excitement and challenges ~ノボノルディスクCEOのレターから

Novo

企業の報告書にあるトップメッセージに、
読者はどのような期待を持っているのでしょうか。

成果や未達成に終わったことは、
後ろの詳細ページを読めばわかります。

それをどのようにとらえ、今後に生かそうと考えているのか。
未来は誰にもわかりませんが、その船(組織)がどこを目指しているのか、を
知りたいのかもしれません。つまりはその思い。

デンマークに本社を置く世界的なヘルスケア企業
ノボノルディスクのアニュアル レポート2015
CEOからのレターで、多用されているのが
excitement と challenges というキーワード。

excitement は、興奮やワクワク感。
例えば、錦織圭選手とAndy Marie選手のゲームを想像してください。
長いラリーの末、錦織選手がコートサイドからさらに外へ流れるショットを打ち、
長身のマレー選手でも届かなかった時の錦織選手の雄叫び。
身体で表さずにいられない喜び。

冒頭で、

昨年のレポートの私からのレターで2015年は、当社の92年の歴史の中でも
ワクワクすると同時に我々が試される年(exciting and challenging year)に
なるだろうと言ったが、まさにその通りであった。今にしてみると、
わくわくする理由は多くあった。また、ほぼすべての課題に首尾よく対処できた。
(弊社抄訳)

と述べ、そして続く段落で、自分たちが成し遂げた多くの新薬パイプラインの
実績をexcitement と呼び、詳細に述べています。

では、challenges については? 価格交渉が難航し、例えばある薬品の
ドイツでの販売を中止するという苦渋の決断をしなければならなかったが、
提案された価格に合意すれば、糖尿病に苦しむ人々のための革新的な研究開発
ができなくなる恐れがあった、とあります。

達成できた業績を喜び、課題に粘り強く取り組み、必要であれば
しっかりとした根拠を持って決断する。そのような組織トップの率直さが
この2つのキーワードを使ってうまく表現されています。

組織代表のコミットメントや特集は、特にライターも力が入っていますので
世界の動向やインパクトのある英文表現を把握する1つの方法として有効です。

裏を返せば、日本企業のレポートもこのセクションが注目されると言うこと。
英語版のレポートもそのような認識で作り込んでいく必要があります。

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東日本大震災とGreat East Japan Earthquake

bird
3月11日、東日本大震災の発生から今年で6年を迎えます。

過去6年間、多くの組織や企業が復興に向けて
さまざまな活動を行ってきました。
取り組みの内容は、Webサイトや報告書を通じて外部に発信され、
その一部は英語などの言語に翻訳されて海外に紹介されています。

私自身も、環境への取り組みに関する記事やCSRレポートの英訳に
日々取り組む中で、東日本大震災に関する文章を目にする機会が
これまで多くありました。

東日本大震災の英語の公式名は、Great East Japan Earthquake。
政府が日本語の名称を「東日本大震災」と定めた後に、
外務省の記者発表等でこの表記が使用されるようになりました。

以前、米国人の翻訳者から、Great East Japan Earthquakeではなく、
2011 earthquake and tsunami in Japanのように別の言葉で表現したい
と言われたことがあります。英字メディアではそのように報じられる
ことが多いから、というのがその理由でした。

発生直後の2011年4月、ニューヨーク・タイムズは
日本政府が発表したGreat East Japan Earthquakeという
表記を用いて記事を出しています。
ただ、現在までのアーカイブを検索すると、公式名でのヒットは16件、
2011 earthquake and tsunamiでは227件の用例が見つかります。
BBCなど他のメディアでも同様の傾向がみられます。

そして昨年末、元ロイター記者のニュージーランド人の翻訳者から、
Great East Japan Earthquakeの使用はできるだけ控えたほうがよいのでは
と改めて助言がありました。Greatという言葉は、この震災が他の震災より
significant(重要)だと示唆するような印象を与えるというのです。

たとえば、2004年12月にインドネシア西部のインド洋で発生し、
22万人の死者・行方不明者を出したスマトラ島沖地震。
この大震災を、英字メディアはIndian Ocean earthquake and tsunami
のように呼んでいます。

