千田智美さんインタビュー(第2回目)

2013 / 3 / 2 | 執筆者:EcoNetworks

*こちらのインタビューは千田さんインタビュー第1回目からの続きです。

 

○  仕事やご自身の生活の向上のために、毎日(定期的に)されていることがあれば教えてください。

千田: 常に感性を研ぎ澄ますことは心がけています。自分がどう感じるか、自分の心の声を耳を澄まして聞くようにしています。それが結果的に言葉の仕事にもつながっているように思います。

 

ある言葉を見て、その言葉から受ける印象、それを使っている人がどういう想いを込めているか、その音からどう感じるかなど、日本語でも英語でも一つ一つの「言葉」をどう感じるかを意識するようにしているので、翻訳では筆者が、執筆では自分が伝えたい真実から離れていないかに注意して、伝えたい想いをのせていけるように努めています。

 

仕事をしていても「こなす」だけではなく、良いことも悪いことも含めてこの仕事は社会にどんな影響を持ちうるか、この仕事を通して社会にどうプラスの影響を与えられるかを考えるようにしています。

 

○  プロフィールで、ご趣味は絵と歌と物書きだと拝見しました。

千田:物書きは、ブログやノートなどにいろいろ書き留めています。歌は聴くのも歌うのも好きで、声にはその人の人間性や年輪のようなもの、気持ちや気分がすごく表れると感じていて、不思議だなぁと惹かれます。

 

大田:私もボイストレーニングを受けたことがあるんですが、歌うと本当に気持ちいいですよね。

 

千田:そうですよね。誰かが曲で表現してくれた世界が、自分では気づいていない美しいものを見せてくれたり、自分では言葉にできない想いを表してくれていたり、そういう曲を歌って、上手に表現できると気持ちがいいです。

 

大田:絵のほうは?小さい頃から描かれていたんですか?

 

千田: 絵は昔から動物や景色などをよく書いていました。最近では姪に水彩色鉛筆を使って「あいうえおカード」を作っています。ブログの背景にしてある絵もその一部です。この前見つけた幼い頃の絵には、両親がりんご畑で仕事をしている姿を描いていました。

 

「あいうえおカード」の中の一枚

 

大田:そういうのって、原風景になってきますよね。

千田:はい、そうだと思います。

 

○  千田さんは「共生社会」や「サステナブル」などのことに意識を高くもっておられる印象を受けています。ご自身にとってのサステナブルな生き方、働き方、またご自身がそれらの言葉から感じておられることについて、具体的に詳しく聞かせていただきたいです。

 

千田:「サステナブルな社会」という言葉は、本当に広い範囲に関わってくるし、ケース・バイ・ケースで判断が違ってくるところもありますが、一言でいうと「生命の環と人の和を壊さない在り方」だと思っています。

 

今は経済的な利益を追求しすぎて環と和を壊していることが多いです。

自然は本来、完全体なのに、人間が経済的な利益や目先の便利さばかり求めて不自然なものを持ち込むから、環が壊れて、回らなくなる、サステナブルじゃなくなってしまう。

畑で野菜を育てたりしていると本当に実感するんですが、自然って人間が壊さない限り完全体なんですよね。私も小さな畑で自然栽培をしていますが、小さな畑の中でさえ、生態系って完結しているってすごく思います。

 

大田: 生態系って完璧に回っていますもんね。人間がしなくてもいいことをするから、回らなくなる。
千田: 本当にそうだと思います。不自然を持ち込む暮らしが、人の和を壊していることも知りました。

例えば今は、安い紙や木材を作るために発展途上国の木を切り倒し、そこで仲良く暮らしていた家族やコミュニティを壊している。間伐材や再生紙、日本の木材を大事に使えば、森を守ることにもなって、そんな悲しいことを起こさなくて済む。

エネルギーだってそうです。一部の人たちの経済的な利益のために、人の和が壊されている、自然の環も壊されている、そしてそれに知らず知らずのうちに私自身も加担している。そういう今の世の中を本当に悲しく思っています。だからもっと、本当のことが知りたいです。

 

○  ご実家は、秋田県のりんご農家だと伺いました。りんごのこと、少し教えてください!

千田: りんごって、もともと果実が小さい植物で観賞用だったんです。農薬が開発された後で品種改良が進み、今のような食べられる果物になりました。だから、今のりんごは農薬があることが前提で生まれたものなので、無農薬で栽培するのは本当に難しいんです。

 

大田:農薬がないと無理ということですか?

