「DNA」をどう訳すか?

2018 / 1 / 26 | 執筆者:Masako Maeda


日本企業のレポートなどの翻訳で、ときどき「DNA」という言葉にぶつかります。どういう文脈で使われるかというと、「~こそがA社のDNA」「創業以来、受け継がれているB社のDNA」というように、その企業らしさを表す何かを指してDNAと呼んでいます。

これをそのまま”DNA”と訳してよいでしょうか?

“Corporate DNA”という言葉が、1990年代の終わり頃から英語圏で使われるようになりました。2000年にはForbesに”Changing The Corporate DNA“という記事が載っています。2013年になるとWikipediaにもこの言葉が追加され、過去5年ほどの間にますます広まったようです。

その日本語訳ともいえる「企業遺伝子/DNA」という言葉が、日本でも数年前から広まってきました。人事労務用語辞典では「企業遺伝子」を次のように説明しています:

「長期にわたって企業の組織やそれを構成する人材に共有・継承され、暗黙の前提となっている価値観、信念、行動規範などの体系を「企業遺伝子」あるいは「企業DNA」と呼びます。企業にとっての遺伝子(DNA)とは、いわばその“企業らしさ”。個々の企業のあり方を決定づけ、持続的な競争優位の源泉となる組織文化のことです。」

このように、Corporate DNA/企業遺伝子という言葉が定着してきていることを考えると、「XXXグループのDNA」を”XXX Group DNA”としても問題はないでしょう。しかし、日本語の中で使われるカタカナ英語等を訳すときは、一度立ち止まって本来の意味をもっとも的確に表現する言葉を捻り出そうとするのがプロの翻訳者。過去には次のような案が出ました:

DNA
≒ identity(独自性、本質、アイデンティティ)
≒ defining purpose(存在意義、目指す姿)
≒ lifeblood(活力の源)
etc…

DNAは「自分を他者と区別する特徴」、企業でいうと「自社を他社と差別化する特徴、後代まで継承したいもっとも大切な価値観」です。上記はいずれも文脈にぴったりとはまる表現でしたが、もっともその意味合いに近いと思われるのが identity です。Oxford Dictionariesの定義も両者は近似しています。

DNA
“The fundamental and distinctive characteristics or qualities of someone or something, especially when regarded as unchangeable.”

identity
“The characteristics determining who or what a person or thing is.”

Corporate DNA/企業遺伝子の文脈で「DNA」が使われるとき、現時点では ”DNA” あるいは ”identity” のような言葉をあてておけばよいでしょう。しかし、言葉は意味合いも使われ方も、時代とともに変化していきます。その時々のニュアンスをきちんと理解して、もっとも適した表現を見つける努力が常に必要です。

Photo by Caroline Davis

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