これらの大震災が発生した直後の様子を報じるものから、
その後の復興状況を伝えるものまで、記事を追ってみて感じたのは、
Greatを含む固有名詞を正式名称として使い続けるのは、
確かに少し配慮に欠けるのではないかということでした。

地震や津波の規模を形容して、greatが用いられることはよくあります。
ただ、Reconstruction support for the Great East Japan Earthquake
のような表現では、Greatがことさら強調されて見えます。

東日本大震災は、日本周辺における観測史上最大の地震であり、
大きな傷跡を残す大災害であったことは紛れもない事実です。
それでも、日本の出来事を海外に発信する際には、他国で同じように
悲惨な災害を経験した人々が読者となることも念頭に、英字メディアに
見られるような表現上の配慮が必要ではないかと改めて感じています。

Photo by Lyn Gateley

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昇進に潜むリスク~glass cliff

climbing Photo by Alli Day

先月のブログでもご紹介した英オックスフォード大学出版局が選ぶ
Words of the Year。「post-truth」(ポスト真実)のほかにも、
候補リストには2016年を象徴する流行語が並びました。

たとえば「glass cliff」(ガラスの崖)。
「glass ceiling」(ガラスの天井)といえば
女性やマイノリティのキャリアアップを阻む見えない障壁を表しますが、
「glass cliff」(ガラスの崖)とは?

この言葉の名付け親、英エクセター大学の2人の教授は、
2004年に行った調査で、業績不振や危機状況下にある企業では、
男性より女性がリーダー的な役職に起用される傾向が
あることを発見したそうです。

2014年の米ユタ州立大学調査では、実際に
Fortune500にランキングされる企業の女性CEO24人中、
42%が会社の業績不振中にCEOとして起用
されていました。

「glass cliff」(ガラスの崖)は、
女性やマイノリティがやっとガラスの天井を突き破り、
リーダーの役職への昇進に成功したとしても、
危機下の組織を率いることを余儀なくされ、
マネジメントに失敗するリスクが高く、
その立場は非常に危うい、という状況を表します。

業績不振が長く続く組織では、
おのずとトップに注目や関心がいくことになり、
失敗したとなれば批判されやすくなります。

イギリスでは、政府や企業の取り組みにより、
女性管理職の比率が近年上昇している社会背景があります。
FTSEの選出100社の女性役員比率は12.5%(2011年)から、
たった4年間で26.1%(2015年)に急上昇しました。
「glass cliff」という言葉は特に、
このような立場にある多くの女性の共感を得ているに違いありません。

「glass cliff」に潜むリスクを知っておくことで、
業績がどのように改善したのかを評価する際に、
女性やマイノリティに対する性差別や偏見を避けることができそうです。

同時に、昇進後のサポート体制の整備も必要です。
今後ますます女性の活躍が広がっていくなか、注意しておきたい言葉です。

(リサーチャー 佐原理枝/Rie Sawara-Cermann

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Corporate Internal Carbon Pricing(社内炭素価格制度)

CDPSource: CDP

炭素排出量に対して価格を付ける炭素価格制度(carbon pricing)。
国や自治体による排出量取引制度や炭素税などのほかに、
企業が社内炭素価格制度を導入する例も増えてきています。
これは、温室効果ガスの影響(外部費用)を内部化するために、
企業が自発的に社内炭素価格(internal carbon price)を設定するものです。

CDP(企業や都市の環境情報の測定・開示などを行う国際的非営利団体)が
2016年9月に発表した報告書によれば、情報を開示した5,759社のうち1,249社が
社内炭素価格制度を実施または検討しています(2015年比で23%増)。

例えば、フランスの大手金融機関ソシエテ・ジェネラルは、2011年に
社内炭素税(internal carbon tax)を導入しました。現在、その額は
排出量1トン当たり10ユーロ。「税金」として収集した資金は社内の省エネ活動の
支援に活用され、建物、情報技術、紙、輸送、廃棄物などの分野での活動を通して
年平均で一般諸経費を1,300万ユーロ、CO2を4,700トン削減し、
平均30 GWhの節電を実現しています。

