「未来に向けた羅針盤になるような仕事をしたい」―無印良品とIKTTの取り組み

2013 / 2 / 6 | 執筆者:chida

この写真の布は、青山にあるFound MUJIで見つけたものです。草木で染めたシルクで、どれも深みがあり、美しく、どれか1つを選ぶことはとてもできませんでした。

作っているのは、カンボジアにあるクメール伝統織物研究所(IKTT)。内戦でバラバラになった「手の記憶」を、ジグソーパズルのピースを集めるようにして繋ぎあわせ、カンボジアの伝統染織を復活させた伝統の村です。私の家の近くに、アジアの途上国で自立支援活動をされている女性がいて、IKTTのすばらしさは彼女から聞いていました。IKTTの布はカンボジアでしか目にすることができないと思っていたので、Found MUJIで見つけたときは驚きました。

なぜIKTTの布がFound MUJIにあったのかというと、無印良品とIKTTでは、「未来に向けた羅針盤になるような仕事をしたい」という共通の志のもと、天然染めのプロジェクトをいっしょに進めているからです。このプロジェクトについて、2012年9月に開催された講演を私も拝聴し、素晴らしい取り組みだと思いました。自分だけではなくいろいろな方にも知っていただきたいと思い、こちらのパワーポイント資料にまとめました。

無印良品では、環境への悪影響だけでなく、生産者の健康被害を抑えるため、オーガニックコットンの製品を積極的に増やしています。無印良品グループの調達会社ムジ・グローバル・ソーシングの達富社長は、世界の綿栽培農家を訪問して皮膚の炎症といった健康被害の写真を撮りためるなど、農薬による問題を会社に訴えてきました。

せっかくオーガニックコットンを使うのなら、染料にも環境と健康になるべく負荷のないものを使いたい。究極的にはそれは草木染めということになりますが、従来の常識では、草木染めは色落ちするもの、値段が高いもの、と考えられ、供給量の安定も合わせて考えると、大手企業での実現は難しいと思われてきました。しかし、化学染料を使わずに済むのなら、染色工程に関わる人たちの健康リスクもなくすことができ、川を汚すこともありません。化学染料のなかには重金属など、身体にも環境にも悪影響を及ぼす物質が含まれているものもあります。達富社長は、どうにか実現できないだろうか、と思っていたときに、IKTTを興した森本喜久男さんの活動を知ります。

森本さんは、かつて京都友禅の職人でした。バンコクの博物館でカンボジアの絣布に出会い、魅了されたのをきっかけに、カンボジアの伝統染織を復活させる活動を始めます。100年前、カンボジアには素晴らしい伝統の織物がありましたが、内戦のなかで消えようとしていました。森本さんは、染色植物の収穫や藍の発酵、糸紡ぎ、染め、織りなど、伝統染織に関わるさまざまな技術を「手の記憶」として持っている人たちを捜し、一緒に昔のやり方を蘇らせるコラボレーションの仕事を始め、IKTTを設立しました。

昔のやり方で染めているIKTTの布は、ゴシゴシ洗っても色落ちしません。100年以上も前の草木染めの布は今も色あせておらず、化学染料よりもはるかに高い堅牢度を持っているのに、今では草木染めは色落ちするものというのが常識化してしまっています。昔は草木染めは色落ちしないのが常識でした。伝統を再生することで、新しい常識を生み出している森本さんとIKTTのみなさんといっしょに、無印良品は新しい物づくりへの挑戦を始めました。

価格を抑えるため、バラの茎や家具の切れ端、ココナッツの殻など、大量に出る天然素材の廃材を染め材に利用。草木染めとは区別して、天然染めと呼ばれています。生産量を安定させるため、上海の染色工場にドイツ製の最新鋭の機械も導入しました。機械に心を込め、手の先にあるもの、すなわち道具に変えるところから始めたそうです。

新しい伝統を作ろう、それが未来のスタンダートとなる―その羅針盤を作るような仕事をしたい。無印良品とIKTTの共通の志で生まれたコラボレーションは、とても新しいと思いました。発展途上国と先進国との間でのコラボレーションと言うと、先進国の“進んだ”技術を上から押し付けるようなものがまず思い浮かびます。無印良品とIKTTのコラボレーションはこれとは異なり、途上国にある素晴らしい技術を教えてもらい、先進国の技術も活かしながら、環境と人にも良い物を循環した形で生み出していくというスタイルです。

第一弾で発売した無印良品の天然染めオーガニックコットンタオルには、世界中のタオル業界から注目が集まっているそうです。私の知り合いで日本中の職人とコラボレーションして草木染め製品を作っている女性からも、彼女がバラで染めたストールを某高級ブランドのデザイナーが気に入って、視察に来たと聞きました。草木染めの製品がここ半年ほどの間に、個人の作家だけでなく、新興の中小アパレルブランドでも見られるようになり、天然染めの波が生まれつつあるように感じています。

天然染めが広がりつつあることは喜ばしく思いながらも、今後、草木染め製品が旧来型の大量生産で作られるようになると、途上国から天然素材を搾取し、それらを利用する知恵を盗むバイオパイラシーにつながる可能性もあるという懸念も感じています。企業の方々には目先の利益にとらわれず、持続可能なかたちで作ってもらいたいと願い、私も含め消費者は今後、天然染めだから環境にいい、とだけ判断するのではなく、染料はどこでどうやって育てられて、生産に関わった人たちがみんな笑顔でいられたのだろうか、といったことも考えながら、正しい判断をしていかなければならないと思っています。

このエントリーをはてなブックマークに追加