Interview: 地球の旅人・渡り鳥とその保全

2016 / 12 / 3 | 執筆者:EcoNetworks
“渡りは、地球の異なる場所を巧みに利用して生き延びるという進化の賜物なんです。”

マミジロノビタキとWill
お話:Will Cresswell 教授
セントアンドリュース大学 生物学部

聞き手:菅澤承子日本学術振興会 海外特別研究員 

はじめに

地球上では毎年、何億もの鳥たちが大陸をまたぐ壮大なスケールで旅をしています。たとえば、キョクアジサシという水鳥は、毎年、南極と北極を行き来しています。またアジアでは、数多くの鳥が、春から夏にかけて日本で繁殖し、秋に東南アジアへ渡って冬を越しています。これはテレビの自然番組の中の話だけでなく、東京をはじめとする日本の都市にいても、春の訪れを告げるツバメや、秋のはじまりと共に姿を現すカモなど、実にたくさんの旅鳥たちに出会うことができます。

こうした地球の旅人・渡り鳥は、行く先々の生物多様性において重要な役割を担っていますが、その旅をするという性質ゆえに、ある特定の生息地だけでなく、渡り経路も含めた包括的な保全活動を要します。しかし、追跡の困難さもあって、渡り鳥の詳細な生態はまだよくわかっておらず、現在でも研究が進められています。

異なる国や地域を越えて「渡る」鳥たちの保全に、同じように地域を越えてグローバルに活動する企業にできることもあるかもしれません。ヨーロッパとアフリカを結ぶ渡り鳥の生態と保全について研究を行っている、Will Cresswell教授にお話を伺いました。

インタビュー

渡り鳥とは、地域の自然や私たち人間にとって、どのような存在なのでしょう?

渡り鳥は生物多様性の不可欠な要素です。地球上どこへ行っても、それぞれの地域にいる鳥類の多くは渡り鳥です。たとえば、ヨーロッパで繁殖している鳥では、実にその三分の一以上が長距離の渡りを行い、冬をアフリカで過ごすことが知られています。

また渡り鳥は、私たちのくらしの中にも溶け込んでいます。ツバメは夏の、雁や鶴は冬の訪れを私たちに告げてくれます。季節変化の存在する地球で生きる動物にとって、渡りは、地球の異なる場所を巧みに利用して生き延びるという進化の賜物なんです。

越冬地でのマミジロノビタキ
越冬地でのマミジロノビタキ (c) Will Cresswell

生物多様性と渡りのどのような面に着目して研究を行なっていますか?

私は主に渡り鳥が冬を過ごす地域、とくにアフリカでの渡り鳥の生態に興味を持っています。北半球では古くから鳥類学の伝統があり、何千もの鳥の生態に関する研究がなされてきました。

しかし、鳥類が渡りを行う期間や冬を越す越冬地での生態については、ほんの一握りの研究しかなされていません。例えば、ノドジロムシクイという種の個体群は、なんと一冬で半減してしまったことが記録されています。アフリカで冬を越し、繁殖地であるイギリスに渡ってくるまでの間に、半数が死んでしまったのですが、その原因は未だにわかっていないのです。

多くの渡り鳥が世界的に減少しています。生息地の喪失・気候変動・狩猟・農薬など減少の理由は様々なため、種ごとの研究が必要です。とくに重要なのは、越冬地と渡り経路に注目し、サハラ以南のアフリカにおける積極的な国際協力、特に人材育成を行うことです。私は過去15年間にわたってナイジェリアのAPレバンティス鳥類学研究所(APLORI)で、保全生物学と鳥類学を学ぶ学生の指導に携わっています。当初はたった一人の学生しかいませんでしたが、今では75人以上の卒業生が、アフリカ中の政府や大学、自然保護NGOで活躍しています。

WillとAPLORIの学生たちAPLORIの学生たちとWillさん (c) Will Cresswell

国境や大陸を超えて旅する渡り鳥の保全に企業はどのように貢献できるでしょうか?

最大の課題のひとつは、人々の意識だと思います。保全活動の成功には一般の人々に気にかけてもらうことが必要で、そのためには自然についての知識を持ってもらう必要があります。でも、私たちは徐々に自然界から切り離されつつあります。ひと昔前はみんなが渡り鳥のことを知っていたかもしれないけど、今はiPodにつながれていたら冬を告げる雁の声も聞こえません。

これは、世界中で自然から切り離された都市の人口が増え続けている現在、さらに重要な課題です。企業などの組織はこういった現状について一定の責任を持ち、市民が自然の中で時間を過ごし、自然とつながる機会をもてるような支援をしなければなりません。また、自然環境への影響を最小化し、持続可能なやり方で操業していくことも必要です。

国境を越えて保全活動を行なっている組織はありますか?

ヨーロッパの人々にアフリカの環境、アフリカの人々にヨーロッパの環境に関心を持ってもらうために、政府間での気候変動や環境保全に関する合意から、共同研究を行なう研究者間まで、あらゆるレベルにおける保全ネットワークが必要です。

その一例が、最近設立された、陸生渡り鳥研究グループ(MLSG:Migratory Landbird Study Group)です。このグループは、国連の移動性野生動物種の保全に関する条約からの要請を受けて設立され、欧州・アフリカ・アジアの陸生渡り鳥の保全政策に情報提供を行なうため、独立した研究グループとして以下の活動を行なっています。

    • 陸生渡り鳥に関心を持つ研究者と市民の連携を維持する
    • 国際的な共同研究の運営を支援する
    • 陸生渡り鳥の生態についての情報交換を行う場の提供
    • 鳥たちが旅する経路全域にわたって研究を行うための教育・能力構築の支援

渡り鳥の保全は今後どのような方向に進むでしょうか。

まず、これまでの保全活動をより大規模に行なっていくことが必要でしょう。渡り鳥がどこを通って移動し、保全には何が必要かというパズルを解き明かすには、渡り経路沿いの各地域でもっと多くの適切な知識を有した人材が必要です。そして得られた情報を行政に伝え、とくに重要な生息地を保全できるようにしなくてはなりません。

肝心なのは、私たちの研究から見えてくる渡り鳥の雄大な旅をみなさんとシェアし、春一番にやってくるツバメを守り続けていけるようにすることです。個人的には、アフリカまで渡り鳥を追って行き、人口が増え続ける世界に渡り鳥が適応していけるのかどうか、研究し続けていこうと考えています。最近使い始めた渡り鳥追跡装置の開発が進んで、渡り鳥が減少している理由と、私たちに何ができるかを明らかにできる日を、待ち遠しく思っています。

インタビューを終えて

まだまだ謎の多い渡り鳥の生態ですが、それは今後の大発見を期待できるという意味でもあるでしょう。最新の研究をすすめるかたわらで、科学者と一般市民のコミュニケーションを通し、渡り鳥に対する意識を高めて、総合的な保全活動を進めていく必要があるように感じました。

次にツバメやカモを目にした際には、あなたの街に到着するまでの彼らの旅に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

菅澤承子

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