Interview: 設備費ゼロの堆肥化システムを広め、SDGs達成を目指す

2019 / 2 / 4 | 執筆者:岡山 奈央 Nao Okayama

“国内でも海外でも、食品残渣を廃棄物にせず、地域循環させるループをつくり、
お客様のコストダウンに貢献をする。それが我々の「使命」だと思っています。”

お話:楽しい株式会社 松尾康志 代表取締役社長
聞き手:岡山奈央

はじめに

平成27年度の推計によると、日本国内で発生している食品廃棄物は約2800万トンあり、このうち、まだ食べられるにも関わらず捨てられている食品ロスは約640万トンにものぼります。
このような中、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させる」というSDGsのターゲット12.3の実現に向け、真剣に取り組んでいる企業があります。
それが、食のリサイクルループの形成を目指し、行政、企業、大学、農家、消費者などと幅広く連携しながら、食品廃棄物削減に取り組む、福岡県北九州市の「楽しい株式会社」です。

 

インタビュー

1. 楽しい株式会社の特徴について教えてください。

楽しい株式会社は食品廃棄物残渣などの有効活用、資源の循環を目指し、2001年に創業しました。ちょうど食品リサイクル法が施行された時期で、多くの企業がこの業界に参入した年でもありました。しかし、この業界で事業を継続するのは想像以上に難しく、当時は200社~300社程度あった企業も軒並み撤退し、今では数えるほどしか残っていません。
楽しい株式会社も設立当初は私一人で営業をしており、350万円の食品廃棄物を堆肥化する設備を販売していましたが、高額すぎて誰も買おうとはしてくれませんでした。

そこで、何がネックになっているのかお客様目線で真剣に考えた末、設備を「販売」するのではなく、「レンタル」するという方法を取り入れてみることにしたのです。リースにして導入費はゼロ円とし、ランニングコスト等すべて含めた処理費用を現状より抑えることができれば、お客様にとってコスト削減になります。
「買う」より「借りる」ことでハードルを下げる。
「買う」から「借りる」へ、「所有」から「使用」へ、「販売」から「サービス」へ、いわゆるグリーン・サービサイジングの考え方に転換したのです。

それから利用者が一気に増えました。食品廃棄物を焼却するよりリサイクルする方が環境に良いことは明白でも、市場に受け入れてもらうためには、“経済合理性”という視点が必要だった、ということです。

 

2. 仕組みを広げていく上でのポイントは何だったのでしょうか?

設備の提供だけではなく、さまざまな主体を「つなげる」という点ですね。

自治体、外食産業、食品関連事業などから出る生ゴミ(食品残渣)を弊社の設備で堆肥にし、その堆肥を使って農家の方に安全・安心な野菜を作っていただき、その野菜の残渣はまた分解して堆肥に・・・という流れをつくり、一つの地域内でいつまでも循環するようにしたのです。「メリーズシステム」というこの仕組みを利用することで、生ゴミとその処理コストを削減することができ、同じ地域で活動する自治体、団体、農家、住民など、参画者全員が一定のルールと役割のもと、立場に合ったメリットを受け取ることができます。

地域循環と上述のリースのサービスを組み合わせたことで、全国で導入が進み、現在では約25の自治体、約500の事業者様に採用いただいています。


楽しい株式会社のメリーズシステム

また、リースのサービスを広めるにあたり、取り入れたのが以下のようなオーナー制度です。

① 楽しい株式会社が、業務用生ゴミ処理機をレンタルしてくださる顧客を獲得・契約
② 生ゴミ処理機のオーナー様を募り、設備を購入いただき、①の顧客に貸し出す(管理は楽しい株式会社)
③ オーナー様は、食品廃棄物リサイクルに取り組みたい自治体や企業を資金面でサポートしながら、6年間の契約終了までレンタル料の収入を得る

つまり、資金面においても、関心のある主体を「つなげる」ことにより、皆がハッピーになる仕組みを構築したのです。


食品残渣発酵分解装置オーナー制度「Well-being Club

 

これまでは個人のオーナー様に支えられていましたが、近年は大手企業様にも参画いただき、技術の開発・提供、営業、アフターサービス、情報の管理など、より多様な主体による連携強化に向け動いているところです。

 

3. 自治体への導入は、どのように進められているのでしょうか?