マイクロソフト社では2012年から社内炭素課金制度(internal carbon fee)を
実施しており、2016年11月の報告書によれば、これまでに以下の成果をあげています。

  • 900万mtCO2eを超える排出削減
  • 1,400万MWh(1万4,000 GWh)を超えるグリーン電力の購入
  • 各国で地域に根ざしたカーボン・オフセット事業の支援(700万人以上に影響)

社内炭素価格制度には、こうした目に見える短期的な利点に加えて、

  • 国や自治体が将来導入する可能性のある排出量取引制度や炭素税に備える
  • 社内の環境意識を高める
  • 低炭素技術の革新を促す(市場機会の開拓につながる)

という、長期的な側面もあります。

業界や地域によって導入数や規模には差があるものの、
企業が自らこうした取り組みを進める例が増えつつあるのは、
気候変動という課題の重大さ・深刻さの認識が高まっていることに加えて、
それが機会でもあると捉える企業が増えている証のように思われます。
今後の動きに注目していきたいと思います。

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より良いレポーティングのために~国際基準の研究

globePhoto by Kyle Pearce

CSRに関する情報開示において、多くの企業が共通して取り入れている国際基準があります。

各企業ではこれらの基準に基づいて、
自社の取り組みを報告したり、活動を推進しています。
今回はその一部をご紹介します。

GRIガイドライン(Global Reporting Initiative Guidelines)
UNEP(国連環境計画)の公認団体であるGRIが、
サステナビリティに関する指標をまとめた世界共通のガイドライン。
多くの企業が報告書の作成にあたりこのガイドラインを参照しています。
最新版は2016年10月発行のGRIスタンダートです。

ISO 26000
国際標準化機構による社会的責任に関する国際規格。
認証を目的としないガイダンス規格で、使用は任意とされていますが、
社会的責任を組織の運営に取り入れるための手引きとして多くの企業が参照しています。

国連グローバルコンパクト(UN Global Compact)
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのHPには、
「各企業・団体が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって、
社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための
世界的な枠組み作りに参加する自発的な取り組み」
と説明があります。

「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野で10の原則が設定されており、
やはり多くの団体がその原則に基づいて活動しています。

ビジネスと人権に関する指導原則(Guiding Principles on Business and Human Rights)
こちらでもご紹介しましたが、
ジョン・ラギー教授が定めた枠組みで、
「ラギー・フレームワーク」とも呼ばれています。

法的拘束力はないものの、
すべての企業に適用されるビジネスと人権に関する国際基準で、
各企業はこの原則に沿って行動するよう求められます。

上記のほか、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」や、
COP21で採択された気候変動に関する国際合意「パリ協定」を
自社の活動目標と関連づけている企業も多く見られます。

CSR報告書の英語版制作をご支援する際には、
これらで使われている英語表現を取り入れることで、
グローバル基準に沿った信頼感のある報告書とすることを心掛けています。

各基準の内容の理解はさることながら、
表現という観点からもさらに研究を進めていきたいと思います。

(翻訳コーディネーター/翻訳者 山本 香)

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FSC認証=Environmentally, Socially, and Economically Responsible

FSC2
FSC認証は、FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)が
木材を生産する森林の管理状況(Forest Management:FM)と
林産物の加工・流通過程(Chain of Custody:CoC)を評価し、
その適切さを保証するものです。

FSC製品として販売するためには、FM(森林管理)認証林の木材を使用し、
CoC(加工・流通)認証を受けたプロセスを経て、作られたもので
ある必要があります。

「FSC認証」と「環境配慮」という言葉がセットで使われることも多く、
環境保全の側面が注目されやすいFSC認証ですが、
その認証基準(FSC Principles and Criteria)は
評価対象が社会的、経済的な便益にかなうものかどうかを
しっかりと見定める内容となっています。

FSCでは森林所有者や森林管理者に適切な対応を求める事項を
以下の「10の原則」にまとめています:

