その1時間を―プラスと考えるか、マイナスと考えるか

2013 / 4 / 2 | 執筆者:EcoNetworks

photo by Makoto Hazama

以前、Sustainability Frontlineの記事なかでご紹介したクメール伝統織物研究所(IKTT)
創設者の森本喜久男さんが書かれた
カンボジア絹絣の世界―アンコールの森によみがえる村
(日本放送出版協会/2008年1月刊行)を改めてじっくりと読みました。

IKTTでは女性たちが糸を紡ぎ、天然染料で染め、
機織りして絣布を作っています。
女性たちは職場に子どもを連れてきていて、
働くお母さんのそばで子どもたちが遊んだり、勉強をしたりしています。

子どもたちを職場に連れてこない場合に、
例えば6時間を労働に使えるとして、
子どもを連れてきている場合は
面倒をみたりするのに時間を割かれて、
実質の労働時間は5時間程度になるかもしれません。
減ったその1時間を、プラスと考えるか、マイナスと考えるか。

森本さんはマイナスとは考えません。

作り手の心の状態が、布の出来栄えに表れるそうです。
たとえば、森本さんの印象に残っている布のひとつに、
はっとする美しさの伝統柄があります。
織った女性は、その布を織ったとき、翌日に結婚を控えていました。
そのときの気持ちが織った布の艶っぽい美しさになって表れたのです。
以降、同じ柄を同じ女性が織っても、全く同じ艶っぽさは出ませんが、
お母さんの温かみの感じられるものへと変化しているそうです。

子どもを置いてきたら、心配する気持ちが、きっと布に表れるでしょう。
子どもがそばで過ごしているからこそ、
女性たちはベストな状態で製作に打ち込むことができます。
だから、森本さんはその1時間をプラスと捉えています。

本に載っていた写真を見ると、
働くお母さんとそばで過ごす子どもたちの様子は平和そのもの。
あたたかくて幸せな気持ちになる写真でした。

子どものそばにいられるということが、
仕事にとってマイナスではなく、
プラスになることもあると教えてもらいました。
伝統工芸だけでなく、何かを創る仕事にはある程度、
共通して言えることなのかもしれません。

私も子どものころ、りんごの世話をする父と母のそばで
シロツメクサを編んで花かんむりを作ったり、
りんご箱を机代わりに宿題をしたりしていました。
仕事も自然と覚えて手伝えるようになり、
働くということの意味を知らず知らずのうちに
考えるようになったと思います。

ともすれば、仕事の重荷にされがちな子どもの存在。
在宅ワークのように、働きながら子どものそばにいられる環境は、
子どもにとっても、働く親にとっても、実はいいところがある。
IKTTの女性たちを見て、そんなふうに思いました。

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