千田:りんごはバラ科の植物で、乾燥したところが原産地なので、乾燥した気候ではそのまま育つのかもしれませんが、日本のように多雨多湿の国では特に、農薬を使わずに育てるのはかなり大変です。慣行栽培から自然栽培に転換するのには7~8年の歳月を要すると言われています。オーガニックのりんごの産地を見るとトルコなどが多いですよね。

 

日本では、木村秋則さんという方が初めてりんごの自然栽培に成功されて、木村さんのりんごは「奇跡のりんご」と呼ばれています。大変な苦労をなさってやっと確立した自然栽培の方法を、国内外の農家の方々に惜しみなく教え、自然栽培を広めようとなさっているありがたい方です。

 

大田: 慣行栽培から有機・自然栽培に転換する農家の方々の農産物を購入するなどして、完全に移行するまでを支援・育成するのは、とても大事なことですよね。

 

千田:その通りだと思います。

 

農薬を散布すると母は喘息で苦しみますし、農薬にはかなりのお金がかかるし、両親も本当は農薬なんか使いたくない。それでも大きくないと売れないから肥料を撒く。肥料を撒くと病気や虫が増えるので、ますます農薬が必要になる。大きくて無傷で真っ赤なりんごしか売れないから、肥料も農薬も必要になってしまう。

虫の発生度合いや天候を見極めて農薬がなるべく少しで済むようにはしていますが、生活できるかどうかわからないのでは、有機・自然栽培に切り替えようという踏み切れないのも仕方がありません。

慣行栽培でさえ大変な手間がかかるのに、もっと大変になって安くしか売れないのではとてもやっていかれない。そもそも、農協の防除暦にはこの時期にこの農薬を使いなさいと書いてあり、「国や農協が推奨しているのにどこが危ないの?」という感じです。一番健康に影響があるのは生産者自身なのに実感がわかない。

 

「東京では小さくても傷があっても自然のままに育ったものを求めている人もいるよ」と言っても、農協や市場で、生活できるくらいの値段で買ってもらえるのは慣行栽培でしか育たないりんご。目の前で起こっている現実とは違いすぎています。

有機・無農薬を求める消費者は、確実に増えているとは言え、まだまだごく一部。私みたいなのはよっぽど潔癖な変人だと周りからも思われていますし。

 

大田:私の義父は英国でオニオンファーマーをしています。

彼に関しての記事を書いたことがあって、ひと夏をかけて徹底的に彼の農家人生を取材をしたことがあります。その時に、例えば義父は情報サービス会社と契約し、そこから提供される世界市場の現状や取引価格を参考にすることで、取引先とより優位な交渉をしたり、出荷時期を選ぶといったある意味「強気」な姿勢で農業を経営しているのに驚きました。かつて日本の学校で習った「農家は農協の言い値価格での取引をするのが一般的」という例しか知らなかったからです。

 

千田:わぁ、すごいですね。私もそういうイメージしかありませんでした。

大田:イギリス農業にもEUの共通農業保護政策(CAP)による補償金配布の不公平さや不適切さなど課題はありますが、少なくとも、農家が戦略的な思考をする職業であり尊敬されていて、金銭的にもリッチになる職業だと認識されていることを知り、社会が、農業や農家の人たちに対してそういう認識を持っている社会であるかどうかって案外大事じゃないかなあと思いました。

言い値を受け入れる都合のいい産業であるべきではない、というか。まだ日本には農業に対してのそういう認識ってないですよね。

 

千田:作る側にも買う側にもそういう認識は薄いと思います。

日本だと、食べ物は安ければ安いほどいい、みたいな考え方で。両親も「農家ではとても食べていかれない」が口癖でした。お金がないと気持ちも惨めになってくるものですよね。それに「実家は農家です」と言うと「いなかっぺ、だっせー」みたいな反応をされることがまだ多いです(笑)。イギリスだときっとそんなことないんだろうなぁ。

日本でも『スローライフ』とかが流行るようになってからはそういうことも減りましたが。身体を作っているのは食べ物なのに、私は農業は医療に負けず劣らず大事な仕事だと思っていますが、日本だとまだまだ尊敬されていないですね。食や食を担う農家の人に対して尊敬を持っている、そういう認識を持っている社会であるかどうかって、おっしゃる通り、とても大事だと思います。市民の力でそういう流れを作っていけるといいですね。

 

大田:近年はTPPのことが議論になっていますが、ご実家も影響を受けられているのではないですか?

 

千田:今後、もし日本がTPPを受け入れることになれば、確実に影響があると思います。食料自給率を上げよう、地産地消だと言いながら、なぜTPPなのか。とても矛盾した動きだと思います。

 

(千田智美さんインタビュー第3回目に続く)

 

このエントリーをはてなブックマークに追加