1. Compliance with laws and FSC Principles(法律の順守)
2. Tenure and use rights and responsibilities(労働者の権利と労働環境)
3. Indigenous peoples’ rights(先住民族の権利)
4. Community relations and worker’s rights(地域社会との関係)
5. Benefits from the forest(森林のもたらす便益)
6. Environmental impact(環境価値とその価値への影響)
7. Management plan(管理計画)
8. Monitoring and assessment(モニタリングと評価)
9. Maintenance of high conservation value forests(高い保護価値)
10. Plantations(管理活動の実施)

これを見ると、森林の「環境保全」について直接謳っているのは
原則6の一つのみで、他の項目はいずれも何らかの形で
環境だけでなく社会的・経済的な配慮を求めるものです。

このような背景をふまえ、FSC認証を受けた「環境配慮紙」を
”environmentally and socially responsible paper”
と表現することもあります。

FSCは、
環境保全の点から見て適切で(Environmentally Appropriate)
社会的な利益にかない(Socially Beneficial)
経済的にも継続可能な(Economically Viable)
森林管理や生産の仕組みの促進を目指しています。

FSC認証が木材や紙製品のスタンダードになることを願い、
消費者として小さな貢献を続けたいと思います。

●参考
FSC International
FSCジャパン

●関連ブログ
steward = 「管理者」

Photo by Stephen Bowler

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【ご報告】アルク翻訳大賞(実務翻訳部門)の審査結果発表

alc2018
本日1月28日に『翻訳事典2018年度版』が発売されました。

前回の2017年度版の誌上で開催されたコンテストの実務翻訳部門で
出題・審査を担当した結果と講評が掲載されています。

課題として seed library (種の図書館)に関する記事を取り上げました。
非常にたくさんの方が興味を持って取り組んでくださり、
生態系の保全への関心が高いことを実感しました。

どの訳文にも、それぞれきらりと光る表現があり、
その中から大賞1名、翻訳辞典賞1名を選ぶのはなかなか大変でした。

アルク翻訳大賞は、どなたでもご応募いただける翻訳コンテストで、
優秀な成績をおさめた方には、すてきな特典もあります。
(詳しくは、書店などで冊子をお手にとってご覧ください。 )

日頃のトレーニングの成果を試す機会としておすすめします。

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事実と感情を検証する~post-truth, fake news

post-truth
Photo by Mike Licht

英語版の流行語大賞とも言える英オックスフォード大学出版局が選ぶ
Words of the Year
2016年は、post-truth(ポスト真実)が選ばれました。

私は恥ずかしながら、昨年の11月中旬の発表から遅れること約1ヶ月半後、
「ポスト真実」という日本語を目にして初めて
この言葉が選ばれたことを知り、ある違和感を持ちました。

それは、postwar =「戦後」のように本来は
後に置かれたものの「次の、後の」を表す接頭語「post-」が
「真実」の前に置かれたからです。

オックスフォード大学のリリースにその答えが。
20世紀中ごろからこの接頭語は、
‘belonging to a time in which the specified concept has become unimportant or irrelevant’.
(特定の概念がもはや重要ではない、あるいは的外れになった時代に属すること、仮訳)
というニュアンスをより強く持つようになったとあります。

2016年、Brexit (ブレグジット、英国のEU離脱)や
米国大統領選の文脈での使用頻度が急増、「ポスト真実の政治」のように使われ、
世論の形成に客観的な真実よりも感情や個人の信念の方が大きく影響する
状況を示す形容詞
として選ばれたとあります。

ポスト真実 = 真実はもはや重要ではない。
そんな形容詞で語られる時代に必要なのは
情報を見極める力。

具体的かつ客観的な裏付け情報があるか。
関係者それぞれの立場の見解が書かれているか。
提起された問題に対して適切に回答されているか。

そして今同時に必要なのは、
自分の感情を客観視できるか、かもしれません。
世の中にあふれる fake news(嘘ニュース)の
思惑通りの感情を自分は抱いていないか。

激昂は熟慮を阻み、絶望感は思考停止につながります。

言葉はいつも時代を表す鏡。
事実を様々な側面から検証し、自ら抱いた感情がどこから生まれたか、
ひとりの市民として適切な時間をかけて考えたいと思います。

2017年の11月に、もっと希望にあふれる言葉が選ばれるように。

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言葉遊び~英語での効果と翻訳

create
Photo by derrickcollins

先日新聞で、アンジェラ・ダックワースの世界的ベストセラー
『GRIT: The Power of Passion and Perseverance』の
一面広告を見かけました。
邦訳の題名『やり抜く力』も見事な訳ですが、
オリジナルの副題がいわゆる語呂合せになっています。

