大田朋子さんインタビュー(第3回目)

2013 / 1 / 16 | カテゴリー: | 執筆者:EcoNetworks

自己との違う向き合い方に気付かせてくれたアルゼンチンタンゴ

(こちらはインタビュー第2回目の続きです。第1回目はこちら

硲:仕事や働き方については、これまで考え方にどのような変化がありましたか?

大田:ドイツやインドにいた頃は、働き方については特に意識していなくて、そのときは、自分のやりたいことをして、自分をより高めてくれる舞台に行きたい、という気持ちでした。いい状態の自分でいられる国や舞台を追求することに熱心で、自分らしい生き方がしたいと思っていました。生き方と仕事を分けるということは昔からしたくなかったので、好きなことを仕事にして、その仕事で成長してそれが自分自身にも返ってくる、という考え方をずっとしていました。その時々で自分らしい生き方や働き方を追求してきた結果として、これまでのようなキャリアを築き上げてきた、という結論になります。

硲:「いい状態の自分でいること」を大事にされていると、プロフィールにも書かれていますが、このことについてもう少し具体的に聞かせていただけますか?

大田:体も心も、調子のいいときと悪いときがありますよね。そういう波が誰にでもあると思いますが、アップダウンのダウンをできるだけ少なくしたいと思っています。自分の状態がどうであれ、ついていないときが絶対にありますが、できるだけ自分の気分がいい状態に保とうとしています。気分がいい状態というのは体の健康が伴っていないとだめだし、食事も、会話も、読書も、仕事も含めて、自分の中にインプットするものやアウトプットするものが自分らしくいないと、人は自分が気持ちのいい状態でいられないと思っています。漠然とした言い方ですが、バランスがいい状態、自分で自分が好きな状態、自分が気持ちのいい状態でいたいと思っています。自分に一番近くで向き合うのは自分なので、嫌な気分になる自分ではいたくないと、すごく意識しています。

硲:今の居住地に選ばれたスペインは、いい状態でいやすい環境だと感じられていますか?

大田:今の自分だと、どこにいってもこの状態をつくり出すと思います。どこの国に行っても自分の環境を整えることに柔軟になりました。

スペインは、気候や、社会的な温度、人のあたたかさや会話の弾み方などが好きです。とはいえ、生まれて初めて地方都市に住むので、いろんな意味で今も挑戦です。例えば、友達をつくるのでも、ここでは時間がかかります。それに今まで住んだところでの友達と別れることに年々淋しさも募ります。でも、やっぱり豊かな考え方をしていきたいという思いがあり、他の国に移住するときは友達とのつながりが切れると考えるのではなく、新しい出会いが広がっていくのだと考え、その時々の友達を常に大事に思えるようでありたいと考えています。プラスもマイナスも受け取っていきたいと思っています。

硲:どこの国に行ってもいい状態をつくりだせるというのはすごいですね。いい状態の自分でいるために、毎日の生活で他に大事にされていることはありますか?

大田:仕事にしても、人付き合いにしても、何にしても、優先順位をはっきりさせて、平たく言うと好きではないことはしない、そのことを好きな人に任せるようにしています。

特に子どもが生まれてからは、仕事をしている自分も、お母さんの自分も、友達といる自分も、パートナーといる自分も、保ちたい自分がいっぱいありました。子育ての時期だからといって、そういういろんな顔の自分をなくしたくなかったので、優先順位をはっきりさせて、自分が苦手で自分以上に上手くやってくれる人がいればその人にとことん任せることで、自分の時間に余裕をもたせました。具体的に言うと、料理は好きで、自分たちの口に入れるものには時間も気持ちもかけるけれど、掃除は人に任せています。その段階で自分にとって優先順位の低いことは、他の人に任せるようにしています。そうすることで気持ちに余裕ができる。もちろん頑張れば自分でもできてしまうのですが、自分の性格的に余裕がなくなると気持ちがすさんでくるので、自分の時間をつくり出すための工夫としてしています。日本だと社会事情もあり、人に任せにくい部分もありますが、私の場合はそうしやすい環境にいることも幸いしています。

任せるということは、自分にとっては大事なことで、任せられるようになったのは成長だと思っています。自分で何でもしようとするのではなく、人に任せられる自分になったのはこの10年くらいのことです。

私のパートナーは会社を経営しながら膨大な仕事をこなしている上に、家事や育児にも積極的に関与します。どこで落ち着きを取り戻しているのだろうと考えたときに、やっぱり随所で信頼できる人に任せているんです。自分だけで抱え込んでいない。任せた相手にどういうフォローをしているかを隣で見ていて学ぶところがたくさんあります。自分の優先順位がはっきりしていないと人に任せられないんです。会社もそうですし、家のこともそうです。心地よく人に任せることを習得すべきだと思い、そういうふうに自分を意識的にもっていきました。

硲:そういうふうにされてきて、今はいろんな立場のご自分のバランスがうまくとれていると感じていますか?

