感動しました。大地の恵みが集結しているんでしょうね。味が全然違いますね。でも、体力的にどうなんでしょう?

 

春のミニ菜園。ルッコラ(左)と菜の花(右)

 

千田:他人様に食べてもらうための作物を有機栽培で作るのは大変かしれませんが。大きさもある程度一定で、収量も安定していないといけないでしょうから。

でも、自分が食べる分を自然栽培するのは全然大変じゃないです。まだ虫に食べられますけど、私が飢え死にするほどは食べませんし(笑)。ちゃんと残しておいてくれます。

畑で自然栽培をしていると感じるのですが、私が育てているんじゃなくて、野菜が勝手に育つんです。

野菜が育つとき、太陽の光を浴びて葉っぱで養分を生み出し、根っこを伸ばして水や養分を自分で吸い上げて、そしてその養分を作っているのは土のなかに無数にいる微生物たちで。私が育てているというよりは野菜たちが自分で育っていっていると思わされます。

無数の生き物たちの営みのおかげで生かされているということに気がついて「生きているだけで幸せ」と思うようになりました。ほんのわずかでも自分の食べるものを自分で作ることで、自分は一人で生きているんじゃなくて、自然の営みのおかげで生かされているんだって実感できるので、これからも続けていきたいです。

 

○  ご自身のことやENWを通して、社会の一員としての、千田さんのこれからの夢は?

千田:まだ模索の中ですが、今を大事にしながら、自分が好きでやっていることがたまたま誰かの役に立ち喜ばれ、それがうれしくて続けてしまう、そういうことを大切にして、そこからの広がりを楽しみにしていきたいです。

仕事とプライベートを分けないのが私の理想です。起きている時間の半分に費やされる仕事の時間なのだから、興味や好きがそのまま仕事につながる、休みの日でもついしてしまうことを仕事にしていきたいです。仕事をしているときも生きている、だから仕事をしているか、していないかで、自分を分けたくないです。

サステナビリティに携わっている人って、それが仕事だと思ってやってない人が多いんです。

例えば、近所でフェアトレードの商品を扱っているお店のお姉さんとお話をすると、本当にいろいろと教えてくれて、でもそれは仕事としてじゃなくて、その商品が大好きで伝えたいことがあるから楽しみながら説明してくれる。彼女にとってはこれは仕事でもあるのだろうけど、仕事と思ってやっていない。

こんな風に、自分自身が好きでやっていて、好きだから能力も発揮できて、それがたまたま誰かの役に立って、うれしくて続けてしまう、それが結果的に世の中の役に立つことにつながっていくというサイクルが、社会にももっと広がっていったらいいなあって思います。

<インタビュー以上>


(注釈*)東城百合子(1978)『自然療法』(あなたと健康社)

 

千田さん、興味深いお話、ありがとうございました!
ご自身のサステナビリティ―の定義から話が広がり、ご出身のりんご農家の現状や国の問題として共有すべき課題の種類、野菜を選ぶ際の種の種類のことなど、多岐にわたるお話しを聞けて、とても勉強になりました。遺伝子組み換え問題や牛乳の問題、広がりを見せる山地酪農の可能性なども研究されているそうなので、その報告も楽しみです。

画もとても素敵でした!

(インタビュアー・大田朋子)

 

 

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