Power(力)、Passion(情熱、熱意)、Perseverance(忍耐)と
Pで始まる3つの単語(3Ps)で構成され、
Grit =「へこたれない根性、勇気、度胸、肝っ玉*」を
きちんと説明できています。

環境分野の翻訳でも、そのような機会があります。
例えば「発電、電力消費、給電」。通常は、

generate, use, and supply power

などのように訳出するのですが、

create, consume, and connect power

と、Cで始まる3つの単語(3Cs)を使って表現することができます。

一方で日本語で語呂合せが多く使われるのが、商品名やキャンペーンの名称。
残念ながら、翻訳してしまうと原語(日本語)の面白みが
なくなってしまう場合がほとんどです。

そのような場合は、商品などの本質的な特徴を表す言葉を使って訳出し、
お客さまのご要望があり、レイアウトのスペースが許せば、
日本語の発音とその説明を添えるようにしています。

使う言葉が変われば、遊びを取り入れるところも変えていく。
英語の言葉遊び3Ps、3Csは、見出しやリード文などで取り入れると、
ネイティブの読者に効果的です。

お客様とご相談しながらになりますが、
2017年も「伝わる」「響く」表現を目指します。

*: リーダーズ英和辞典第2版より引用

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低炭素社会から脱炭素社会へ

decarbonize
Photo by schruff

2016年11月に発効したパリ協定のもと、
世界では温室効果ガス排出量の削減に向けた取り組みが進んでいます。

今回は、地球温暖化や気候変動に関する文章で頻繁に見かける
carbon を使った様々な表現をご紹介し、
そこから見えてくる世界の動向を探ってみます。

まずは「温室効果ガス排出量」。

パリ協定本文では greenhouse gas emissions とされていますが、
同じような意味で carbon emissions と表現されることもあります。

地中にとどまっていた化石燃料を掘り起こし、
それをエネルギー源として使うことで、大気中に放出させるという、
人間の活動にともなう炭素の動きに焦点を当てています。

また、そのような活動による環境への影響を表す表現として、
carbon pollution や carbon footprint があります。

carbon pollution と聞けば、
石炭や石油が燃やされて、煙突からモクモクと煙が上がり、
大気が汚染されていく様子が目に浮かぶようです。

carbon footprint は、
日本語でもカタカナ表記で「カーボンフットプリント」と表現され、
個人や組織の活動による環境負荷全般を指します。
企業の環境報告などでは、
このcarbon footprint がCO2換算され数値として記載されることもあります。

一方で、上記のような影響を少しでも抑えようとする取り組みにも
carbon を使って表されるものがあります。

たとえば、carbon pricing。
炭素の排出量に価格をつけ、
その削減に経済的なインセンティブをつける動きで、
日本語では「カーボンプライシング」「炭素価格制度」と表現されます。

企業でも排出削減の様々な取り組みが行われています。

ユニリーバは2030年までに carbon positive を実現するという目標を掲げていますが、
その内容は、
「自社の使用量よりも多くの自然エネルギーの発電を支援」するというもので、
化石燃料に依存しない企業活動を目指すという方向性を明快に表しています。

ここに挙げたものを含め、
環境関連の文章で見られるcarbonを使った表現には、
比較的新しいものが多いように感じます。

気候変動や地球温暖化という結果ではなく、
まずはその原因である化石燃料に依存した私たちの暮らしに目を向けようという
社会の動きを反映して生まれた言葉だと考えられます。

気候変動による影響が世界の至るところで分かりやすい形で表れている今、
これまでのように low-carbon society (低炭素社会)を目指すのでは生ぬるく、
decarbonized/carbon-free society (脱炭素社会)に向けて
本気で取り組むべきときにきているのかもしれません。

(翻訳コーディネーター/翻訳者 山本 香)

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