大田:今、そのバランスがすごくいいかなと思います。例えば、家を空けなければいけない出張のお仕事は今はしません。お話をいただくごとに、以前なら辞退した後で「チャンスだったのに」などと思ったかもしれませんが、今は迷いがないです。自分にとって何が大事なのかがはっきりすることで、余計なものが入ってこなくなり、今はいいバランスかなと思います。

硲:迷いがなくなってきたのですね。

大田:年の功もありますね、きっと(笑)。昔はもっとビジネスモードで、今とは優先順位が違ったので。私が20代のはじめからこんな感じだったら、他のことを得られなかったと思いますし、人生においてそういう順番があるのだと思います。

硲:今後は、「仕事や毎日の生活を通して社会をよくすることに自分の時間と意識を使う」と書かれていたのを拝見しました。このように考えるようになったきっかけを教えていただけますか?

大田:会社経営をしている父と1級建築士の母が、プロフェッショナルとしての仕事をしつつ、社会のことにも一所懸命なのを子どものときから見てきました。金曜日の夜にはそういう仲間が家に集まって、土曜日の朝には大人たちが夜中まで続いた話し合いの後にごろ寝しているんですね。今思うと、家族もいるのに、働きながら週末をそういう形で使うのはすごいことだと思います。家族を連れてきている方もいました。仕事もして社会のことをしていくのに家族の理解と協力(共力)がどれだけ大切かということ、今わたしも実感しています。私も当時から、原発への反対デモや国鉄がJRに変わるに際しての活動に出掛けるなど、そういう環境にいたので、社会のために自分自身を使うことは普通だと思って育ちました。

周りにいたそういう大人たちは、キャリアを含めて自分の生活を幸せに送っている人たちばかりだったのですが、彼らは幸せっていうのは自分だけではなくて、周りが幸せでなかったら自分も幸せでない、ということを信じて実行している人たちでした。そういう人たちを見てきて、私自身も、自分は今すごく幸せですが、周りや社会に対して自分ができることに、意識と時間を使って、自分の使えるものをすべて使っていきたいなとすごく思っています。

硲:将来に向けて、他にどういうことを思い描かれていますか?

大田:個人的にしたい挑戦は、小さいことから大きいことまでたくさんありますが、小さいことだと、スペインに来てからはお休みしている、アルゼンチンタンゴを継続することなどです。仕事の面では、今は個人事業の登録をしているのですが、また株式会社の形にもっていくのか、あるいは個人のブランドで国境を越えた仕事をしていくのか、形式をどうしていくかを考えているところです。

ライターの仕事は、言葉のチカラを信じているので、海外からの報道に加えて、自分の媒体を持って、自分が発したいメッセージをどういう形で発信していけるかということを含めて、言葉の力でこれから先をどう切り拓いていくのかを考えています。

また、故郷の大阪の街にしてもらったことへの感謝の気持ちが強く、将来は中長期的に日本に滞在する選択肢も含めてその間に、何らかの形で地元に貢献したいと思っています。その気持ちはずっと強くもっていて、こっちでの子育ての支援でこれはいいと思うことなどを常に意識しています。海外で生活をしながら、これは大阪で、あるいは関西でできるのではないかと発想する思考がいつも働いています。アドバイザーなのか、政治家なのか、どういう形になるかはわかりませんが、何らかの形で、自分を育ててくれた大阪に自分だからこそできる貢献をしていきたいというライフプランを描いています。

◯ 大田朋子さんのプロフィール:
プロジェクトプロデュース&ライター。世界が拠点な生き方&子育て実践中。アメリカ、ドイツ、インド、メキシコ、アルゼンチンの後2011年からスペイン在住。在学中にアイセックを通してドイツでインターン、インド・バンガロールでの外資企業勤務の後、独立。単身中南米に向かい、メキシコでオーガニック輸出会社を共同経営、アルゼンチンでコミックの国際著作権を扱う会社を経営。会社をクローズしたのち、現在はマーケティングコンサルを始めとする複数のプロジェクトをリードしながら、ライターとして「朝日新聞デジタル」「ジャパニーズ・インベスター」「日経オンラインウーマン」「ダイヤモンドザイ」「アルクマガジン」「ソトコト」など日本の媒体多数に執筆活動を行う。共著に『値段から世界が見える』(朝日新聞出版)。

 

◯ ブログ:「世界が拠点な生き方☆世界が拠点な子育て

<お話を伺って>
大田さんとはスカイプでしか話したことがありませんが、いつもエネルギーに満ちていて、オンライン上でもその熱気が伝わってきます。ご本人が話されていたように本当にいつも「マイセルフ」で、細やかな配慮をされた上で意見を堂々と述べられ、ぼくも見習いたいと思っていたところ、このように常に自分でいられるようになったのは世界に出て異質なものに触れたからだということをお聞きして、なるほどと納得すると同時に、何とも言えない感動を覚えました。この一言に、大田さんのこれまでの苦労や努力が凝縮されているように感じました。
1時間のインタビューでは伝えきれないことも多く、特に大田さんの現在の活動についてあまりお聞きすることができなかったのが心残りです。もっと詳しいことは、大田さんのブログや記事でご覧になれます。

(聞き手・硲允)

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