全国の自治体への導入が加速化したのは、平成29年度に環境省から北九州市中央卸売市場の青果物残渣処理の実証事業を受託したことがきっかけです。
ポイントとなったのが、北九州市だけでなく、全国の公設卸売市場にも展開しやすい仕組みを考案することでした。公設卸売市場から出る残渣は、自治体により処理のルールや流れが異なり、オンサイト処理やオフサイト集中処理、またはその組み合わせによる処理など、さまざまです。そこで、大学や企業などと連携し、汎用性のある仕組みを考案したのです。

■事業実施体制

■場外・場内(オフサイト集中処理とオンサイト処理の組み合わせ)

北九州市の食品ロス削減に向けた取組み

平成30年度から北九州市でこの仕組みが事業化したのを機に、他の自治体からも続々と視察に来てくださっています。ある自治体では、さまざまな主体を「つなげる」ことにより、1kg当たりの処理費用が現状の半額以下になる仕組みを考案しました。学校給食の残渣処理についても導入を検討してくださる自治体も増えています。成功事例ができると、関係者を説得しやすくなり、導入が進むケースが多いようですね。

 

4. 海外からも問い合わせをいただくそうですね。国内とは異なる難しさはありますか?

現在、JICAのODA案件の実証事業をマレーシアで進めています。北九州市と同規模の仕組みを、高原野菜をつくっているキャメロン・ハイランドというところに導入しようというものです。野菜残渣は水分が多く燃えにくいため、遠隔の埋め立て地まで運んでおり、コスト面で負担となっていました。そのため、水分の多い野菜残渣を処理できる仕組みの構築を進めています。

海外では、焼却処理の費用は国が負担している場合がほとんどです。そのため、事業者よりも、国の負担を減らすインセンティブを考えなければなりません。その上で、事業者の方にもリサイクルの重要性を伝えていきたいと考えています。

また、事業化に進んだ段階のことまで想定することも重要です。事業化に当たっては、コスト構造に経済的合理性がないとなかなか進みません。これは国内も海外も同じですね。

 

5. SDGs達成に向け、今後どのような動きを考えていますか?

SDGsの「2030年までに食品廃棄物半減」達成には、少しずつやっていたのでは間に合いません。これまでバラバラに動いていた多様なアクターが、資源循環という大きな目標に向け協働することが必要です。

メリーズシステムによる処理量は、現状のペースでは、2030年までには30万トン程度。SDGs達成のために国内で設定された1900万トンの1.5%程度の貢献にしかなりません。しかし今後、大手企業との連携を強化することで、50~100万トンの処理を達成できる見込みです。そうなると、数値としては少し大きいですよね。

また海外にも広げていくことで、インパクトはさらに大きくなります。我々のフィールドは”The Earth”。国内でも海外でも、食品残渣を廃棄物にせず、地域循環させるループをつくり、お客様のコストダウンに貢献をする。それが我々の「使命」だと思っています。

 

楽しい株式会社
所在地 福岡県北九州市
従業員数 19 名
創業年 2001 年
北九州エコタウン地域循環圏リサイクルセンターを拠点に、食品廃棄物の堆肥化技術の提供、食品廃棄物地域循環圏形成サービスなどを行う。
北九州市、北九州国際技術協力協会(KITA)、アジア低炭素化センター、北九州環境ビジネス推進会(KICS)、JICA九州などと連携しながら海外展開も積極的に進めており、松尾社長はKICKSの副代表幹事と国際ビジネス部会長も兼任している。
そのほか、学校給食残渣の堆肥化や、地元北九州市を中心に小学校などへの食育活動なども行っている。

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