IPCC特別報告書とSDGs 

2018 / 12 / 6 | 執筆者:二口 芳彗子 Kazuko Futakuchi


Photo: “Glaciers and Sea Level Rise” by NASA Goddard Space Flight Center is licensed under CC BY 2.0

今年の10月に韓国の仁川で開催されたIPCC総会で、特別報告書『Global warming of 1.5℃』が公表されました。

2015年に開催された国連の気候変動に関する会議COP21で採択されたパリ協定では、
産業革命前から比べて気温上昇を2℃未満に抑える(可能な限り1.5℃未満に抑える努力)
ことを目的としています。

努力目標とされていた1.5℃に関する初めての報告書と聞き、有志を募って
この報告書の技術要約(Technical Summary)を読み込む勉強会を11月末に開催しました。

その中で、特に興味深かったポイントが3つあります。

まず、持続可能な開発、特に貧困撲滅と不平等軽減という目標と
温暖化を1.5°Cに抑える対策の相互作用について考察している点です。

・1.5℃の温暖化の状況下の方がSDGs達成が多くの面で容易になり、貧困撲滅・不平等軽減の可能性が高まる
・具体的には、SDGs 1(貧困)、2(饑餓)、3(保健・福祉)、6(水・衛生)、12(消費・生産)、14(海洋生態系)、15(陸上生態系)の達成可能性が高まる
・ただし、1.5℃の温暖化でも現状(1℃)に比較すれば貧困撲滅・不平等軽減達成の困難は増す。1.5℃の温暖化は多くの国や生態系にとって「安全」を意味するわけではなく、大きな脅威であることに変わりはない
・1.5℃の温暖化の影響は、特に社会的弱者に対して顕著

また、気候変動適応策・緩和策とSDGsの間の相乗作用(シナジー)と
負の影響(トレードオフ)について、以下のように検討しています。

・SDGsの達成はシステミックな脆弱性を大きく軽減する可能性があり、気候適応対策とも合致する
・気候適応と持続可能な開発のシナジーは特に農業と保健分野で大きく、SDGs 1(貧困)、2(饑餓)、3(保健・福祉)、6(水・衛生)で効果が期待できる
・一方で、気候適応策がSDGsとのトレードオフ、またはSDGs間のトレードオフとなる側面もある。例えばSDGs 3(保健)対7(エネルギー消費)や、2(食糧安全保障)対3・5(ジェンダー平等)・6・10(不平等)・14(海洋生態系)・15(陸上生態系)など
・気候適応の経路で持続可能な開発に正の影響を生み出すには、適応策の選択肢の多様性・包摂的で参加型、審議型のプロセス採用・公平な変革がカギとなる。ただし、不均衡・不平等を是正する再配分の方策が必須となる

出来る限りシナジーを最大化、トレードオフを最小化する選択肢を
多様なステークホルダー参加型で、それも迅速に決定していく。
決して簡単なことではありませんが、そのためにこそ、
この特別報告書がCOP24の開催前に公表されたことが伺えます。

2つ目は、1.5℃目標を達成する排出経路では、エネルギーの移行が必要となる点です。
再生可能エネルギーの割合が大きくなり、石炭の使用が減る経路で、具体的には、

・2050年までに再生可能エネルギー:49-67%、石炭:1-7%
・2020-2050年には、石油が-32~-74%、天然ガスが-13~-60%、CCS:0~460ギガトンCO2の回収・貯留
・電力における炭素強度の急速な減少(電力の脱炭素化)、エネルギーとして利用する電力の増加(エネルギー源の電化)

また、エネルギー需要そのものを減らすことの重要性も繰り返し述べられています。

3つ目は、気温上昇が1.5℃と2℃の場合の影響の違いが数字で示されている点です。

・極端な熱波に頻繁に曝される人数は、1.5℃以内に抑えられれば2℃の場合より4億2000万人減
・夏に北極海が氷結しない状況が発生するのは、1.5℃以内に抑えられれば100年に1回、2℃ならば10年に1回
・海面上昇は、1.5℃以内に抑えられれば2℃の場合よりも0.1メートル抑えられ、2100年の被害者数は最大1040万人以上減
・1.5℃に抑えることで、気候リスクや貧困にさらされる人が6200万~4億5700万人減

といった可能性があると記載されています。

0.5℃の違いで4億5700万人、北極海が氷結しないという異常気象の発生率が
10分の1というのは、大きな違いです。また、海面上昇の影響を特に受けるのは、
沿岸地域や小さな島に住む人々で、1,000万人以上が住む土地を追われずに済みます。

現在ポーランドのカトヴィツェで国連の気候変動に関する会議COP24が開かれています。
すべての国を対象とした「パリ協定」の詳細なルールの採択に向けて議論が行われています。

この実施指針が真に温室効果ガスの削減につながり、SDGsの達成も視野に入れた
野心的なものとなるよう、強く期待しています。

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