馬肉混入事件をめぐる欧州企業・政府・市民の反応

2013 / 6 / 8 | 執筆者:野澤 健 Takeshi Nozawa

Horse meat scandal dominating the front pages
photo by Mikey

アイルランド・英国に始まり、フランス、スペイン、イタリアなど
欧州全土を巻き込む一大スキャンダルとなった「馬肉混入問題」。

アイルランドで英国大手スーパーのテスコなどで販売されていた
牛肉バーガーに馬肉が見つかったことから始まったこの問題は、
その後複数の国で、複数の商品から同様の事例が報告され、
問題の広がりと深刻さが浮き彫りになりました。

生産~加工~販売のサプライチェーンの構造が、
国境を越えて数ヶ国にまたがり複雑化していることが、
問題の解決や対策を難しくしています。

混入による食品の安全性そのものへの影響はないとされていますが、
結果として、消費者のラベル表示に対する信頼は大きく揺らぎました。

一方で、宗教的な事情や、馬肉を食べる習慣の有無など、
(馬を愛し馬肉を食べることを忌避する英国と、
美味として食すフランスやスペインなど)
地域によって消費者の反応や政府・企業の対策が異なったことも、
今回の事件の特徴です。

国を越えて起きた問題が、食習慣や生活環境の違いによって
どのように異なって受け止められているのか。

現地の目線で見てみようという思いから、
フランスとスペインの両国の状況に焦点をあてて、
馬肉混入事件に対する現地企業の取組み事例や消費者の反応、
さらには食の安全・安心への関心について調べてみました。

フランスでは、90年代の狂牛病の問題以降、
牛肉の安全性に対する消費者の意識が高まり、
近年のビオ(有機)ブーム、今回の馬肉事件でさらに
食の安全・安心に対する関心が高まっている状況といえます。

また失業率が高いため、国産を食べる=安全ということに加え、
雇用を守るという文脈でも捉えられている点が特徴的です。

一方のスペインでは、
元々馬肉は食材として高く評価されているという背景があるなか、
経済状況の悪化により生きることに精一杯の生活を送る人々にとって、
馬肉より安価な牛肉や豚肉に混ざっていたとしても
大きな問題ではあまりないようです。

この点に関しては、スペインのバレンシア地方在住の片岡さんから、
現地にいて感じることをレポートいただきましたので、
最後にご紹介します。

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・スペインにおける「食の安全」意識はどのような状況にあるのか。
・国産志向はあるかどうか。

についてお話します。

まず、今回の馬肉混入問題に関しては、
実は他でもないスペイン史上最大の経済恐慌が影響しており、
混入した馬肉の出所はスペインであった可能性が考えられます。

不動産バブルが崩壊し、それに伴って、
その当時、中級階級以上の生活レベルを示すシンボル的なものでもあり、
そういった人たちが単なる趣味やペット、あるいは自分の牧場の
飾り物のような感覚で飼育していた馬の世話が出来なくなり、
手放さずを得なくなりました。

恐慌の当初は少なからず引き取り手もあったのでしょうが、
現在では、行き場をなくし抹殺された馬の数は年間70.000頭にも及ぶのです。

そこで、抹殺された馬肉の闇の取引が誕生してしまいました。

スペインの2012年度の食肉輸出量が、
経済恐慌以前からは想像できないほど驚異的に増加し、
2009年のワインを抜いて対外輸出項目の一位となったのは、
単に、生ハムやチョリソといった豚加工製品の増加によるものだけではなく、
国内で需要がなく余ってしまった、つまり、
非常に安価になってしまった食肉の最大の捌け口が
輸出なのだということが大きな理由です。

労働人口に対する失業率約27%、25歳以下の若者の約57%もの人間が
その日をやっと過ごしている国内で、
今までごく普通の生活をしていた人たちが、
前触れもなく突然解雇され、ローンが払えず家屋没収され、
スーパーマーケットの駐車場や公園で寝起きし、
かろうじて支給される生活保護により生き延びているのです。

国内の肉の消費量は減る一方です。
馬肉だけでなく、羊肉、牛肉の需要もかなり減っています。
必要以上に馬が抹殺されて闇取引が行われていても不思議ではないのです。

では、スペインにおける「食の安全」について考えてみましょう。

馬肉混入問題が発生した段階で、いち早く表明されたのは、
「問題は食品に表示された内容に偽りがあるが、
直接、消費者の健康に害を与えるものではない」
ということでした。

実際にEU各国で厳しい検査をし、スペインの場合、
馬肉混入が認められたのは検査量全体の4%にすぎず、
問題とされた人体に有害となる可能性のある
動物用医薬品フェニルブタゾンについても、
サンプルからは検出されなかったと報告されています。
「サンプルからは」ですが……。

ここで、1つポイントとなるのが、
スペインには馬肉を食する文化があるということです。

その中心は地中海沿岸でもレバンテと呼ばれる地方で、
現在でも馬肉を販売する店が200軒以上あり、
人口約22000人の小さな我が村でも、
知っているだけで馬肉専門店が三軒もあります。

栄養価の非常に高い赤み肉として古くから食用とされている馬肉は、
プロテイン、ビタミン、ミネラルが豊富なばかりでなく、低カロリーなうえ、
コレステロールの低下や貧血治療に非常に良い食品として、
医者が食養生の一案として薦める場合もあり、
牛肉よりも高価な肉でありながらも、
比較的安定した需要のある特殊な食肉でもあるのです。

こういった背景の中、化学物質など、確実に人体に有害である物質ではなく、
高価で栄養価の高い馬肉が、それよりも安価な牛肉や豚肉に混入されていても、
消費者にとってはさほど大きな問題ではないのです。

数年前の狂牛病や豚インフルエンザ、鳥インフルエンザ問題については、
対象となる家畜を全てと殺。品質管理を厳しくし、
国民に対しても正確な情報を提供することによって、
消費者側からもガードを徹底するようにという一連の動きがありましたが、
今回の馬肉混入問題については、不思議なほど、全くフォローがありません。

馬肉が混入していたとされ市場から回収された商品についても、
すでに以前と変わりなく店頭に並べられ、
ハンバーグなど挽肉を使った商品の販売にあたって、
他国のような「馬肉は入っていません!」という文字は見かけられません。

インターネットで、事件後、食品の安全に対する
何らかの動きがあったかどうか検索すると、輸出相手国に対して、
輸出商品の安全についての保証を発行するといった内容の記事を
見かけることはあっても、国内消費者に対する
安全保証対策についての内容は見当たりません。

国産志向はあるかどうか。

これについても、先に挙げた、生ハム、チョリソのように既に
国産としての確実な座を占めるものを除いては、
現状では残念ながら国産志向はないに等しいと言えるでしょう。

確かに、「国産牛肉」「地鶏」「イベリコ豚」といった志向はありますし、
数年前ならば、そういった物を好む人々も多かったのは事実ですし、
今も、そういう消費者対象に、国産を強調した商品が並んでいるのは確かです。

しかし今現在、この経済恐慌の影響を全く受けない、
または多少は受けても生活に影響はないという
経済レベルを確保しているごく少数人口以外、
”生きるために食べる”人がいかに多いか、
察していただけるのではないかと思います。

それほど今、厳しい状況なのです。

消費者として何を食べているのかを知るべきと思う一方で、
自分自身、どこまで知らないふりをして生きていくのか、
考えると不安になることもあります。

本当に、深刻な問題です。
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